届かぬ葉に乗せたるキモチ 2
慶之はあんまりお酒が強いほうではない。というのは一般という枠がCIRCLEの中で狂っているだけなのだが、飛鳥やフェンリルのようにはがばがばと浴びるように飲むことはできない。だが飲ませる人がいるわけだ。そのためその夜も記憶が飛びまくっていた。
気がつくと慶之は飛鳥に肩を持たれ部屋の前にいた。
「・・あれ?ここは??」
すっかりどこにいるのか分からずにきょろきょろとする慶之に対してくすりと笑ったのが分かった。
「部屋の前だ。おやすみ」
どさっっと慶之をその場において飛鳥は自分の部屋へと立ち去ったように見えた。
寝ぼけ眼のまま慶之は扉をひねる。がちゃり、と扉は開いた。
真っ暗な部屋にほのかな月明かりだけが差す。いつも冬特有のひやっとした空気はなく、この部屋はどこか暖かい。そう、まるで誰かがいたかのような。
しかし、このときそれには気がつかなかった。
「眠いなぁ・・」
ふらぁっと再びお酒の酔いによる睡魔がやってきた。襲われるままに眠くなり、部屋の明かりを灯すこともなくそのままベッドに倒れこんだ。
ばふっと柔らかい羽毛の布団のなかに顔をうずめる。
・・・そして、気がつく。自分のではない、と。そして、誰かいる。
倒れこんだのをがばっと勢いよく起き上がる。そして、各部屋備え付けである読書灯を灯した。お願いだからこの予感が間違っていますように。
ぱちっ
オレンジに近い暖色の光に照らされたのは、白い光を跳ね返しそうな光沢のあるベッドシーツの上に仰向けで目を零れんばかりに見開く少女。髪は黒で瞳もまったく同じである。
慶之の存在に驚き、何も語句がつなげていない状態のようだ。
慶之の顔にかぁっと朱が上るのを感じた。酔っていたとはいえ、失態どころの話ではない。
同じく語をつなげない慶之が固まっていると、そのただならぬ空気で目を覚ましたのかふわふわとヴァルファーレが横に浮いていた。その目はとても楽しそうである。じっと静羽と慶之を見る。
「あらぁ~慶之ってば静羽押し倒してぇ・・夜這いでもするつもりだったのかしらん?」
夜這い・・夜這い・・夜這い!?
そんなことしません、と弁解しようとヴァルファーレの方を向いたときだった。
下のほうから思いっきり平手が飛んできた。避けられるはずもなく。
打った本人はその大きな黒い目を涙でいっぱいにしていったのだった。
「慶之さん、最低っ!!」
by vrougev | 2006-02-07 01:42 | キセツモノ