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流星のように瞬いて   5

夜は過ぎ、朝が来ても雨は止む事を知らなかった。しとしとと寂しげに降りしきる。
ロジェはひたすら山を登っていた。七月七日、今晩までに山頂にたどり着かなければいけなかった。
男はロジェに憑くことを止め、どうやら別の何かに宿っているようである。
お陰で身体が軽い。何も異常ないという幸せをかみ締めながらロジェは一歩一歩確実に山を登る。
在る時、昨日よりずっと黙ったままだった男がふと口を開いた。ロジェが休憩しているときだったと思う。
「・・君は私を怖がらないんだね」
「あぁ、こういったことには慣れてるからな」
慣れる、と言うのも嫌な響きだが事実慣れてしまっている。幽霊はともかく、精霊だの、超人並みの魔術師だのと言った怪しげな響きの人々がロジェの周りにはごろごろいる。それこそ掃いて捨てても、また現われるほど。そしてそれが現われるたびに問題や事件が出てくるのだからたまったものじゃない。
ロジェの態度が面白かったのか男は声に出してあはは、と笑った。
「面白い人たちもいるものだ。君と共にいた魔法使いもその一人かね」
「問題の中枢だな、あいつは」
言い切ったロジェに男は聞いた。
「大切かい?彼が」
「・・さぁな。いなければ落ち着かないのは確かだが」
ずっと一緒にいたからだと思うが、と付け足すも男は笑みを消す事無く「そうか」と呟くだけだった。
雨はいつまで経っても止まなかった。

遥か昔のお話です。この地に大いなるモノと呼ばれる天神を祭る村がありました。
天神様は崇められる代わりに村人達に祝福をもたらしていたのです。
そんな村人の中でも一際、天神に愛でられていた娘がおりました。
娘は天神の加護により美しく、教養ある女性に育ちました。ですが、彼女も女性です。
一人の村人の男と恋に落ちるのでした。二人は愛し合い結婚します。
天神も二人の幸せなる門出を祝い盛大に祝福をしました。
そう、彼等は幸せだったのです。けれど、彼等は道を間違えたのでした。
結婚をしたことにより二人は己に課せられた仕事を怠るようになったのです。
この堕落ぶりに天神は怒りました。
怒った大いなるモノは娘を空の自分の下へと連れて行き、男を大地に取り残したのです。
神は言いました。
「お前に祝福と娘はくれてやらん。精々地上で嘆けばいい。ただそれではあまりにも娘が不憫すぎる。お前達が真面目に働くなら七月七日、一年に一度だけ空と地に橋を渡そう」
地上に残された男は途方に暮れました。けれど、彼は彼女のために働かなければなりません。
たった一日でも彼女に会えるなら。男は再び熱心に働く誓いを立てるのでした。
その頃、村では一つの議会が行われていました。男を除く全ての村人が集まっています。
議題は天神に連れ去られた娘とその旦那である男の処分について。
ある村人が言いました。「娘を天神様と同様に祭るために一つの山を作ろう」
またある村人が言いました「天神様の怒りは我々の怒り。あの男を刑に処そう」
次の日、男に村の意向が伝えられました。死をもって天神様に詫びよという残虐なものでした。
それから三日後。男の首には縄が掛けられ、木から吊るされました。
彼が最期に呟いたのは彼女の名前だったと伝えられています。
男が願いを叶える事は不可能になったのです。愛おしい妻と引き離されたまま男はこの世から去りました。

死後、彼はどうなったのでしょう。無事に彼女にめぐり合えたのか。全ては謎のまま。
七月七日、空を見上げてください。今はない村にもしかしたら地上へと橋が架かっているかもしれません。

                                        『伝承 あきさり村』より抜粋

by vrougev | 2007-07-07 21:32 | キセツモノ