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魔法王国、『滅亡』より第一章   裏切りと想い   第一節

「本当にあの方が……私たちを裏切ったのか!!」
「動揺するんじゃない。マル。今は目の前の敵を」

「飽きた、その一言では不満ですか。ラルトさん」

魔法王国『レウグス』は戦火に包まれていた。何処からともなく現われる歪んだ未知なる敵からの攻撃に傭兵王国『ハイエルラート』に魔法王国は助けを求めるも、彼等が着くころには既に国は崩壊の一途を辿る状況であったと言う。
六人の聖騎士が内の一人、後に大罪の聖騎士『デュランダル』と呼ばれる男の裏切り。
深遠の策士『ガルディレア』と手を組んだ彼は仲間であった聖騎士すらも容赦なく切り倒していった。
全ては魔法王国に眠る『書庫』を手にするため。最もデュランダルにとってはそれすらも暇つぶしに過ぎないのである。魔法王国を護っていたのも、裏切ったのも全て理由はひとつ。長い時間をつぶすため。
そう、彼は死ぬ事などない永遠の命の持ち主であるから。

「ふぅ……。弱いですね、皆さん。これでは暇潰しにもなりません」
白髪の長髪を掻き揚げなからデュランダルは退屈そうに呟いた。足元には数多の残骸が転がっている。
元、仲間だったモノ達だ。最期まで躊躇い迷う彼等をデュランダルは眉一つ動かさず斬り殺した。
共に魔法王国を護ろうと志を共にした仲間を殺す事など彼等にとっては元から無理だったのかもしれない。
モノとなった彼等にデュランダルが浮かべた表情は呆れだった。ため息をつき、残念そうな声音。
「残念です。どんな状況でも剣は揺らぐ事がないようにと教えたはずなのですが」
どいつも所詮、小物だったという訳か。切り応えのない輩達だ、と思いながらデュランダルはまた一歩目的へと歩を進めた。護りに長けた魔法王国も内部からは弱いということか。
長年仕えた国を冷ややかな目で見る。さて次はどんな風に時間を潰そうか、と。
「デュランダル様っ!!」
悲痛を含んだ叫び。その声に聞き覚えがあり、デュランダルは後ろを振り向く。案の定其処には一人の女性が立っていた。彼女はデュランダルの部下である。あった、のほうが正しいか。彼女の名はマルジューク。彼が育てた戦士の中で唯一『陽』の力を操る術を教えた騎士であった。相棒である『陰』の力を使う剣士の姿は無い。鮮やかな褐色の髪は乱れ、鎧から覗く素肌は傷だらけ。
年頃の娘としてはいかがであろう格好で彼女は信じられないと言った目でデュランダルを見ていた。
目線の先は彼の持つ剣。デュランダルは目を細め、ため息交じりに笑って見せた。
「やれやれ、ここまで追いかけてきて何をするつもりですか?」
その剣は仲間の血で染まっていた。雫がぽたぽたと落ちる真実を彼女はまだ受け止め切れないかのように。
「あ、貴方は本当に……。貴方は何故、この国を滅ぼすというのですか!」
「私は君に用はないのです。帰りなさい。ウルグが待ってますよ?」
冷たく突き放したように言うがマルジュークは聞く耳を持たない。大きく首を横に振って叫んだ。
「嘘だっ!!そんなの……そんなのは……」
あぁ、彼女はまだ自分に幻想を抱いているのか。デュランダルは感じた。そして思う。なんてくだらない。
信じたところで現に今裏切っているというのに。何を今更という感じである。
さて、どうやったら彼女を絶望の淵まで落とせるか。デュランダルは微笑を浮かべた。

どうしてこうなってしまったのだろう。何がいけなかったのだろうか。
相棒、ウルグラントには冷静になれと言われた。目の前の敵を倒す事が優先だと。
けれど今、マルジュークの前にいる敵は……。
「マルさん」
マルジュークは声を掛けられ、我に返った。その声音はまるで子供に言い聞かせるような優しいもの。
デュランダルを直視できなかった。いつもと変わらぬ姿なのに歪んでしまった人など見たくなかったから。
「君は実に素晴らしい力と心をお持ちです」
落ち込むといつも自分に言葉を掛けてくれた。そのデュランダルの優しさに何度彼女は救われたことか。
そしてまた彼のために頑張ろうと思えた。信じてくれるのだから。喜んでくれるのだから。
「でも、それが必ず勝利に繋がるとは思わない事ですよ」
初めて彼に『陽』の魔術を教わったときはどれだけ嬉しかったか。たった二人のうちの一人に自分は選ばれたのだと。ずっとこれでデュランダル様のお傍にいられると、素直に喜んだ。
そしてマルジュークは思い出した。あこがれが別な思いに代わるのにそう時間は掛からなかった事を。
目標であり、そして……。考えたって答えはひとつしかないのだ。
「……さぁ、どきなさい」
優しさを消し、底冷えしそうな声音での最終通告。変わってしまったのならば。もう目標でもないならば。
「デュランダル様。私は何と言われようとも貴方をこの先に進める訳にはいきません!」
いっそこの手で消してしまおうではないか。
「進むならばこの私を倒していって下さい!」
いっそ彼の手で消えてしまおうではないか。
「……デュランダル様、お手合わせ願います」
貴方にもらったこの力を使い切り、散るのも幸福な事なのではと思う。
「……死にたいのですか、マルさん」
少し驚いたような声。聞いては駄目。きっと縋ってしまう。きっと泣いてしまう。だから、声を上げた。
「魔道騎士『マルジューク』、参りますっ!!」

by vrougev | 2007-05-08 00:09 | ラヴァート構想曲