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葡萄酒の滴る音   1

豪雪。それは天災があるが故に仕方がない事。そう、仕方がない事なのだ。
「「通行止め」ぇ?」
多少声のトーンに違いはあったものの二人の声は見事に被った。吹雪の中、山の麓、雪景色。国土の半分以上が山であるこの国一番の都市での出来事である。
「そうだ、今吹雪だろう。こんなときに山に行こうなんて馬鹿な考え起こすんじゃないよ」
街の門番は呆れたように呟き、しっしと手で払う仕草をした。
「此処以外に国境に通じる道はあるのか」
ロジェが問う。この先の道は唯一この国から公式に出る事のできる門へと繋がる道なのだ。急ぐ事はない。だが、それとコレとでは別である。
「ねぇよぉ、そんなもん。大人しく吹雪が止むのを待つんだな」
「ねぇ、吹雪ってどの位で止むのー?」
今度はフィーリが尋ねる。寒いからか、それとももう癖になったのか。ロジェの腕にぴったりと張り付き、マフラーをしっかりと巻いている。彼の上目遣いも門番には聞かないようだ。「どの位だろうなー」と少し考えた後門番はがはは、と笑いながら笑えない事を言う。
「今年のはしぶといからなー。一週間ぐらいじゃねーか?」

「一週間だってさぁー」
「どうするか・・一週間分の宿代なんてないぞ」
持って三日だ。いや、そこまでいかないか。元々のらくらな生活のため現金はそれほど持ち歩いていないのだ。必要ならばその場で稼ぐ。大体は街に出る野党やら泥棒やらの掃除なのだが、この街にはそういうものがなかった。悪しき心のものが居ないのか、それとも住民が気にも留めないのか。彼らを取り締まる機関すらないのである。
ともかく、お金がなかった。一週間をどうにかして生き延びなければならない。
「野宿?」
「凍死したいのか」
「仲良く心中だと思えばっ♪」
「死にたいなら一人で死なせてやる」
あははー、とロジェの考えも知らず笑うフィーリにロジェは隠れて拳を握る。適当にあしらっていると今度は拗ねたように頬を膨らまし始めた。
「冗談なのに・・・」
「冗談に聞こえないから困るんだ」
ふと、目に入ったのは『パティシエ、急募』の文字。ガラス張りのお洒落な店内にはショーケースが置かれその中には色とりどりのケーキが並んでいるのが見えた。
「洋菓子店か・・」
働けない事もない。独学で得た知識だから間違いだらけではあるが初歩の料理の知恵位ならある。それに『急募』と入っている以上店側も切迫しているわけだ。二人分の宿と食いつなぐ位の時給は出るであろう。ロジェは働ける。しかし、その間フィーリをどうするかが一番の問題であった。放っておくわけにはいかないであろう。
「ロー君が構ってくれない・・・」
横でのの字を書き始めそうな男は一切料理経験がない。ロジェと知り合う以前までは人の好意で食事にありつき生きていたというなんとも運任せな人間なのだ。少し前には叫ぶオムライスと言う食べ物でない食べ物までを作り出している。
「フィーリ」
「・・なーにぃ?」
ジト目でロジェを見上げるフィーリにロジェは言った。
「働く気はあるか?」

by vrougev | 2007-01-28 00:06 | キセツモノ