若草の中で思うこと。
木陰の午後。
あまりにも陽気が良かったがための小休止。
木陰を作るには十分な若葉を生い茂らせた木の下で二人、普段とはまた違う有意義な午後を満喫していた。
魔法使いはその顔に安らかな笑みを浮かべ、かすかな寝息と共に隣で木にもたれ掛っていた。女性のような長い髪と白い肌を持った青年はすっかり熟睡していた。
その横では、彼を守るようにやはり木にもたれ掛った剣を持った男が本を読んでいる。
あるとき、彼はふと本から目を上げ木陰の隙間からのぞく空を見上げた。
その空には鳥が飛んでいた。群れるはずの種類だったことを覚えている。しかし、一匹だけで鳴きながらその鳥はいたのだった。彼がこれに何を思ったかは分からない。
ただ、小声で何か独り言を言ったのは確かだった。その声に横の魔法使いがう~んと身を動かしたのに彼は「なんでもない」と一言だけ告げ、また本の世界へと視線を戻した。
それからまた暫くの時間が過ぎた。そろそろ日も傾き始める頃だった。その時間になると先刻とは全く逆の様子である。剣士は顔の上に本を載せ、頭を幹の下におき横たわっていた。起きた青年はその剣士をじっと見ていたがやがてくすりと笑うとひょいとその本を取り上げ自らが読み始めた。本をとられたことにより光が眩しかったのか剣士は寝返りを打つように自らの腕を目の上に置いた。
あるとき、彼はふと本から目を上げまっすぐ目の前を見た。
その先には一匹の狼がじっとこちらを見つめているのだった。しかし、その瞳は襲おうなどという獣特有の気質は感じられなくどこか羨ましそうにこちらを見ているだけだった。
彼がこれに何を思ったか分からない。
ただ、小声で何か独り言をつぶやいたのは確かだった。
夜。
「今日ね~、僕ロー君みたよっ♪」
フィーリは笑顔で先を歩くロジェに向かっていった。昼間休みを入れた分、夜に移動するのだった。今日は晴天で星が綺麗に見える。これなら道に迷うこともなさそうだ。
「奇遇だな。だが、違うな」
特に表情も変えず、ロジェは言った。ロジェもまたフィーリを見た。だが、あえて告げることでもないだろう。何故なら・・。
「でも、あれはロー君じゃないよぉ♪だってねぇ~」
その後の二人の声は見事にはもる。その見事な中和にお互いが驚いたほどだ。
「「独りじゃない」」
by vrougev | 2006-05-11 02:49 | キセツモノ