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流星のように瞬いて   1

遥か昔、愛し合い結婚した男女がいた。
二人は働き者だったのだが結婚をしたことにより堕落し、お互いの仕事を怠った。
これにより男女は大いなるモノの怒りを買い、女を空へ、男を地上へと引き離された。
二人は嘆き悲しんだ。それを見て大いなるモノは言った。
「貴方達が真面目に働くなら七月七日、一年に一度だけ空と地に渡しましょう」


それはいつもの始まり。
「っていうねー、もうスッゴイ素敵なお話でしょー♪」
「元々働かなかったのが悪い話だろうが」
行く先のない旅の途中での雨宿り。
フィーリが唐突に語り始めた物語に対するロジェの感想は素っ気無いものだった。
何処が素敵で、何処が浪漫なのだかがさっぱりである。素直にロジェがそう告げるとフィーリはいつもの様に頬を膨らませるもどこか楽しそうだ。腕にしがみ付いたままロジェの顔を見上げる。
「ロー君は想像力がないなぁ!!考えてみなよっ!一年間ずっと会えないんだよ?お互いのことを思ってずっと過ごしているんだよ!!凄いと思わない!?」
僕だったらずっと会えないなんて耐えられないよ、とフィーリは笑った。話の意図が見えず首を傾げる。
「凄いとは思うが・・・どうして今そんな話をする」
「もぅ、後四日で七夕なんだってばっ♪」
そういえばもう七月だったか。気温が暑くなってきているわけだ、と今更ながらロジェは思う。
この雨が止めば一気に夏の陽気になるのだろうか。今のうちに水を確保しておかなければならない。
フィーリは尚も話し続ける。
「でね、この辺がその伝説の発祥地なのっ♪だから橋が掛かるならこの辺のはずなんだ♪」
なるほど、だから上機嫌なわけか。
「伝説は伝説だろう。そんな橋が架かるとは思えないが」
自分の目で見たもの以外は信じない。ロジェはそう言う男である。
魔法も呪術も実際に存在する世界にいながらもフィーリと出会うまではこれっぽっちも信じていなかったのだから、伝説などをそう簡単に信じるわけがない。
「伝説は伝説なんだけど・・・見てみたいじゃないかぁ♪」
それに、とフィーリは耳元で囁く。囁きは好奇心で満ち溢れていた。
「あながち嘘でもなさそうなんだよね、この話♪」
「どういう事だ」
咄嗟に反応してしまったロジェはその時激しく後悔した。
フィーリは満面の笑みを浮かべていた。それが意味するのは一つ。
「この辺でね、今も尚この時期になると見たことない若者が現われるんだって♪」
抱きついたままであるロジェの腕に頬を寄せてフィーリは猫なで声で笑った。
「ね、お願いっ♪」
ロジェはため息をつく。こうなったら何を言っても無駄だという事は嫌と言うほど知っている。
拒絶権のないロジェにできるのは、空を見上げ早く雨が上がるようにと祈ることだけ。
こうしてまた剣士は魔術師に振り回されるのであった。

by vrougev | 2007-07-04 23:42 | キセツモノ