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流星のように瞬いて   3

「・・・言ってみろ」
さぁさぁと雨は降りしきる。濡れる事ない男は寂しそうに目を細めて天を仰いだ。
「一人の女性に・・彼女に会いたいんだ。私一人では・・其処へ行く事ができないから」
こんな体では簡単に動く事もできないんだよ、と自嘲じみた笑みを浮かべる。
「それ・・・さえ叶えばお前は俺から・・離れるのか」
「あぁ、勿論だ」
朦朧とする意識の中、ロジェは考える。この男から悪意ある雰囲気はない。
このまま迷っていても体が重いのは変わることは無い。下手すれば一生続くだろう。
そう考えるとロジェは頷くしかない。男はぱっと笑みを浮かべ駆け寄り、ロジェの手を握る。
最もそれはすり抜けてしまうのだが。
「ありがとう!君ならば私の願いを叶えてくれると思ったよ」
「で、その女は・・何処にいる・・・んだ」
男はロジェの後ろを指差した。ロジェは振り返る。霧がゆっくりと晴れていく。
「タツメ山の山頂だ」
その言葉と同時にロジェは糸が切れた操り人形のように倒れた。逆らえぬ限界にひれ伏す。
崩れた彼を見下ろす男の顔に表情はなかった。

数分後、フィーリが医者を連れて帰って来ると其処にロジェの姿はなかった。
「ロー君!?ロー君何処にいるのっ!!」
答える声はない。荷物を置いたままロジェはその場から消えうせていた。
「ロー君!!ロー君!!!」
叫ぶフィーリの声も雨音に隠される。少し経ってから木霊のように帰って来る自分の声が虚しく響いた。
「ひぃひぃ・・待ってくださいぃー・・」
フィーリの連れてきた老医師はゼイゼイと肩で息をしている。
「・・と、患者さんはどちらですかな?」
きょろきょろと辺りを見回す医師に対し、フィーリは動きもせず呆然と立ち尽くし呟いた。
「ロー君が・・いなくなっちゃった・・」
一体、何処に。心当たりはない。ロジェに限って突然消えるなどありえないと思っているから。
「ふむ・・お連れ様はどのようなお姿なのですか?」
「燻銀色の髪に真っ黒な瞳。背は僕よりも高くて、仏頂面の男・・。一緒に伝説の元を探していたんだ・・・この辺りに現われるって言う天に架かる橋を・・・」
「橋・・・伝説・・・。それは、もしかして・・・」
フィーリは後ろに立つ医者を振り返り、その顔が真っ青なのに気がついた。
「や、止めなさい、その噂の道を辿るのは!・・い、今からでも遅くない。貴方だけなら助かる。今すぐに此処から旅立ちなさい・・お連れの者の事は忘れて・・・さぁ、早く!」
「嫌だっ!!ロー君がいなきゃ意味がないんだ!!」
無理やり背を押し、追い出そうとする医者を振り払い、フィーリは杖を取り構える。医師は「あぁ・・」と悲嘆に呟いた。それがどういう意味なのか、フィーリには分からない。
「貴方、知っているんだね」
なら、知ればいいだけの事。
「僕に教えてくれないかなぁ」
例えどんな話であろうとも。

by vrougev | 2007-07-07 13:04 | キセツモノ