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九話   RUN AWAY!!   18

「な、こいつは・・・」
突き当たり先頭車両。事を示すかのように僅かに開いた扉をロジェは開け放ち、室内の様子に絶句した。
部屋大半を占める窓硝子は全て割れ、豪華な内装は跡形も無く崩し壊され無残な姿を晒している。
凄惨という喩えがよく似合う中、状況を作り出した主はその中心で佇んでいた。
一人の男だ。見覚えの在る男だった。逃げた組織の一人、数分前までリーダーであった男だ。
血走り正気でない眼。自虐と見られる数多の真新しい傷跡。男の腕から血は流れ出る。
狂気的に微笑む口からぶつぶつと何かが紡がれているも聞き取る事は出来ない。
普通ではない事は明らかだった。精神の錯乱。いや、崩壊か。割られた硝子のようにガラガラと。
一体、この場所で何があった。
全てが崩れた中、唯一カタチある輝石が異質に輝く。キラキラ、キラキラ。
「・・・・さっきの魔術師だねぇー♪自らの呪文に飲まれたみたい?」
状況に圧倒され飲まれそうなっているロジェの後ろでフィーリは冷静に狂った正体を見抜いて言った。
いつも何処か浮かれているときと全く同じ声で、何事も無いかのように淡々と。
さっきの魔術師。その一言で思いつくのは一人。あのこの国一と呼ばれていた魔術師。
「アレがムローリー=ラーヴィーだと。どう言う事だ」
「自分の魔力が制御出来なくなった。もしくは何かによって暴走させられた、ってところかなっ♪」
興味津々と言った様子で男、ムローリーを眺めるフィーリ。
どう制御出来なくなり暴走すればあそこまで歪めるのか、常人であるロジェには分からない。
「術の種類だと恐怖かなぁ。それとも絶望?あんまりいい術じゃないよね。どっちも呪系でさー」
フィーリは実にいい笑顔でばっさりと言ってのけた。
「気色悪いよねっ♪」
自分が嘲られたのが分かったのだろうか。其の言葉にムローリーはぴくりと反応した。
虚ろな眼でロジェとフィーリを見つけ、にたりと頬を吊り上げる。
「わ、笑った?」
「来るぞっ!退け!!」
ムローリーの動きは俊敏だった。全身を使っての我武者羅な飛び掛りにも関わらず真っ直ぐ此方へ向かってくる。ムローリーが杖を振り上げる。フィーリを背で庇いながらロジェは剣を抜いた。金属音を響かせ受身で流す。そのまま杖を持たぬ腕で引っかこうと腕を伸ばすムローリーの腕を小太刀で遮る。
「嫌だっ♪・・って言いたいところなんだけどふざけてる暇はなさそうだねぇ」
残念そうに呟きながら大人しく後ろに引き下がるフィーリ。普通なら安心する場面でロジェは眉を顰めた。
「何を考えている」
「別に何も変な事は考えてないよ?」
視界の端に見えたフィーリは真っ直ぐな瞳で何かを見て、じっと考え込んでいるようであった。
「唯、おかしいんだ。なんでだろうって思って」

「どうして術者が崩壊してるのに、術が言う事を聞いているのかなってさ」

by vrougev | 2008-03-23 01:29 | きらきら☆まじしゃん【休止中】