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栗かぼちゃのタルトのお味は?   1

悪戯とお菓子、そして人ならぬモノが飛び交うハロウィン・ディ。
誰もが普段とは違う装いで夜街を歩く。悪戯か、お菓子か。問いかけ答える。
『幸せな、ハロウィンを!!』
人も、人でないものにも幸せを。

ハロウィンより、一週間前。ロジェとフィーリは一つの街にいた。街中は来週に控えたハロウィンの飾り付けで忙しそうに動いている。あちこちでかぼちゃを見かけ、あちこちで黒い蝙蝠を象った品を見かける。
「ねー、ロー君」
「何だ」
食料を買い込むために立ち寄った食料店で食材を選ぶロジェの袖を引っ張りながらフィーリは上目遣いにねだるのだった。
「かぼちゃのタルト食べたいなぁ♪」
去年のハロウィン、お菓子が食べたいと強請られたロジェは宿で台所を借りて、フィーリにかぼちゃのタルトを作ったのだった。ワンホール丸々フィーリがぺろりと食べるのを見て、げっそりしたのを覚えている。
「あれ、すっごく美味しかったんだもん♪甘くて、とろけて、最後にさくっさくで~♪今年のハロウィンも作ってくれる?」
きらきらと目を輝かせるフィーリにロジェはため息混じりに言った。
「お前・・今どれだけお金ないか分かってるのか・・」
「わかんない♪」
毎日どれだけ作っても平気な顔して平らげるフィーリのおかげで旅をするのがやっとの破産状態なのである。なのに、お菓子など作っている余裕など何処にあるか。
「今年は無理」
きっぱりと断ると今度は非難の声が上がる。
「えー!!ロー君のけちぃ!!」
「けちも何も、お前が普段から食べ過ぎるからだ」
そういって再び品定めに入るロジェ。横ではフィーリがふてくされた様に頬を膨らましているが無視することにする。
「そんな事言ってると、『Trick or Treat』が『Trick or Trick』になっちゃうよーだ」
「選択権自体ないだろ」
『Trick or Trick』、直訳で『悪戯と悪戯どっちがいい?』どっちだって変わらないし、どっちも嫌である。逃げ道なしといったところか。おねだりを続けるため背後から首に腕を回し、ロジェにぎゅーっと抱きつく。
「ねぇ・・・かぼちゃのタルトぉ・・♪」
見ている人たちのほうが赤面するのではないだろうかと言う位ロジェの耳元にその顔を近づけて、女の子の様に甘く囁く。が、しかし。
「後でな。・・そこの人参と、奥にあるりんご、それとごぼうを一本」
「はいよ、毎度あり!!」
もう既にそんなことでは動じなくなってるロジェには効かず軽く流されていく。
「ロー君の馬鹿。こんな時のおねだり位聞いてくれたっていいのに・・」
恨めしく呟くフィーリは暫く拗ねた顔をしていたが、やがて影でにっこりと微笑んだ。

ロジェがこの事に後悔するのは一週間後の出来事である。

by vrougev | 2006-10-10 00:34 | キセツモノ