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流星のように瞬いて   2

こうして始まった伝説の真相探しも彼是三日になる。
三日間、ロジェとフィーリはこの周辺にある村々を一つずつめぐり、一人残さず話を聞いて回った。
「むぅー・・どうして皆何も知らないんだろうなぁ」
やはり数日前と同様の雨の下、地図と睨めっこをしながらフィーリは眉間に皺を寄せていた。
フィーリの横、ロジェは珍しくぐったりと木にもたれ掛かり立ち、目を閉じている。
情報は何一つなかった。フィーリの言う伝説など存在しないといわんばかりに首を横に振られるばかり。
「場所が違うんじゃないのか・・」
こう意見を出すのも既に何度目だろうか。
「そんなはずないよ」と言うフィーリの言葉を意識の片隅でぼんやりと聞きながらロジェは滑り落ちるようにずるずるとその場にへたり込んだ。フィーリは慌ててロジェの身体を支える。
「ロー君っ!!・・大丈夫?」
「身体が付いていかないのが、これ程辛い事だとはな」
寒気とだるさに朦朧となる意識。一般ではこういう症状を風邪と呼ぶのだろうか。
ロジェは丁度三日前よりその症状に侵されていた。力ない言葉もそのせいである。
初めは僅かな寒気と指先の麻痺だけだったのだが、今や立つのも辛いほどその症状は進行していた。
寒さから重さへ。それは自身がまるで鉛にでもなったかのような錯覚を覚えるほどに。
「やっぱり宿で休んでなよ!!見てるこっちが辛くなっちゃうよっ!」
「馬鹿か・・。お前一人だと・・ろくな事にならないのは目に見えてるだろ・・うが・・・」
これもまた今日幾度となく繰り返した言葉達。
「風邪・・ではないと思うんだよね」
ロジェに杖を翳しながらフィーリは言った。杖の宝玉から優しい光が漏れる。
うっすらと目を開けてロジェはフィーリに訴えるような視線を送る。ならこれは何だというのか。
「明らかに別なものが混じってるよ。けど・・・呪い、にしては邪気が感じられないし、魔法ならすぐ分かるはず。ロー君自身は何か感じる?」
何かといわれても困る。分かったら苦労しないだろうという言葉を吐く余裕も無いほど。
うつろうロジェの視界を一瞬何かが横切った。あまりにも鮮明ではっきりと眼下に写った。
思わず目を見開いたロジェにフィーリが何事かと体を揺する。
「どうしたの!?ロー君?ロー君!?」
「・・なんでもない・・それより・・・・寒い・・んだ」
ロジェは自らの腕を抱き寄せる。今ロジェに分かる事はこの寒さが異常だという事。
そしてもう一つ。これはまだ確信ではないが。
熱を測ろうとロジェの額に触れたフィーリは、驚いた様子でさっと手を引いた。
「何これっ!!冷たすぎるよ!!凍死しちゃうっ!」
「・・・そうか」
この時期に凍死はないだろうと思いながらもロジェはあえて口には出さなかった。
「ま、待ってて!!街まで行ってお医者さん連れてくるからっ!!動いちゃダメだよ!!」
杖を掴んだフィーリはそのまま無詠唱でふわりと宙に浮く。流石と言ったところか。
そのまま疾風の如く飛び去っていった。
舞った若葉が地面に付いたとき、ロジェは誰もいないはずの場に視線を向け、ため息をついた。
「いい加減・・・出てこないか・・・何者だ!」
視線の先は草むら。人影などなかった場所にうっすらと浮かび上がるものがあった。
それはまさしく人の姿。ロジェと同じぐらいの男だ。男はロジェの顔を見て目をぱちくりさせる。
「驚いた。君には私の姿が視えるのだね」
声、というより脳内に直接響くという方が正しいかもしれない。やはり、人ではなかったか。
「・・視たくて視ているわけじゃない。俺の目の前を横切っただろう。あの時だ」
男は僅かに笑みを浮かべ「気付いて欲しかったからね」と言った。
「憑いているからもっと早くに気が付くと思ったけれど。あの魔法使いは私が視えないのかな」
「・・・俺に憑いて・・何が目的だ」
力なく睨みつけると男は笑顔を引っ込めた。そして、至極真面目な顔で真っ直ぐロジェを見据えた。
「頼む。一つ願いを聞いて欲しい」

by vrougev | 2007-07-06 22:52 | キセツモノ