人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ユール・カルーセル・ディズ   1

冬のある日。正確には十二月の下旬のある日。
この季節になると大抵どの街でも普段以上の灯りが点される。赤、緑、黄色。色とりどりの光は深く積もった雪を彩り、寒くて厳しい季節を華やかで楽しいものへと変えていくのだ。子供達の笑い声が、大人達の微笑みが。満天の星空の下で踊っていた。もしかしたら人が一年で一番幸せな季節なのかもしれない。
唯一人、ロジェ=ミラ=クレセントを除いて、は。

「ロー君!見てー♪すっごいあの飾り綺麗だよー♪」
「綺麗だな」
針金のように真っ直ぐな髪と鮮やかな赤いスカート、そして粉雪色のマフラーが揺れた。腕はいつものようにロジェの腕へと収まっている。女のような出で立ちの男魔術師、フィーリ=メ=ルーンは笑う。
「この街はねクリスマスに力を入れていることで有名でさっ♪だから一回来て見たかったんだー♪」
そう言われてロジェは辺りを見渡した。並ぶ家々は隙間無く飾りが付けられ煌々と光っているし、路地裏と思われる薄暗い場所にも小さなオーナメントが下げられている。
フィーリと知り合うまでクリスマスを知らなかったロジェはこのイベントが世間でどの位大切なのか良く分かっていない。だが、わざわざ街をあげて大イベントをする程となると矢張り大きなものなのだろうか。
「ロー君、クリスマスは何の日だか覚えてる?」
不思議そうな表情をしていたのを読み取られたか。フィーリは小首を傾げてロジェの顔を見上げた。
「必要最低限の知識ぐらいは押さえたぞ。赤い服を着た白髪白髭の中年男性が煙突から不法侵入し、其の年を正しく生きた子供の枕元に中身不明の荷物を置いて去っていく。その日を祝うためにもみの木とケーキを用意する、だったか」
「微妙に生々しい表現だなぁ。まぁ…間違いじゃないね」
フィーリは微笑む。可愛らしい、にっこりと言う音がしそうな笑みにロジェは醒めた声で付け足した。
「ケーキは無いぞ、プレゼントもだ」
「えー!去年も一昨年もあったのにぃー!?」
ありえないと言うような叫びに似た声を上げフィーリはロジェの腕をがくがくと揺する。
一昨年はケーキ、去年はマフラーだったか。後者は秘密にしたままであるが、どちらもロジェが作ったものである。なんだかんだ言いつつ毎年何かしかしているロジェは偉いのではないか。
「えー!どうしてどうしてー!!」
まるで駄々っ子である。はぁ、と溜息をついたロジェは諌める様に静かに言い聞かせた。
「あのな、第一だ。二十歳は子供か」
童顔だとか女顔だとか言われるがフィーリは二十歳なのだ。成人の年齢は当の昔に超えているのである。
其の言葉でフィーリはむ、と口を閉ざした。揺さぶる手も止め、何かを考えるようにじっと俯いている。
暫しの静寂、平和な時間。だが、恐ろしい静けさでもある。嵐の前はなんとやら。
「…分かった」
顔を上げたフィーリは真剣な眼差しでロジェを見つめた。そして「ごめんね」と続ける。
「そうだよね、いつも僕がもらうだけだもんね。ロー君はクリスマス楽しくないよね」
別にそういう意味で言ったんじゃない。と言うか論点がずれている。非常に嫌な予感がする。
正そうとしたロジェが口を開くより先にフィーリは満面の笑顔で高らかに言った。
「だからさっ♪今年はプレゼント交換にしようっ♪」
ぎゅっと腕に力が込められる。中途半端に開いたままのロジェの口から漏れるのは真っ白な溜息。

どうやら今年も波乱万丈なクリスマスが始まるようである。

「で、その魔術師は何処に逃げたんだ?」
場所を変え同刻。要の国王宮の一室に特殊魔術機関CLRCLEの面々は集っている。
各々に好きなことをしている内の少年が尋ねる。彼は室内でありながらサッカーボールを操り蹴っていた。
「何処だと思う?」
少年の問いに男はにやり、と不敵に笑う。「飛鳥」と名を呼び、青年がそれを窘める。
「場所は此処ですよ」
そう言って青年は机の上に広げてある地図の一箇所を指差した。北東、山岳地帯。
その国にある大きな街といえば一つしかない。
「其処って…クリスマスで有名な場所ですよね?」
「また厄介なところに凶悪なものが行っちゃったねぇー」
二人の少女が口々に呟く。確かに厄介である。
「今年はクリスマスも仕事だが仕方ないな」
男は相変わらず楽しそうに呟いた。横ではやれやれ、と言ったように青年が溜息をついている。
こうなったからには仕方ない、と言う所か。
「CIRCLE、働くぞ」

by vrougev | 2007-12-03 23:06 | キセツモノ