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ショコラーテで乾杯を   3

ロジェの思惑とは裏腹に事態はゆっくりと事の始まりを告げる。
そう簡単に物語は終わらない。
「申し訳ありません、只今チョコレートの方売り切れておりまして…」
「ごめんなさい、今、品切れていますの」
少なくとも街の地図上にある製菓店、食材店は全て回ったはずだ。
勿論、市場も一軒一軒回った。だが、店主達の首は横に振られるばかり。結論から言うと、だ。
「なーんで、こんなにチョコレート置いてないかなぁー!!」
理解できないと言う様にフィーリは青空に叫んだ。そんなのロジェの方が聞きたい。
「他の菓子じゃ駄目なのか?」
「駄目っ!バレンタインなんだからチョコレートなの!!」
やたらと拘りを見せるフィーリにロジェはそうか、と答えるしかなかった。
チョコレートに一体何の意味があるのか。所詮製菓会社の陰謀だろうに。
こういうところは頑固である。
よく考えると食べ物と魔法に関してはフィーリが引いたことを見たことがない。貪欲と言うか、欲に忠実と言うか。
「だが、そんな事言っても無理なものは無理だろう」
「そうなんだけど…うーん……前の街に戻る?」
前の街までどれ位距離があると思うのだ。此処まで来るのにざっと六日。
まだ近いほうではあるがほぼ一週間を無駄にする事になる。馬鹿げているとしか思えない提案にロジェは一言告げた。
「却下」
「けちぃー…」
ケチとか言う問題ではない。当然の答えだ。
その場にしゃがみこんで「のの字」を書き始めそうなフィーリを横目にロジェは一人誰に尋ねるわけでもなく問うた。
「しかし、何故此処までチョコレートがなくなっているんだ」
これだけの店があり全てでチョコレートのみが売り切れているのは異常としか思えない。
イベント柄、女性は張り切るであろうから普段よりは売れる事は確か。だが、それを考慮して店は多く入れるはずだ。
それでもないのは矢張りおかしい気がする。
「そんなの僕が聞きたいよぅ!」
号外、号外ー!!
フィーリの声と被るように新聞売りの声が街に響いた。
高らかに響く声に釣られる様に人は集まり、新聞を奪い合うように取っていく。
「カカワトル、また出たのね」
「本当にこの街からチョコレートが無くなってしまうわ…」
カカワトル。それはロジェも聞いたことがある。チョコレートの旧名だ。
人混みに揉まれながら配る少年からロジェは号外紙を受け取り見た。配られた新聞はまだ温かく早刷りの匂いがする。フィーリはロジェの腕に抱き付いたままそれを見た。マントをはためかせる仮面の男の写真を。
どうやら特集紙であるようだ。見出しにはこう書かれていた。
チョコレート泥棒、現る!

by vrougev | 2008-02-10 01:59 | キセツモノ