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五周年記念SS   「ありがとう」と僕は笑った   1

其の日、僕たちは“或る街”にいた。

“或る街”と曖昧な記載表現を用いたのは其れが何処の国の領地であったか。何処に所在していたか。なんと云う名の街で誰が管理していたのか、僕が一切覚えていないからだ。多分全く興味がなかったのだろう。僕とは違い、律儀に記録を付けているだろう僕の相方に聞けば、何処に在った街なのか位は分かるかもしれない。とにかく、其の程度の“或る街”での出来事だ。
僕がその“或る街”で鮮明に覚えていることは二つ。一つは街に着いたのが夕刻過ぎであったと云うこと。普段の夕飯時間よりも大分遅い時間に街に着いたものだから、僕のお腹はこの世の終わりだと言わんばかりに悲鳴をあげていた。音が鳴るたびに相方が呆れた様な眼で僕を見て「もう少しで着く」とまじない言葉のように言い聞かせては溜め息をついていた。僕は相方の腕に寄り添うように歩きながら、今食べたいものを並べ立てていた。カンプラ芋のバター焼き、アメマの塩焼き、真赤バンカのパスタ、甘い摘みたてのケラソス、…………こうやって食べたいと感じていた料理を思い出すと、その“或る街”は比較的山間部の街であったようだ。結果から述べると、これらの料理は“或る街”では食べることは叶わなかった。後に、相方が僕だけのために世界で一番美味しい料理を振舞ってくれたが……この話は置いておいて。
僕の“或る街”での思い出、二つめ。其の日、僕らは“或る街”の人々に手厚くもてなされた。
彼らによるサプライズでとっておきの舞踏会。それはかつて訪れた“あの街”と酷似していた。

だから、僕は今更なことに気付いたのかもしれない。

by vrougev | 2010-07-26 23:58 | キセツモノ