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八話   無垢なる形代   1

曇り空。荒れ野原に俺は一人で立っていた。
周りには残骸。今さっきまで動いていたもの達が今はただ崩れ、荒れ野原を飾っている。
俺は空を見上げた。灰色の雲はじぃと俺のことを、俺の行ったであろう事を見ていた。
抜き身の刀は濡れながらも鈍い光を放っている。髪も、服も、全てが濡れて変色していた。
そして、不快な臭いを放つ。俺は僅かに顔をしかめる。
もう片方の手に何かを握っていた。強く握っていたために存在自体を忘れていたのだ。
一体、俺は何をしたのだろうか。
俺はその存在を確認するためにそれを目の高さまで持ち上げる。
握っていたのは髪だった。変色し、凝固した髪の束。
見たくない。
本能的に思う。だが腕は俺の思いとは正反対に持ち上がる。
髪の束は重かった。そして長かった。この先に何が付いているのか。考えなくても分かる。
止めろ。俺にそれを見せるな。
髪の束の先に在るモノ。ぽたぽたと、今だ液体を流している。
虚ろな眼。虚しく空いた穴。紅く、深く。
俺は、俺は、俺は・・・。

「ロー君!?」
朝、道端に見つけた廃墟でロジェはフィーリに呼びかけられて目を覚ました。日はもうとうに高く上った後のようで、差し込む光が眩しい。フィーリは案じるようにロジェの顔を覗き込む。薄茶色の長いツインテールがゆらゆらと揺れる。
「ロー君大丈夫?凄いうなされてたみたいだけど・・」
「あ・・あぁ」
背中には嫌な汗をびっしょりと掻いていた。らしくない、とロジェは思う。普段は夢自体も見ないのに。
「どんな夢だったの?」
「覚えていない」
肝心なところはすっかり抜けていた。一人で荒れ野原に立っていたのは覚えているのだが。
「夢は怖いんだよ?事実になる場合もあるんだからねっ」
「それは稀なる場合だろう」
「そうなんだけど・・」
でもぉ~、と続ける様子のフィーリの言葉を遮ってロジェは立ち上がる。
「水、浴びてくる」
嫌な予感を残しておきたくなかった。夢ごときの予感で振り回されてはたまらない。
「あっ、ロー君!!待って!!一つ聞いていい!?」
「何だ」
ロジェを呼び止めたフィーリはじゃんっ♪と両手に持ったものをひらひらと見せる。明らかに丈の短い女物のスカート。片方はごてごてのフリル、もう片方は際どいまでのスリット。フィーリの表情は真剣である。
「今日、白と黒どっちがいいと思う?上は焦茶のニットのつもりなんだけど・・」
ロジェは長いため息をついた。するとフィーリはむぅ、と頬を膨らませる。
「ロー君だって僕が可愛いほうがいいでしょ?」
「女が近寄ってこないことについては感謝する」
一人で繁華街などを歩くと多くのキャッチが掛かるが、女装したフィーリを傍に置いておくと誰一人として近寄らない。その点においては便利といったら便利なのだが・・。
「ほぅら~♪どっちがいいと思う?」
えっへん、と威張ったフィーリに今度は隠れてため息をつく。答えないと後が後で大変そうだ。正直どっちだっていいのだが。
「・・・白」
「ふ~ん、ロー君フリル派なんだ」
じゃぁ黒は二日後にしよう、と鞄にスカートを押し込む姿は何処からどう見ても女である。
男、というより性別不詳と言ったほうがいいのではないだろうかと思いながらロジェはそっと外に出た。

「ねぇ・・あの男の人が貴方を追っている人なの・・?」
此処とは遠い場所で一人の女が呟いた。隣に座る男は感心したように言う。
「まだ生きていたんだな」
「私・・遊んできてもいい・・?」
女は男にもたれかかる。男は女の頭を撫でた。
「勿論だ。ただ殺しちゃいけない」
「殺しちゃ・・駄目・・?」
そうだ、男は静かな笑いと共に。
「精神を壊せ」

by vrougev | 2006-09-12 20:26 | きらきら☆まじしゃん【休止中】