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ユール・カルーセル・ディズ   5

「何処にいるんだ…一体……」
「すみません……」
あれからどれだけ過ぎただろうか。日の光はそろそろ役目を終える事を告げるかのように紅く染まり、闇夜を呼んでいた。
「気にするな、お前のせいじゃない」
ロジェはそう言葉を掛けながらも疲労による溜息をつく。夕京捜索は難航していた。人混みを掻き分けながらの捜索は楽ではなく、そして対象は動くのだ。何処かで見落としてきたと言う可能性もある。何処を探したら見つかるというアテも無いためただ探すしかない。広場に立っていた時計台をちらりと見る。四時半。フィーリはどうしただろうか。変な事を引き起こしていなければ良いが。
「もし…急いでいるようなら後は私が探すのでロジェさんは宿に帰った方がよろしいのではないですか?フィーリさんの事もありますし…」
「いや、此処まで探したんだ。最後まで付き合おう」
此処で引き下がるのを拒んだのはロジェの性格だ。単純に悔しいという気持ちからの発言であったが静羽はそれを知らずか「ありがとうございます」と申し訳なさそうに言う。
「勝手に動いちゃいけないって飛鳥さんから言われているのに、夕京ってば」
それは静羽の独り言だった。だが、其処に現われた人物の名前にロジェは目を丸くする。
「飛鳥…?」
紅末飛鳥。彼女の属するCLRCLEの中のリーダーであり、恐らく最強の男。
他愛無い会話の中になら出てきてもおかしくない名前だが、この場の独り言の中で出てくるにはおかしい名前である。ロジェが反復すると静羽ははっと気が付いたように口を手で押さえた。何か、あるようだ。
「あの男、また何かしたのか。それとも…」
其処まで言ってロジェは物事を察した。どうして彼女が、夕京が此処にいるのか。
察せない程馬鹿であったほうがよかったのかもしれない。
「あの、えっと…」
問うロジェに静羽は困ったように視線を彷徨わせる。額に手を当てロジェは息を吐いた。そもそも、よくよく考えなくても彼等はCIRCLEなのだ。何かしら事件があり、其れを追っている可能性を考えていなかったロジェが悪い。そして既に首を突っ込んでしまっているのかもしれない可能性を思い立ち激しく後悔した。
「ご、ごめんなさい…」
「…気にするな、お前のせいじゃない」
とりあえず謝る静羽にロジェは先程同様の台詞を投げる。だがそれは彼女にと言うより自分に言い聞かせて、念を押すように一息で言った。
「俺は其れに関わりあう気はない。だから其の件については何も言うな、喋るな。後の仕事にも支障が出るだろう。早く夕京を探すぞ」
「は、はい…」
それきり黙ったまま二人は歩く。ロジェは迎えるであろう聖夜に祈る。
頼むから何も起こらないでくれ。

しかし、聖夜もまたロジェには残酷な仕打ちをする。告げたのは静羽に入った一本の連絡だった。
「静羽、聞こえるかよ!静羽!!」
彼女の鞄に付けられたストラップから突然少年の声が響いた。その声の主こそ先刻よりロジェと静羽が必死に探していた泰葉夕京である。
「夕京!何処にいたの!勝手に行動しちゃ駄目って飛鳥さんに言われたでしょ!」
通信具である其れを鞄から外し、手の内に置いた静羽は怒りを込めた口調で注意する。だが、夕京は「悪い!」と一言謝ると「それより聞いてくれ」と続けた。
「アイツ、人質とりやがったみてぇだ!」
「えっ!!」
アイツ、は恐らく犯人なのだろうな。人質とはまた厄介なものをとられたものだ、とロジェは思う。それを救出しつつ、相手を倒さなければならない。前者を怠れば人質に危機が迫る。だからと言って後者を疎かにすれば自らの死を招く危険がある。
突然静羽が空を見上げる。つられるようにロジェも見上げる。すると、既に星達があちこちに出始めている空が不意に空が輝き、映像が浮かんだ。映り初めに認識したのは立派なもみの木である。天辺には星が飾られているだけの簡素なツリー。そして其の前には一人、男が立っていた。骨と皮のみで構成されているのではないかと思うほどがりがりに痩せた男は土色のローブを靡かせながら笑っていた。
「ははは、偉大なるCIRCLE諸君!いい加減この俺を追うのは止めるんだな!お前達には其の義務がある。いや、それだけでは足りないな。逃亡を援助してもらおうか!!」
「何を馬鹿なことを…」
横で静羽が呟いた。ストラップを持つ其の手は硬く握られている。CIRCLEを挑発するように男は続ける。
「だが、お前達の事だ。どうせ俺の願いは聞き入れてくれんのだろう、なぁ!だから、俺もちゃんと考えたさ」
男がにやりと笑い、ツリーの下から退いた。もみの木の太い幹にもたれ掛かるようにして誰かが座っていた。否、縛りつけられていた。
夜空に映る其の姿にロジェは目を見開く。硬く目を閉じ動かぬその人影は…。
「フィーリ!」

by vrougev | 2007-12-25 15:12 | キセツモノ