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ローサンに願いを込めて   1

「ねぇ、ロー君♪今日は何の日か知ってる!?」
とある国、とある街にて魔術師は笑顔でロジェに尋ねた。
きらきらと目を輝かせるその笑顔は無邪気であったが裏には必ずといっていいほど何かが隠れている。そんな笑みを浮かべる男には注意しなければならないのだ。
「クリスマスだな。今日は・・イブか」
「そうっ!!だからね・・」
さっと何か物乞うように手を差し出したフィーリにロジェはため息を混ぜて返す。
「ケーキもプレゼントも無いぞ」
「えー!!ないのー?」
「ない」
ロジェははっきりと断言する。ハロウィンでは思い出すと今でもため息がつけるほどに散々振り回されたのだ。自分の事ながら偉いと思ってしまう。
第一、クリスマスを男二人で祝うのに何故プレゼントとケーキを買わなければならないのだろうか。
「新しい洋服欲しいなー。美味しいケーキ食べたいなー。ロー君の意地悪ー」
ジト目で訴えるフィーリは拗ねたように頬を膨らませそっぽを向く。
「洋服はこの間飛鳥に貰っていただろう。ケーキはハロウィンの時に作った。以上」
「あれはあれ、これはこれ♪僕ね、ロングコートが欲しいなぁ♪後ブーツ♪あ、マフラーでもいいなぁ♪可愛いやつ♪」
笑顔であはは、と笑ったフィーリはロジェの腕に縋りより腕を回し、尋ねた。
「ロー君は欲しいものないのー?」
「安定した生活」
いい加減安定した旅をしたいところだ。
腕に抱きつこうとするフィーリを引き剥がし、ロジェは今日自分が寝るベッドに腰掛けた。いい具合のスプリングがぎぃと軋んだ音を立てる。
「んっもう♪欲がないなぁ♪」
ベッドにごろんと横になったフィーリはきゃっきゃと幼子のようにはしゃいで言った。
「もっと欲出さないと、サンタさん来ないよ?」
「サンタ?」
聞き慣れない単語に尋ね直すと、フィーリは驚いたような表情を浮かべた。
「赤い服着たおじさんだよぉー・・って、ロー君ホントにサンタさん知らないの?」
「興味がないからな」
さらりと言うと納得したようで「そういえばひな祭りも知らなかったもんねー」と言われた。フィーリから言わせれば一般常識らしいが、完全に一般から外れた人間に一般常識も何もあるものかと思う。五月蝿いので口には出さないが。
「じゃぁ、夢の中ではサンタさんに会えるといいねー♪」
ふふふっと笑ったフィーリは手短にあったランプを消して布団を被る。
「おやすみ、ロー君♪」
「あぁ、おやすみ」
暫くしてフィーリの寝息が聞こえてきた頃にロジェもサイドランプを落とす。
目を閉じ、一つ深い息を吐く。闇に包まれた部屋の中には何故か鈴の音がした。

by vrougev | 2006-12-21 02:04 | キセツモノ