人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ユール・カルーセル・ディズ   7

「おぃ、CIRCLE!!さっさと跪け!!この女を殺されたくなかったらなぁ!」
いきがる男とは対照的にローブの男は沈黙を保っていた。被ったフードのせいで表情は分からない。さく、さく、さく、と新雪を踏みながら白ローブの男はシュドとの距離を一歩一歩狭める。迫り来る威圧にシュドは一歩下がり、喚いた。
「来るな、来たらこいつを殺すぞ!」
「お前に殺せるものか」
男は冷静に淡々と告げる。さく、さく、さく。
「縛っている縄を解き、解放しろ。そして、大人しく逃亡をやめるんだ」
「そんな事…はい、なんていう馬鹿がいるかぁ!!!」
まぁ、普通はいないだろう。威圧に耐えられなくなりつつあるのか、それとも狂的に人格が壊れ始めているのか、はたまたテンションが高いだけなのか。シュドの声は次第に大きく、荒れた。その様子に一つ溜息をついた男は言う。
「なら、実力行使する」
「させるか!!」
にたり、とシュドは笑う。そして叫んだ。
「創造主の命に従え!この向かってくる狗の動きを止めるんだ!!」
それは魔術師が術を掛ける様な契約説のようであった。
声に応じるようにかぱり、と鞄がひとりでに開いた。中には厳重に布で包まれた何かが封じられるように鎖に縛られている。
かしゃん。鎖が解け、地面に落ちた。するり、と布が外れる。現われたのは宝玉だ。
綺麗…とは言いがたいいろんな色が混じり濁った合成宝玉である。ふわりと宙に浮いた其れは辺りを照らすかのように光を放つ。眩い閃光。
あれが、時間を止める魔術具。
「ふは…ははは!これで手が出ないだろう!!」
閃光が晴れれば其処には時の止まったローブの男がいるはずだ。忌々しい国家の狗が。
だが、勝ち誇るように笑っているシュドの顔はそのまま凍りついたように固まった。
光の中から男が現われたからだ。ばっと飛ぶように男は駆けた。
「な…」
彼にとってまだローブの男が動ける事は予想外だったのだろう。
フィーリは微笑みながら言ってやった。
「無駄だよ。彼には、ね」
男は白いローブを払いのける。その下から現われたのは闇夜色の剣。そして鋭い漆黒の意志の揺るがぬ瞳。男はあわわわ、とうろたえるシュドに刀を当てる。
それは一瞬だった。殺さぬよう、峰で。長い一瞬だった。
どさり、とシュドの倒れた音を聞きながらロジェは夜空に呟いた。
「俺に魔力はないからな」

「わーん!ロー君なら助けてくれると思ってたぁっ♪」
フィーリを縛っていた縄を切ると、フィーリはそのままがばりとロジェに抱きついた。首に回された手が冷たい。大分長い時間此処にいたようだ。ロジェは今まで着ていたCIRCLEから借りたローブをばさりとフィーリにかぶせる。
「何捕まってるんだ、馬鹿が」
「だってほら、僕が可愛いからっ♪」
えへ、と可愛らしく努めて笑うフィーリの姿にロジェは白い息を吐いた。
「全く…今日は厄日だ…」
今日だけでなくいつも、の間違いかもしれないが。
「やっぱりロジェにやらせて正解だったな」
「飛鳥!皆も!!」
背後から聞こえた声にフィーリが反応する。様子からするとフィーリも事情を大体は察しているようだった。もしかしたら前もって何か接触があったのかもしれない。
「ロジェさん、フィーリさん…ごめんなさい…!」
「静ちゃんが謝ることじゃないよー♪」
今日の静羽は謝ってばかりだ。何一つ彼女は悪い事はしていないのだが性格上、そういう立ち位置になるのかもしれない。静羽もまた苦労人だ。ロジェは密かに同情する。
「さて…俺達は帰るか、こいつ引き連れて、な」
気を失い倒れているシュズ=エールと主の命令無く地面に転がる宝玉を示した。夕京がシュズを引きずり、くいなが宝玉を拾う。持ち帰って破壊するのか。
はたまた自分達の研究用に使うのかは分からない。唯、言えるのは。
「もう二度とこんな役割は御免だ」
ロジェの言葉に飛鳥はくくく、といつものように笑う。
「どうだか」
「飛鳥」
窘める様に厳しい声を出した慶之は向きを変え、フィーリとロジェに微笑みかける。
「では、今晩はこれで失礼します。良きクリスマスを」
「うん、慶之も頑張ってね!」
その言葉で僅かに慶之の肩が強張る。彼も色々…大変なのだろう。
一礼した彼等はそのまま何かを唱えるとふっとその場から突然消えた。
振り返っても雪原には足跡一つ無く此処に居た痕跡すらも消えていることに気が付く。
改めて理解する。これがCIRCLE、調律者か。
「あ、あのね…ロー君…」
「なんだ」
口ごもるフィーリを珍しく感じながら答える。がばっと伏せた顔を上げたフィーリは涙目だった。一体何事か。身構えるロジェにフィーリは言った。
「プレゼントね、買えなかったの……」
其の発言に思わずロジェはぷっと噴出し笑った。声を上げて笑うロジェに今度はフィーリが身構える番だった。
「ロー君!?ど、どうしたの?」
「俺も買ってない」
「え!?」
驚いたフィーリに「悪いな」とロジェは謝り、そして訊ねた。
「だが、クリスマスは…正確には明日なんだろう?」
「うん」
「なら、明日祝えばいい。厄介事は全て忘れて…な」
らしくないロジェの言葉に目を丸くしたフィーリにロジェは「嫌か?」と窺うと首を横にぶんぶんとフィーリは振った。満面の笑顔で再びロジェに抱きついた。
「うん!ロー君やっぱり大好きだぁ♪」
「こら、引っ付くな」

明日は一緒に市場を回ろう。そしてお互いに欲しいものを買うんだ。
夜には鳥と…フィーリのためにケーキも焼いて。たまにはお酒も飲んでいいか。
だから今はこの言葉だけを捧げる。大きなツリーの下、この日に感謝を。
「「メリークリスマス!!」」


                                        ユール・カルーセル・ディズ   Fin

by vrougev | 2007-12-25 23:42 | キセツモノ