人気ブログランキング | 話題のタグを見る

葡萄酒の滴る音   4

「凄いじゃないかぁっ♪さっすが、僕のロー君♪何作るの?」
「チョコレート菓子を少々な。で、いつから俺はお前のものになったんだ・・」
「いいじゃないかー♪今は似たようなもんだしー♪」
フィーリの言葉に最早突っ込む気も起きずロジェは疲労のため布団を敷いた床に突っ伏した。戦闘とはまた違った慣れない疲労。
結局有無を言わさずロジェの仕事になったバレンタイン菓子作りは今しがたまで続いていのだ。と言うのも製作案を出すだけでいいのだが菓子と一言に言っても山ほどある。何にするかと悩んでいたところ何気なく読んだレシピにバレンタインにはチョコレートを渡す風習があるらしいという事をロジェは今日初めて知った。
となると客が求めるのはチョコレート菓子だ。横道に反れてもいいが此処は王道を通ったほうがいい。だが、チョコレートと一言に言ってもまだまだ範囲は広いのだ。これからどうやって絞るか悩んで、結局結論が出ずに部屋に帰ってきた。
「チョコレートかぁ・・いいなぁ。僕もロー君のチョコレート食べたいなぁっ♪」
作って作ってー♪と横たわるロジェの身体を揺するフィーリをあしらう力もなくがくがくと揺さぶられる。
「僕のほうはねー、今日も充実してたよっ♪」
「そうか」
「皆ねー、ロー君の噂してたー♪僕は鼻が高かったよっ♪」
「そうか」
「後ねー、恋の相談されたー♪」
正確には勝手に聞いた、のほうが正しい。無理矢理キュレの恋相談役を買って出たのだ。
「・・・・・そうか」
「今の間は何?」
揺さぶる手を止めてフィーリは問う。ロジェは顔を埋めたままだがその声は聞きとれた。
「上手く行き過ぎている気がする」
その通りなのだ。此処に来てから上手く行き過ぎている。作為的、といえるかどうかは分からないが何故だか不自然な感じがしているのだ。
「大丈夫。きっとなんでもないよ」
フィーリは言う。顔は見えないがきっと笑顔だ。
「さて、明日も早いんだしね♪休まなっきゃっ♪」
そう言ってロジェの横でごそごそと就寝準備を始めたフィーリに僅かに顔を上げて言う。
「自分のベッドで寝ろ」

同刻、キュレは自室の鏡の前に立ってじっと見つめていた。映る自分はちっとも可愛らしくない。笑っては見るもののどこかつまらなそうな笑みになってしまう。
「はぁ・・」
ここ数日ずっとぼんやりとしている。理由など分からなかった。いや、違う。分かりたくなかったのだ。彼が来てからずっとその姿を目で追い、想っていたと言う事を。
今日フィーリに言われたことを思い出す。それは間違いなく恋の病だよ、と彼女は告げた。
恋。それがどんなものかと聞かれてもキュレは困るだけだろう。苦しくて苦しくて希望がない闇の中に落とされたような。此処から明るい未来が来るとは考えられない。
第一、相談には乗ってくれたもののロジェには既にフィーリがいるではないか。
異性だが同室で過ごすという事はそれなりの理由があってのことだし、そんな中にキュレが割り込む場所もないだろう。
「・・・・馬鹿」
鏡に映った自分自身に投げる自虐の言葉。そして、ため息。
「私にもう少しだけ魅力があったらな」
「その願い、叶えてあげる」
突然の声。その声は紛れもなくキュレ自身の声であった。弾かれた様に顔を上げると、そこには自分が立っていた。当たり前だ。目の前は鏡なのだから。
しかし、鏡の中に映ったキュレは不敵な笑みを浮かべていた。直感で分かる。それは自分ではない別の何か。彼女は手を伸ばし、キュレの首を掴んだ。
「え?」
間抜けな声。怪しい笑い声。キュレの記憶はそこで途切れた。

by vrougev | 2007-01-31 23:27 | キセツモノ