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五話   礎の大切さ   10

ロジェは真っ白な世界にいた。白のみの白以外存在しない世界。
「どこだ、ここは」
衝撃を喰らって起きてみればこの様だ。周りに人影どころか気配すらない。
非現実的な世界にでも飛んだのだろうか。
いや、飛ばされたのは冗談にしろ、現実ではないことはあきらかだった。
普段の生活からして白い世界を作り出す必要なんて無いのだから。
そして、ロジェがいたのは溶岩の洞窟だった。マグマが煮えたぎる、暑い場所にいたはずだった。今ここには暑さもなにも感じられない。
死んだ、という選択も考えられなくも無いが、あの状態で死ねるのもすごいとロジェは思う。
さきほどから耳鳴りのように何かの音がする。五月蝿くて仕方が無い。
遠くから響くようなその音は誰かの声のようだった。
ひたすらに続く白い平原。それ以外は見えなかった。
「俺なにしたんだ」
記憶を思い起こそうとしても途中で靄掛かったようになる。
頭が痛い。まるで、記憶なんてなかったかのように。思い出させないかのように。
「とりあえず・・帰らないとか」
何気なくそういって気がつく。
何処にだ。
「・・なくなったんだったな」
帰る場所。そんなものは遥か昔に消えたのだと改めて思い出す。
ロジェのせいで消えたといっても過言ではない。
ロジェが甘く見ていたから。止められなかったから。滅したのだ。
何故、ロジェが旅をしているのか。よく考えればそれなのだ。
ため息をつく。はぁ~という長いため息。
「なにやってるんだ、俺は・・」
時間が経つごとに頭痛がひどくなっていく。眩暈を起こして倒れてしまいそうだ。
耐えられなくなりその場にうずくまる。誰もいない空間にロジェのちっという舌打ちだけが響いた。
頭が割れる。そう表現したくなるぐらいの酷さだ。それと同時に自らの心に言いようの無い空虚さが生まれていくのが分かる。
耳鳴りの音は外部の音を完全に遮断するほどだった。
いつの間にか雨が降っていた。服が濡れている。
此処は何処。俺は何をしている。何がしたい。これはなんだ。
・・・・俺は誰だ。
声がする。誰かの名前を呼ぶ声。鳴り響く不快音の中に見える一筋の助けだ。光である。
「・・・・ん」
誰だ。お前は誰だ。
「・・・てってばぁ」
何故そんなつらそうな声で話す。
そして、光は一瞬のうちに大きくなった。耳鳴りが消え、はっきりとした音でその声は聞こえた。ロジェが聞きなれた、魔術師の声。
「ロー君!!!」
世界がぐるりと反転した。

「・・・フィーリ?」
急激に様変わりした世界で始めに見たものは、ロジェの首に腕を回し抱きつき、ぐったりとしたフィーリだった。
「・・よかったぁ・・ロー君元にもどったぁ・・・」
疲れたような笑みを見せるフィーリ。その顔は青ざめていた。そして、体に腕を回して気がつく。血だ。フィーリの衣が裂け、ぐっしょりと血に濡れている。
「おい!!どうした!?」
「えへへぇ~ちょっと無理しちゃったぁ・・」
その手にはいつもの杖が握られていなかった。向こうに見えるのは黒と白の破片。
見間違うことなく、フィーリの杖だった。そして、ロジェの手に握られていたもの。
フィーリの血に濡れた黒い突剣だった。
刃から流れてきた深紅はロジェの手を染め、地面へと滴り落ちる。
そこでロジェは全ての記憶を取り戻した。
この剣に触れた途端に殴られたかのような衝撃が全身に走ったのだ。
とすると、だ。
「俺が・・やったのか」
その質問にフィーリは微笑で答えた。
「ロー君じゃないロー君がやったんだよぉ・・傀儡されてたんだから」
「俺が、やったんだな」
力なく頷くフィーリにロジェはなんと言っていいのか分からなかった。
俺にも奴の血と同じものが流れてるということがはっきりと分かった。
我を忘れただけでここまでしてしまうとは。
「・・すまない・・」
心からロジェは言った。止血用に自分のシャツを裂き、包帯のように伸ばす。
そして、憎き剣を地面に置き、フィーりを横たわらせる。
「ごめんな・・・」
「大丈夫だよぉ。すぐ良くなるから」
フィーリの顔にはいつもの笑みが戻っていた。

CIRCLE側では丁度彼が帰ってきていた。
一人の少女と白銀の狼、そして輝く角を持った天馬を連れて。
「大地の支柱のこの俺が命じる。ヴァイン、俺の手の内に戻れ」
一言の命令と共に。

by vrougev | 2006-02-18 01:30 | きらきら☆まじしゃん【休止中】