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ショコラーテで乾杯を   4

チョコレート泥棒、現る!
ここ数日街を騒がせているチョコレート泥棒「カカトワル」がまた現われた。
場所は初めに盗まれた現場と同じ三丁目の洋菓子店『エスプリット』。
この洋菓子店でチョコレートが盗まれるのは三度目だ。
新たに取り寄せたばかりだったと言う。


「成程ぉー」
ロジェから奪った新聞を読み終えたフィーリは唯一声納得したように上げた。
「この男がチョコを奪っているから街にはチョコレートがないんだね」
「……あぁ」
街全てのチョコレート。そんなに大量の甘味物を一体どうするのだろうか、とロジェは疑問に思う。
まさか食べるわけではあるまい。ふと考えて気持ち悪くなり思わず口を押さえた。そして、気が付く。
結局抱きつきはしていないもののロジェの服の裾を握ったままのフィーリが珍しく静かだと言う事に。
ロジェが視線を向けるとフィーリは落ち着いた声音でさらりと恐ろしい事を告げた。
「じゃあー、僕らがその泥棒からチョコレートをぬす…じゃなかった、奪い返せば良いんじゃないかなっ♪」
明らかに盗む、と言う途中で言葉を変えた。どちらにしろ厄介事に首を突っ込むことに変わりはないが。
「却下」
フィーリの提案をロジェは即座に一蹴した。不満そうな表情を浮かべるフィーリに「馬鹿言うな」と更に釘を刺す。
出来る事ならば面倒事は起こしたくないし、関わりあいたくもない。普通で平凡な道中をロジェは日々望んでいる。
「でも、そうするとロー君は約束を破る事になっちゃうよー?」
不機嫌そうな顔から一転、フィーリはにこやかに微笑んだ。その紅茶色の目を除いて。
「誓ったものを破る事は罪深いんだ。多分ロー君が思っているよりも、ね♪」
「…………」
それが脅しではなく忠告。可愛らしい笑顔には不適な輝きを宿した瞳。
何がどうなるか、までは想像が付かない。
唯一つ分かるとしたらこの状況をフィーリは楽しんでいる、と言う事だ。
こういう表情のフィーリに何か言っても聞き入れてはくれない事をロジェは見に染みるほどよく知っている。
視線を外し、ロジェは溜息をついた。
「……しかし、手などないぞ」
勿論、チョコレートなど持っていない。
戻るのだけは勘弁してくれ、とロジェが言うとフィーリはにこにこと微笑んだまま自分の事を示した。
ロジェに腕に手を絡ませる。
「んー、僕が誰か忘れてない、ロー君ってばぁっ♪」
「張り付くな」
引き剥がそうとするロジェをフィーリはぐいと自分の身の方へと引き寄せた。
背伸びして、クスリと笑う。
「耳を貸して、ロー君。僕の考えを教えてあげる……♪」

この街は洋菓子屋が多い。其の中でもとりたてて大きい店が一つ。
三度の盗まれた『エスプリット』の従業員達は皆、困り果てていた。
この街一と言われる自分の店のチョコレートがバレンタインなのに売ることが出来ないからだ。
そんな時、一人の従業員が何気なく見やった店前の通りは人混みに沸いていた。
一体何があったのか。彼は外に出、人ごみを押し分けながらその声を聞いた。
男とも女とも取れない不思議な声。不恰好なぺろぺろキャンディーを舐めていた。
隣の店の宣伝か?
「皆さーん、今晩馬車いっぱーいのチョコレートがこの街に届くそうでーすっ♪」

「な…んだと?」

by vrougev | 2008-02-14 00:56 | キセツモノ