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春告げ草の調べ   3

「ロー君可愛い~♪」
「~~~~~~~~~~~~!!」
人に見られるのは絶対に嫌だ!!と言い張ったロジェのため人目につかない場所を探してのお披露目会。何でこんなことになっているのか・・、もう分からない。
木陰の森と町の境目。まだ生えたばかりの草のにおいが動くたびに香る。そんななかでロジェは着慣れない服だぼっとした袴と、紫紺色に金の刺繍が入った上着。そしてやけに長い黒いメッシュがかった帽子をきるのだった。
不機嫌そうな顔をしているロジェの顔を見て、フィーリは不思議そうな顔をした。
「なんでしかめっ面なの?」
「当たり前だ」
着たくも無い服を無理やり着せられた人が嬉しそうな顔をするほうが変であろう。
「可愛いのになぁ・・」
「嬉しくないぞ、それ」
残念と漏らすフィーリはふとおもむろに何かを取り出した。薄紅色の絹の張られた・・扇。
模様は無く、ただひたすらに色に染まっている。
「では、そんなご機嫌斜めのロー君を満足させてあげましょう♪」
自信たっぷりに立ち上がったフィーリは長い衣を引きずりながら腕を真横に広げる。
そして、扇を開き・・。
「我が出で立ち、我が心、貴女に在りて、貴女ののために舞、貴女のために詠う」
ふわりと扇を上に持ちあげ空をきる様な仕草で立ち位置をずらす。揺れる髪はいつもと色味が違うだけなのに別人のように見える。
そして、もう一度フィーリが何かを唱えるように息を吸ったときだった。
「そんなことしなくても私はここにいますよ」
後ろから聞こえた声は儚げな、そして美しい鈴の音。振り返るとそこには扇と同じ薄紅の衣を纏った女性が立っていた。彼女は笑顔で手を振る。
「お久しぶりです、流浪の鳥」
「久しぶりだねっ♪」
ロー君彼女はね~と紹介するように彼女に手を向ける。
「僭越ながら、私がヴァルファーレ様とフェンリル様に代わりこの地の春を司どらさていただいております。名を佐保と申します」
「本物のお姫様ね♪」
「そんな・・私は純粋に司るものだけです」
少し照れたように頬を赤める様子はとても女らしい仕草といえよう。
「凄いな・・・」
思わずそうつぶやいたロジェに対し、佐保姫は更に顔を赤める。
「いえ・・・」
「ダメだよ、ロー君♪佐保姫は照れ屋さんなんだからぁ♪」
ちゃんと花見酒も持ってきたよぉ♪とどこから取り出したのか分からない酒瓶をフィーリは野に並べる。
「花見といっても花なんて無いだろう」
「いえ、花はあります。そろそろ私も行わなければならないと思っていたところでしたので・・」
そういって袖元から小さな笛を取り出す。そして、それを美しく吹き鳴らすのであった。
と、同時に周りにあった木々の花が徐々に開花し始める。一音一音丁寧に吹かれる音色に乗せて春風が踊る。そしてつられるように木々等もささやく。
そのときは一瞬だったのかもしれない。長い時間だったのかもしれない。
ロジェが再び意識したときには回りは満開だった。
「さっすがぁ♪さてこれで準備もできたっと♪」
酒盛り~♪と叫ぶフィーリにきちんと釘を刺しておく。
「あんまり飲むなよ」
「分かってるってばぁ♪」
糠に釘。暖簾に腕押し。そんなことはよくわかっているのだが。
「佐保姫も飲もぉ~♪」
「でわ、気分だけでも・・」
こうして春の宴は進むのであった。美しき調べ。季節の彩。そんなものを感じるのもまたいいと思いながら。

この後真相を知ったロジェに散々怒られるのことになるのは物語のお約束である。

                                 春告げ草の調べ   Fin

by vrougev | 2006-03-03 01:03 | キセツモノ