コイ、焦がれる先に 1
「うわぁー♪緑が綺麗ー♪空気美味しいー♪」
「何処だ・・此処は・・・」
水田と山に周りを囲まれた緑豊かな土地。土の香が風に乗ってやってくる。小さな虫達の鳴き声。
田舎と言う言葉が相応しい風景が広がる中、まるで異世界から来たかのような風情で二人は立っていた。
まるでそこだけ別の空間から切り取り張ったかのように浮いた存在だ。
一人は楽しそうにはしゃぎ、一人は疲れたようにぐったりとしていた。
さて、何故此処にロジェとフィーリがいるだろうか。それは矢張り、フィーリの我侭が原因であった。
『ねぇ、ロー君。僕、美味しい柏餅が食べたいなぁ♪』
フィーリは可愛らしく呟いた後、ロジェの静止虚しく私利私欲のために転移魔法を使ったのだ。
一番美味しい柏餅が食べられる地へ。なんともアホらしい願いである。
人だったら躊躇う事だが世界はそれを聞きいれ、転移してしまったのだから何ともいえない。
そして冒頭の台詞へと戻るのである。
「で、此処は」
「一番美味しい柏餅が食べられる地だよっ♪」
うきうきと楽しそうにロジェの腕にへばり付くフィーリにロジェは呆れと疲れ混じりのため息で訊ねた。
「何で今、柏餅なんだ」
「ロー君ってば、何の日か覚えてないの!?今日は子供の日だよ!!五月五日、男の子の節句でしょ?」
「・・覚えてないな」
冷たく言い放つとフィーリは信じられないと呟いた。旅している身で節句なんて考えるかと言いたいのを堪え、ロジェは天を仰ぐ。見たこともない鳥が飛んでいた。無事に帰れるのだろうか。
「あ、見てみてっ!!村あったよぉっ♪」
彼が指差す向こうには小さな屋根の集落らしきものがあった。ロジェは驚く。人が居た。
「美味しい柏餅食べたいなぁー。餡子もいいけど味噌もいいよねっ♪後はねぇ・・チマキっ!!」
自らを待っているであろう美味しい食べ物の想像を膨らましているのか涎を垂らさんばかりに頬を緩ませている姿は何日も食べ物にありつけなかった人のようだった。因みに朝食はしっかり三杯平らげている。
「・・・俺の記憶が正しければ食べる行事じゃなかったはずだが」
「そんな事は気にしないのっ♪さ、行くよっ♪美味しい柏餅が僕らを待ってるんだからぁ♪」
きらきらとした目でフィーリは村への入り口へ向かおうとした。ロジェも仕方がなくそれに付いて行く。
だが、それは入り口で見事に阻まれた。第一村人が彼らの姿を見て、驚き叫んだからだのである。
「ゆ、勇者様が、予言された勇者様が来たぞぉっ!!!」
初老の男の声は小さな村中に木霊する。
「な、何?」
瞬く間にぞろぞろと現われた村人達に囲まれた二人は身構えるも揃って向けられた視線は懇願だった。
「勇者様、どうか魔物からこの村を救ってくださいっ!!」
by vrougev | 2007-05-05 00:48 | キセツモノ