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一話   真偽都市国家   5

がたがたがたと夜風が吹き、真っ青なクロスの中に一枚の金貨が浮かぶ。遮るものはなにもない快晴の夜空。またそのすがすがしい青の世界を引き立てるように静寂も広がっていた。その青に影差す人影を除いては。人影というのにはあまりにも多い位の量が、そこには集まっていた。それこそ老若男女がまるで群れる獣のように一つの扉を食い入るように見つめていた。気配はない。ただ、沈黙。彼らは皆同じ無地の灰色のローブを纏い、同じ仮面、同じ短めの樫のを構えて杖闇夜に溶け込もうとしていた。浮き出る己を消そうとしていたのだった。ここはこの都市で唯一の宿屋。そして、唯一現在使われている部屋。
丑三つ時と呼ばれる時刻まで後五分弱、扉の向こうでは安らかな吐息がたてられていることだろう。あらかじめ、この部屋にかけられている睡眠魔法のため、この部屋で眠らない者などいない。それでいい。安らかに逝けばいいのだ。
その時は来たのだった。
ばきぃっっ!!
今までの分の喧騒を取り戻すかのような勢いで扉をけり破られた。簡単に破られた扉を踏みつけ、この部屋にただ二つだけある膨らんだベッドに向かって駆けて、力の振り下ろす。
杖の先端から伸びるは小ぶりの刃物。標的は腹部。次の瞬間、白いベッドを突いた音が聞こえた。しかし・・
「手ごたえが・・ない・・」
ぽふっというような空気の抜けたような虚しい感覚しかしない。それは、何度刺しても同じことだった。
隣を担当したものも同じように信じられないというような顔をしている。
すぅ、と何かの気配が通った。はっとしてそちらを向いたと同時に眩いばかりの光が目に飛び込んできた。
「今晩は、市長さん♪夜中までお仕事お疲れ様で~す♪」
照明による光。しかし、暗闇に慣れてた目にとっては眩しくて仕方がない。
そして、その声の主は紛れもなく・・。
「ねぇねぇ、ロー君?僕も仕込み杖がいいなぁ~」
「あれ、攻撃力高そう~」とはしゃぐ声は昼間何度も聞いた・・旅人の声。
そう、確か・・魔法使いの。
「仕込まなくても常に殴ってるだろうが」
呆れた声を出したのは・・剣士の方だ。
「実際そうなんだけどね~。で、市長さん今晩はこんな遅くに街全体で仮面舞踏会ですか?」
全員が同じ仮面をつけているのを皮肉に謳ったのかにっこりと魔法使いは笑った。
「それとも、仮面武闘会か?」
寡黙な人間だと思っていたが、こういうところは同じなのか。こちらは嘲るような笑みを浮かべている。
「なら、僕らも混ぜてくれないとねぇ~♪」
「僕らと一緒に踊ってくれる子はいないのかな~?」と辺りを見渡す仕草をする魔法使いに、「いないんじゃないのか」と冷めた口調で返す剣士。
「皆さん!!彼らを黙らせなさい!!捕らえなさい!!」
後ろに控えていた人々がどっ、と部屋中に押し寄せてきた。こっちは大軍勢、あっちはたかが二人。これで彼らが勝てる訳もない。案の定「うわぁ~」という間抜けな魔法使いの声がする。
「うふふふふ・・」
メロリアはこの混乱の中、不敵に微笑んだのだった。
馬鹿な人たち・・。

by vrougev | 2005-08-30 23:36 | きらきら☆まじしゃん【休止中】