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ユール・カルーセル・ディズ   4

意味深な発言を残し、飛鳥は何処かへと去った。フィーリはまた一人で歩く。何気なく見つめたショウウィンドウの向こうに映る自分は独り。横に誰かがいないのは本当に久しぶりだ。光り輝く照明に照らされていたのは包装紙に包まれたプレゼントの数々。赤いリボン、青いリボン。白い包装紙、きらきらと反射するシール。
「綺麗だなぁ…♪」
一体僕の不器用なサンタさんは何を持ってきてくれるのだろう。
想像するだけでふふと笑いが込み上げてくる。紅い服は着てくれないだろうけれど真剣に選んだであろう素敵なものを持ってきてくれるだろう。
「僕もサンタさんに見合ったものを選ばなきゃねー♪」
るんるんと笑顔を振りまきながらスキップするフィーリに道行く人々が皆振り返る。その視線すら心地よく感じる。クリスマス、という季節に便乗しいつも異常に高揚しているのだろう。心の奥底ではそう推測できる冷静さもまたおかしかった。
「慶ちゃんー、クレープ買ってってばぁー!」
人々のざわめきの中の一つであるはずの声にフィーリは足を止めた。一人の少女が連れである青年に駄々を捏ねていた。クレープを買うか、買わないか。たまに見かける微笑ましい光景の一遍にしか過ぎないのだがその声音には覚えがあった。人の流れに逆い彼等に近づく。優しそうな顔の青年は少女を優しく諭すように言う。
「それよりもやることがあるでしょう。全てはそれが終わってからです」
まるで兄妹のようなやり取り。だが、間違いない。彼等は。
「慶之!?くいな!?」
思わず声を上げてしまったフィーリ。その声に気付いたらしい二人は魔術師の存在を見つけ、ひらひらと手を振る。くいなと呼ばれた少女はツインテールを振り乱しながらフィーリに駆け寄ってきた。大きく丸い瞳に僅かにつった眉。背伸びしようとしてはいるもののまだ幼さが残る少女は出会えたことを喜ぶようにフィーリに抱きついた。
「フィーちゃんだぁ!久しぶりだねー!!」
「フィーリ、貴方もこの街にいたんですか」
くいなの後からやってきた慶之はにこやかにフィーリに微笑みかけた。
「それはこっちの台詞だよ!さっき飛鳥に会っただけでもびっくりしたのに…」
飛鳥、くいな、慶之。
此処までCIRCLEが揃っているという事はきっと後二人もいるのだろう。
「全員が揃ってるなんて…珍しいね。それだけ厳しい仕事なの?」
普段は集って一人、二人。三人以上は珍しい事である。
「仕事?何のことです」
だが、慶之はにこやかに続けた。動揺した素振りは無く、表情から事実を、本質を読み取ることはできない。味方と言えど情報を漏らそうとしない慶之の真面目な態度にフィーリは苦笑する。
「惚けないでも僕には分かるって。だから皆居るんでしょ?」
「んー?でもあれだよねぇ慶ちゃんは純粋に静ちゃんにプレゼント買うのが仕事だったりするもんねぇ?」
くいなはにやにやと笑いながら慶之を小突く。どうやら事実のようで火を噴きそうなほど顔を真っ赤にした慶之は「黙ってください」と呟くのみであった。
「そういえばー、ローちゃんは?フィーちゃん達、喧嘩でもしたのぉ?」
ロジェがいないことを気にしていたらしい。きょろきょろと辺りを見回すくいなにフィーリは笑った。
「違うよ?僕もロー君にプレゼントを探してるんだっ♪」
経緯を話すと二人は納得がいったようだ。なぁんだ、とくいなが呟く。
「じゃぁ早くプレゼントを考えないとだねー!早くしないと日が暮れちゃうしぃー」
時計を見るともうお昼を過ぎていた。朝早く出たはずなのにプレゼントを選んでいた間にこんなにも時間が経っていたのか。冬のこの時期、ましては北の地では日の暮れる時間は早い。早くしないと直ぐに真っ暗になってしまう。
「そうだね!早くしないと!!僕も慶之も、ねっ♪」
「だってさ、慶ちゃーん!」
「……放っておいてください」
其の言葉に慶之は再び顔を赤らめて下を向く。横で笑いを堪えながらくいなは言う。
「それにしてもさぁ、フィーちゃん気をつけなよぉ?」
何に、なのだか。何を、なのだかは分からない。けれど、フィーリは笑って答えた。
「大丈夫っ♪じゃ、またぁっ♪」
そしてそのまま駆け出した。二人の柱が見守る中フィーリは人ごみに急いだ。
急がなきゃ、本当に暗くなっちゃう。

「本当に…分かっていると思います?」
去っていく背中を見つめながら慶之はくいなに訊ねる。くいなは笑いながら答えた。
「ううんー、だってフィーちゃんだよぉー?」
「……ですよね」
慶之は嫌な予感を胸に携え思う。何も無ければいいのですが。

男は路地裏に潜んでいた。一人の女性をじっと陰湿なまでに見つめて。
彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら、飾りたてられているウィンドウに夢中だった。
たまにちらちらと時計を見ているところから誰かと待ち合わせでもしているのか。
こんなにも俺が不幸な時に楽しみやがって。ちっと舌打ちをした男はにまりと笑う。
よし、決めた。
見せしめのための生贄はあの女にしよう。

by vrougev | 2007-12-25 02:21 | キセツモノ