栗かぼちゃのタルトのお味は? 5
「ロー君、どうして此処に?」
まだ拗ねているのか頬を膨らましているフィーリ。今は説明している暇はなかった。後ろからあの女の声が聞こえてくる。
「其の話は後でいい。とりあえず、身体貸せ」
「・・は?」
フィーリの反応は実に正しいものだった。当たり前である。いくら見知った仲であっても急に会って「身体貸せ」はおかしい一言だとロジェ自身も思った。
「ロー君、意味が分からない・・ひゃっ!?」
「少しだけ我慢してくれ」
無理強引にフィーリを背中から抱き、そのフリルで覆われている首筋に顔を埋める。愛しい女の首筋に接吻をして・・・いるように傍からは見えるだろうか。
「(ロー君何がしたいの!?)」
流石のフィーリも驚いているようで、小声で取り乱した声を上げる。
「(娼婦に追われてる)」
重要な部分のみを表わした其の言葉でどうやら分かったようだ。不機嫌そうな元の声に戻る。その心情が、「なぁんだ」なのか「あっそ」なのかは分からない。
「(・・何かしたの?)」
「(ベンチに座ってたら誘われた)」
「(さっすがー、ロー君すってきー)」
其の言葉に毒がある気がするのは決して気のせいではないはずだ。ロジェは埋めたまま深くため息をついた。どうしてこいつはこう・・・。
「(ほらロー君、女の人来たよ。あのケバイ人?)」
「(あぁ)」
前を向くとそこには先程居た女が目を見開き驚愕の笑みで立っていた。何をそこまで驚く必要があるのかどうかしらないが、その様子は怯えているようでもあった。
「悪い。もう居るから」
そう言って再びフィーリを強く抱きしめる。女はそこからこちらを見ようともせず走って何処かへと消えた。自分が誘った男に女(とも限らない)がいただけであそこまでの反応を見せるだろうか。なにはともわれ、この体制から離れなければならない。いい加減男に抱き付いているのはどうかと思うし。
「フィーリ、ありがとう。助かった」
「ロー君のためならこれくらいなんともないよっ♪」
やけに声が明るい。そう、怖い位に。思わずロジェが一歩引こうとして気がつく。
「おい、フィーリ」
「なぁに?ロー君♪」
フィーリは爽やかに笑ったように見えた。後ろに居るロジェにはいまいち分かりづらい。
「いやんっ♪ロー君、そんなに強く抱きしめないでぇ♪」
「黙れ、フィーリ。俺に何した」
離れられない、というか動けない。そんなロジェにフィーリは笑って言うのだった。
「束縛ぅ♪」
by vrougev | 2006-10-19 22:57 | キセツモノ