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番外編   突撃!!新夫の晩御飯!!   後編

オムライスといわれて初めに思いつくのは何色だろうか。卵の鮮やかな黄色。太陽の光によって熟されたトマトの赤でもいいかもしれない。どちらにしろ元気が出るような明るい配色がオムライスの外観であろう。
それが普通で、当たり前だとロジェは思っていたのだが。
「・・・・・これは何だ?」
目の前に置かれた皿に目を向ける。今だ白い煙とも湯気とも取れぬモノが立ち上るものは炭よりも月のない夜空よりも暗く深い色をしていた。上にかかるトマトソースだと思われるものは赤みがかった緑をしている。今日持ち歩いていた食材の中に緑色ものはない。
「オムライスー♪」
邪気のない笑みで「よく出来たでしょ?」と笑うフィーリの目に付かぬ処でロジェは拳を握った。今すぐにでも怒鳴りたい衝動に駆られるが寸で止める。心の中で無心、無心と何度も唱えながらロジェは平静を装って尋ねた。
「フィーリ、オムライスは黒だったか」
「ううん、黄色と赤」
「じゃぁ、何で黒いんだ」
「ほら、イカ墨入れるとオムライスも黒くなるじゃないかぁ♪」
ロー君、イカ墨見た事ないの、と首をかしげるフィーリにロジェは「そうじゃない」と否定する。俺が聞きたいのはそんな事ではない。
「イカ墨を入れたのか」
「い、入れてないよ?」
段々と挙動不審になっていくフィーリにロジェはため息をついた。
「焦がしたんだな」
笑顔を引っ込め急に泣きそうな表情を浮かべながら頷く。次第に潤み始めた目にロジェは更にため息をついた。黒い卵はこれで分かった。焦がしただけならまだいい。食べたくはないが内容が分かっただけましだと思えばいい。問題はこの赤緑のソース。
「ねね、食べて?美味しいと思うから♪」
目にたっぷりと涙をためて言われて断るわけにもいかず、ロジェはしぶしぶフォークを持って真っ黒な卵の端を捲った。中は無事だといいんだがと思いながら捲った途端、度肝を抜かれる事になる。
ギャーッ!!ヴァーッ!!ヤーァ!!
いきなり叫び始めたオムライス封をするようにフォークを力いっぱい刺したロジェはフィーリに向き直る。
「何だっ!!これは!!」
「まだちゃんと炒めきれてなかったのかも・・」
卵焦がしちゃったから、ご飯のほうが焦がさないようにしたんだけど・・と続けるフィーリの言葉を遮りロジェは尚も尋ねる。平静とかいう言葉はどこか遠くに飛んでいった。
「そうじゃないっ!!何でオムライスが叫ぶんだ!!」
「あぁ、マンドラゴラ入れたからだよ♪叫び声を聞くと死んだりするって言うけど、あれデマなんだよね。そういう品種もいるけどこれは安全な奴♪ちょっと五月蝿いけどー」
「ソースには葉っぱを入れたんだよー♪」とフィーリは自慢げに説明を始めた。ソースがやけに緑だったのはこのせいである。だが、もうどうだっていいことであった。ロジェは今だ力なき叫び声を上げ続けているフィーリ作のオムライスを地に置いて、勢いよく立ち上がった。それに驚いたのはフィーリである。
「ど、どうしたの?ロー君!?」
「作り直す」
もう、どうにでもなれという様な心情で一度はしまったエプロンを取り出す。
「初めてなら焦がすなとは言わない。だが、不純物を混ぜるな。オムライスは卵とトマトと米さえあればそれなりの味になる。素人おろか子供にだって作れるものだ。難易度としては高くない。作ろうという心意気は買うが、作って貰った所で迷惑以外の何物でもない。それに・・・」
ここでロジェは一息ついた。
「食べ物に叫ばれたら食べるに食べられないだろう」
「そんな事ないよ!食べようと思えば食べられるってば!!」
此処まで言われても反論するフィーリにロジェは指で示す。
「じゃぁ、食べてみろ」
フィーリはフォークの突き刺さったオムライスの卵を恐る恐る捲る。先程と変わらない断末魔の不協和音が始まり、フィーリは静かにそれを閉じた。
「ごめんなさい。無理です・・」
「分かればいい」
半ば自棄であった。そしてこういう行為が彼が甘いと象徴するところである。
「そこで待ってろ、今から代わりのもの作る」
今日の夕食はオムライス。副菜に魚の塩焼き。無駄に豪華だがいいだろう。
たまにはこんな日もあってもいい。いや、二度とごめんか。
そんな事を考えながらロジェは夜空にフライパンを振るうのだった。

数日後、無事に着いた宿でフィーリは部屋にあるものを持ってきた。
「ロー君♪オムライス作ったのー♪」
前日の悪夢が蘇り身震いをしたロジェだったが、フィーリの手の内にあるものは紛れもなく黄色く、赤いオムライスだった。驚くロジェにあはーと笑ったフィーリは食べてとせがむ。卵を捲った下もちゃんとしたケチャップライスだった。そして、口に含むとちゃんとした優しく甘いオムライスの味。
「美味しいじゃないか」
「でしょー♪僕、頑張ったんだからぁ♪」
フィーリは自慢げに胸を張る一方で部屋の扉の外にいる心優しき少女に頭を下げた。
「・・ありがとう」
「・・今、何か言ったか?」
「何にも言ってないよー♪ささ、食べて食べて♪」

誰一人断末魔を上げることなくお皿のお料理は食べられるのでありました。
「ご馳走様」

あのマンゴラドラは何処から出てきたか?そんな野暮な事は聞いてはいけませんよ♪

by vrougev | 2006-11-23 20:21 | きらきら☆まじしゃん【休止中】