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くりすます★まじしゃん   6

空が急速に暗くなっているなという異変にはほぼ誰も気がついていなかった。
ロジェが現場へ向かおうと歩を進めて数歩というときだった。
フィーリが落ち着く歌なるものを十五節ほど歌ったときだった。
どごぉんっっ!!
すごい轟音が落雷と共に鳴り響いた。雷は落ちたのだ。一瞬にして華やかな音楽も稀なるカラクリもキカイも止まる。衝撃で大地も揺れ、人々はきゃぁきゃぁと声を上げて蹲ったり、騒ぎ立てていた。落ちた場所はロジェのいたところから目と鼻の先。そして・・告げられた場所そのものだった。
「馬鹿が・・」
一瞬にしてロジェには何が起こったのかがわかった。分かりたくなくても分かってしまうのだ。歩いているどころではなくなり、出口へと向かって走り始める人の群れを反対に掻き分けながらロジェは目的地へと急いだ。もしも時のため左手には太刀をしっかりと握って。

案の定だ。
ロジェは思った。表向きはスタッフルームと書かれたここから煙が上がっている。よく見れば屋根には大きな穴も開いているし、隣に生えた木々は火花が飛んだせいなのかごぉごぉと勢いよく燃えている。ほぼ半壊といったところの建物の扉を開ける。ぎぃぃっと立て付けの悪いアルミの扉を開けて目に飛び込んだのは曇りのない赤。それはそばに倒れた黒い服の男をじーっと見ていた。
「フィーリ」
声をかけると赤は気がついたようにぱっと顔をあげた。
「ロー君♪」
「なんなんだ、この様は・・」
「落雷跡地♪」
跡地・・確かにそのとおりなのだが・・だ。フィーリだけぴんぴんな様子を見るとどう考えても魔法以外の何物でもないだろう。範囲魔法で落雷。下手をすれば術者だって巻き込まれかねないだろう。
「僕は平気だよ?」
ロジェの声に出さない部分を読み取るのは彼にとっていつものことだ。しかし、それにしても・・。
「やり過ぎだって思ってるの??」
「まぁな」
周りには痙攣しているような黒服がごろごろと転がっている。こんなんでいいものなのだろうか。
「だって・・今日は何の日か・・ロー君は知らないでしょ?」
「聖なる日だということぐらいは知っている」
そこまで知らない世間知らずなどではない。あぁ、知ってたんだ~♪とフィーリは驚いた顔を作った。
「そんな聖なる日に誘拐なんてもくろむのがいけないんだぃっ☆」
びしっとよく分からずにポーズをとるフィーリにすかさず切り返しを入れてやる。
「そんな日に他人に思いっきり迷惑をかけるお前もどうかと思うが」
「だって仕方がないじゃないか・・せ~~~っかくロー君と遊べると思ったのに・・」
「いつものは遊びじゃなかったのか・・」
そっちのほうに驚きだ。じゃあ、いつものはなんなんだと問いただしたい衝動をじっと堪える。フィーリは地面にのの字を連ねそうな目でじっとロジェを見た。
「ロー君は僕のこと嫌い?」
いきなりそんなことを聞かれても困る。少々視線を泳がせた。
「嫌いじゃないが・・どうしたんだ?今日は」
「別にっ、なんでもないよっと。聖なる日に男二人も寂しいなって思っただけだよぉ~だ」
確かにそうだが、それになんだかんだ言ったって仕方がないことなのだろう。ロジェとしてはいないほうがいいのだが・・。
「仕方ないだろう」
とりあえずはこう返しておく。
「まぁね~♪でも、慶之は静羽とらぶらぶだったりするんだろうなぁ・・」
「何か言ったか?」
「なんでもないよ♪ロー君がいればいいもんね~♪」
そういってフィーリは一人扉を開けて外に出ていった。だが、わぁ!!という歓喜に満ちた声の後フィーリはぱたぱたと駆けてきた。
「ロー君、ロー君!!」
そして落ちつくこともなく、はしゃいだ声でこう続いた。
「雪、降ってるよ!!」

by vrougev | 2005-12-25 22:31 | キセツモノ