コイ、焦がれる先に 2
いきなり囲まれて勇者様。半土下座状態の村人達に戸惑いながらもフィーリは尋ねた。
「えっと・・何があったの?」
「勇者様、聞いてくださいますか!?」
「いや・・聞かないと事情掴めないし・・。とりあえず顔上げてください。ねっ?」
すると顔を上げた村人の中から一人の女性が語り始めた。目にはうっすらと涙の膜が張られている。
「この村は丁度今日に当ります子供の日、五月五日に毎年大勢のお客様をお招きし、お祭りを開くのです。代々伝わる子孫繁栄の大切な祭りで御座います。振舞うものは・・」
「あ、柏餅だねっ♪僕それを食べに此処に来たんだー♪」
笑顔なフィーリの発言に村人がまたもやざわざわと騒ぎ始めた。どうやら何か確信に近いものがあるらしい。その様子にぎょっとしているフィーリを制してロジェは「続けてください」と言い先を紡がせた。
「・・祭りでは柏餅を振舞います。伝統であり意味と祈りがあるため外すわけにはいかないのです。しかし・・今年は柏餅が作れぬ状況で・・」
言いにくそうにうな垂れる村民はどれも悲痛な表情をしている。それだけこの祭りが大切なのかが分かる。
「中止しなきゃいけない、って事かー。でも、どうして?」
「柏の葉を取りに行くためには森に入らなきゃいけないのですが、魔物がいて通れないのです」
どうか、と再び土下座しそうな勢いの村人達を収めながらフィーリは小首を傾げ、言う。
「柏の葉が取りにいけるようになれば、柏餅食べさせてもらえる?」
まだ執着しているのか。口と表情に出す事はないが心の中で突っ込んだ。
「勿論!!是非食べていってくださいっ!」
「じゃあ、受けるっ♪いいよね、ロー君?」
満面の笑顔で言われた言葉に黙って頷く。ロジェが嫌だと言ってもきっとフィーリなら受けるだろう。
ロジェに元々選択権などないのだ。ならば危険が及ばぬほうがいい。
「魔物の姿はどんなのだ。人型か、獣型なのか」
それによって戦法は変わる。人型ならばある程度知能があるだろうし、もし知能があるならば交渉だけで片がつく場合もある。最もそんなのはただこちらの願いであるだけで、知能ある故に苦戦を強いられる戦いになるほうが多い。どちらにしろ相手の情報を知っておいて損はない。
「あの魔物は巨大な魚なのです」
女性は言う。
「森の中を魚がぷかぷかと浮かんでおってのう」
「大きな目でぎりりと睨んで、大きな口で吸い込もうとするのー!!」
これは老人と少女。全てを要約するとこうだ。
「空を浮く巨大な魚・・幻覚か?」
首を捻るロジェに対し、フィーリは不敵に微笑んでいた。
「さ、ロー君。魔物退治に行こうか♪最も・・退治するかどうかは別だけどねっ♪」
by vrougev | 2007-05-05 00:49 | キセツモノ