人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ユール・カルーセル・ディズ   6

空から男の卑下な笑い声が降り注ぐ。
「この娘はお前達が俺の要求を拒否したら殺すことにしよう!!綺麗な女だから研究媒介にでもしてやろうかねぇ?」
そう言い残して映像はふっと消えた。先程よりもまた暗くなった空が広がる。
「何でアイツが……?」
「泳がせ過ぎたな」
聞き覚えのある男の声にばっとロジェは振り向く。すると、其処には飛鳥率いるCIRCLE全員が立っていた。いつでも不敵な微笑を絶やさない飛鳥を睨みつけながらロジェは低い声で問う。
「どういうことだ、説明しろ」
「アイツは俺達が追っていた奴だよ」
飛鳥の代わりに夕京が答え、手に持っていた紙をロジェに渡す。一人の男の顔写真と経歴書。極秘、と言う赤い判子が押されている。
「名はシュド=エール、某国の魔術研究員でした。一般の人が快適に生活できるような魔術具を作るのを生業としていたようです。魔力は並み、生活していくには不便の無い程度ですね」
「だけどねぇ、研究内容が問題でさぁー。ローちゃんは魔術師の禁忌って知ってるー?」
くいなの問いにロジェは首を横に振る。死人を生き返らせる事が禁忌であったか。
「魔術師の禁忌は多くあるのですが、その中の一つに時間の停止、というものがあるのです。彼の発明した魔術具の効果は『魔力を持つものに対しての時間の停止』。此処まで言えば…察しのいい貴方ならば分かるでしょう」
時を自由に止められるのならば何が出来るか。考えるまでもない。
「偶然といえ出来てしまったのが不幸だな。で、それを手放せばいいものを執着しやがった。そして、こんな所まで逃げやがって」
全く、と言った様子で飛鳥は苦笑した。飛鳥はこの状況を楽しんでいる。
「…アイツが何処にいるか、お前達は分かるか」
CIRCLEがどう動くのかなんて興味は無い。ただ、ロジェにはやらなければならない事があるのだ。
「知ってどうするんだ?」
試すように飛鳥は言い、僅かに見上げる。何を考えているか読めない策士の視線を真っ直ぐ見返しながらロジェはきっぱりと言い放った。
「助けに行く」

一体今は何時なのだろう。
外はすっかり闇に染まり、ちらちらと雪が降り始める。今夜もまた冷えそうだ。自然の白色絨毯の上に座らされ、体を縛られているフィーリは面白くなさそうに呟く。
「最近こんな役回りばっかり…面白くない」
不覚だった。振り返った瞬間にまさか飛鳥はこれを知っていたのだ。と、すると元々囮にされていたか。魅了系の術でも気が付かないうちに掛けられていたのか。
「ねぇ、僕をこんな風に縛り付けて君はどうしたいの?」
落ち着かないようで木の回りをうろうろとする男に苛々しながら言うと叫ばれた。
「大人しくしてればいいんだよ!」
「せっかくのさ、クリスマスをさ邪魔されてさぁ。あーぁ、やってられないぃー!!」
「静かにしろ!!俺は今真剣なんだ!」
「僕、君のせいでさプレゼント買えなかったんだよ。どうしてくれるのさぁ」
「黙らないと殺すぞ!女!!」
男の言う事を聞く気はない。普段のフィーリならもう少し素直に応じたかもしれないが、この男は日が悪かった。よりにもよってこんな日に。
叫ぶことしかしない男にフィーリは鼻で笑う。馬鹿みたいだ。
「ねぇ、シュド=エール。こんなこと愚かだと思わない?」
名乗ってもいない本名を呼ばれ驚いたのだろう。動きがぴたりと止まった。かまう事無くフィーリは横に無造作に置かれているアタッシュケースを見ながら続けた。
「時止めの研究の産物が其れ?ざっと感じるところ魔力を持つモノに対して働く時止めの魔術具?でも、それだと止まっても三分ぐらいだよねぇ。CIRCLEも良く動くよ、そんなしょっぼいもので働くなんて。僕だったら絶対嫌だなぁ、面倒だし」
絶句しているシュドを横目に「逃げられた君も凄いけどさ」とフィーリは付け足す。
きっと飛鳥が遊び半分で逃がしたんだろう。で、年末だから仕事片付けなきゃいけないけど自分だけ働くのは嫌だから全員引き連れてとか。
飛鳥の性格なら容易に想像ができる。絶対そうに違いない。
「は!そんな口を叩いたところでお前は何もできないじゃないか!事態がどう動こうと俺に殺される運命なんだよぉ!!」
狂人の様に笑いまくるシェドにフィーリは小声で「きっも」と呟いた。
早くこんなのから解放されたい。
魔法を使えば簡単だけれどロー君に怒られるからなぁ。
「ひゃは、やっと来たかぁ!国家の犬がぁ!!」
再び雄たけびを上げた男の言葉にフィーリは反応する。
フィーリの真ん前、積雪の上に白いローブの男、と思われる人物が立っていた。
白いローブはCIRCLEの特権。その姿にフィーリは微笑む。
国家の犬?そんな訳無いじゃないか。

あれは…お姫様を助けに来た王子様、さ。

by vrougev | 2007-12-25 21:11 | キセツモノ