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栗かぼちゃのタルトのお味は?   3

一方眩暈に襲われているロジェのことなど知らずフィーリは既に街中へと繰り出していた。
ふんだんにフリルを使った真っ白なふんわりワンピースに同じく白いニーソックス。こちらはガーターベルトでつながっているようなタイプ。ヒールが低めの靴に頭にはヘッドレスト。胸元で結ばれた魔法文字の書かれたリボンはロジェのものについていたそれとほぼ同型で、背中には小さな天使の羽根が生えていた。薄茶の髪は秋風に乗って揺れる。
「ねぇ、彼女。僕とお茶しない?」
「今日一日、一緒に遊ぼうよ」
「暇してるんでしょ?いい所連れてってあげるよ」
近くにあったお菓子屋で買った大きな棒つきのペロペロキャンディを舐めているフィーリの周りにはいつものように周りに男の群れが出来ていた。フィーリは特に気にせずそのまま歩き続ける。
「ロー君の馬鹿・・」
悪戯にはそろそろ気がついたかな~と思いを馳せる。一体どんな表情をしているだろうか。
「ねぇ、釣れない彼女!!俺達と行こうぜ!!」
「・・止めてよっ!!」
無理矢理腕を引っ張られ、男の方に引き寄せられる。普段なら何事も無い出来事なのだが今日のフィーリは虫の居所が悪かった。反射条件で発火呪文を唱え、男達の耳元へと放った。
「うわぁっ!!」
ぼんっという音だけの小規模の爆発を起こしそれは消えたが、男達は驚いたようにフィーリを突き放した。
「お前・・魔術師か!!」
「そうだよ♪」
フィーリは笑顔で言った。その笑顔にいつもには無い陰りはあった。そして、とフィーリは続ける。くすくすと意地悪そうに笑って。
「僕、男なんだけどなぁ?」
誰も女とは言ってないし。男達は腰が抜けているようだった。フィーリのほうを睨んでいたり、見開いた目を向けている男達にもう興味はなかった。また再び歩き出す。
そのまま先程と変わらぬ様子で飴を舐める。砂糖の優しい甘さがじんわりと口の中へと広がる。甘い。そうこれは甘いのだ。甘いけど、もっと甘くて美味しいものを知っている。
「僕、食べたいってお願いしたのにぃ・・」
ロジェから言わせれば我侭であるそれは、フィーリにとっては精一杯のおねだりだ。
確かに普段から良く食べるフィーリは人の倍以上の食費が掛かることは承知の上である。それでも食事に今苦労していないのは、ロジェが食事を作ったりしているからだ。一見そういうことには疎そうなロジェだが、真面目な性格なので、自分のことと共に自由奔放なフィーリを支えているほどである。街に寄れば宿に泊まれるようにとお金の管理もきっちりしている。そんなロジェが言うのだから実際お金が厳しいのは事実なのだろう。
街を歩くと色んなものが目に入る。殺気までは焼きたてのパンの香りが漂っていた。今は、何処かの食堂の炒め物の香ばしい匂いが食欲をそそる。
「お腹減ったなぁ・・」
フィーリは一人呟くのだった。心の何所かでロジェを待ちながら。

by vrougev | 2006-10-14 00:28 | キセツモノ