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七話   湖畔の笛吹き王   5

「新田慶之!?」
「そうじゃ。そしてわらわのことはリーヴァと呼ぶんじゃぞ?」
意外な名前が出てくるものだ。要であるCIRCLEの水の支柱が何故こんなところにいるのか。少女はからころと下駄を鳴らしながらロジェに近づいてきた。
長い水色の髪をほぼ頭のてっぺんでポニーテールのように縛り、赤いリボンが花のように見える。少し釣り目の目に、異国の服を着ている。確かキモノだという東のほうにある国の一枚布で出来た服だと聞いたことがあった。前は合わせられ、腰元でベルト・・いや、帯で止まっている。からんころんという心地よい音は目の前で止まる。
ロジェの横でぐったりと眠るフィーリを見て、少女は呆れたような声を出した。
「なんじゃ、フィーリはカナヅチだったのか?」
「あぁ」
ロジェの疲労の原因はぼほ百パーセントの確立で奴が原因であるが、もう改めて怒る気も起きないのである。ロジェのように全くと幼女の姿に似合わないため息を漏らすと再びよく響く音を立ててロジェが必死の思いで破壊した用水路の入り口に立った。
「ふぅむ・・」
「どうかしたのか?」
意味深な声を上げたリーヴァにロジェは尋ねた。彼女は振り返りもせず、言う。
「見るが良い」
リーヴァは手を伸ばした。用水路から一線を越える、と彼女の手は水の中へと浸かった。見間違えではない。彼女が手を元のように引き抜くと、確かにびっしょりと袖の部分が濡れ、水が滴り落ちた。
「強い結界じゃのう・・。慶之が言った通りじゃ。それも音による結界なんて・・」
「音による?」
水を弾くなら水の結界ではないのだろうかという疑問が浮かぶが、魔術師でない彼にとってはわからないものだ。う~、と悩んだ声を上げていたリーヴァはふと思いついたように言った。
「具現化してみるかの?」
「危険度は?」
何気ない呟きに僅かな恐れを感じたロジェは尋ねる。少女らしいえへへっとした笑みで彼女はいうのだった。
「大丈夫!!失敗したとしても半分ぐらいの確立じゃっ」
「やめてくれ」
そんな低確率に賭けられるか。こちらには負傷者もいるのに。
ぴちゃんっ ぴちゃんっ
どこかで水音がする。当たり前か、と思うがその音はあまりにも大きい気がした。用水路の中はよく響く。だがそれにしても、である。
「わらわと慶之、そしてロジェとフィーリ以外にも誰か・・」
「いるな」
ぴちゃんっ ぴちゃんっ ぴちゃっ
正体は分からない。ただ、何かがいることは確かだった。
ぴちゃっ ぴちゃっ ぴちゃっ
遠ざかっているのか。音が段々と遠くなっていく。
ぴちっ ちゃっ ぴちっ ちゃっ
「わらわは慶之に知らせてくる。ロジェはフィーリと共にここにいるのじゃ」
リーヴァはそういうと自らの身を結界の外の湖の中へと飛び込んだ。
「おぃっ!!」
ロジェの制止も聞かぬまま、彼女の姿は水の中へと溶け込んだ。
最後にぴちゃっという目覚めの水音を残して。
「んっ・・」

by vrougev | 2006-06-20 00:03 | きらきら☆まじしゃん【休止中】