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栗かぼちゃのタルトのお味は?   4

「・・ったく、本当に何処行ったんだ・・」
そんなに広い街でもないのに朝から探して見つからないとはどういうことだ。ロジェは普段は拒絶する服であろう服を着て街を歩いている。まず、服自体が重い。マントだの何だのの装飾品が多すぎるのだ。おまけにロジェが羽織った途端、マントから黒い翼が生えたのだ。昔見た絵本に描いてあったような悪魔の翼。これが更に重さを引き立てている。独りで勝手にぱたぱたと飛べないのに羽ばたくものだから更に邪魔である。道行く子供達は歓声をあげ触りに来るし、そんな子供を蹴散らして進む事も出来ず、その度に止まっては気の済むまで触らせてあげていた。これが疲れる原因の一番かもしれない。まだ昼なのにも関わらずロジェはぐったりとしていた。近場のベンチに腰掛け、天を仰ぐその姿はその格好と違い物凄くみっともないことを承知の上で、だ。
「そこの悪魔さぁん、パンプキンケーキはいかがぁ?」
顔を上げるとそこには猫の耳を付けた女性が立っていた。黒猫・・だろうか。全身を露出の多い黒で着飾っている。手に持つお皿には一切れのケーキがのっていた。そういえば、まだお昼を食べていなかったことを思い出す。いや、別に食べなくても大丈夫だといえば大丈夫なのだが身体には悪い。
「それ、幾らだ」
「幾らだと思うぅ?」
女はロジェに近寄り、その隣に座った。そして、妖艶な笑みで嗤う。
「私込みで、幾らで食べてくれるぅ?」
ロジェは瞬時に悟った。こいつ、娼婦か。普段は傍に引っ付いている奴のお陰でそういう声には掛からなかったのですっかり忘れていた。しかし、昼間から仕事熱心なものだと感心してしまう。
「お前は要らない」
「嘘をつかないでよぉ?男の人はみぃんな欲深いんだからぁ。貴方も・・ね♪」
そう言って無理矢理ロジェに迫る女は臭い位の香水の匂いがした。あまりにも凄くて下手すると気を失いそうである。ロジェはとっさにその女を突き飛ばした。
「んっ、もう・・釣れない人ねぇ」
「黙れ」
ふっと一瞬目を向けた路地から見知った薄茶の髪を靡かせる者が出てきた。ロジェには気づいていないようでそのままふわふわとした様子で何処かへ行ってしまいそうである。ロジェは、フィーリに駆け寄る。向こうから女の声が聞こえるが無視する。元々接点など持ちたくもない。ロジェは少し遠い位置からだったが叫んだ。
「おいっ!!フィーリ!!」
「ロー君?どうしたの?」
ロジェの呼び声に振り向いた少女ならぬ青年は紛れもなく相棒。突然のロジェの登場に驚いたかのようで目を丸くしたのだった。

by vrougev | 2006-10-17 23:34 | キセツモノ