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九話   RUN AWAY!!   20

絶望的で絶対な答えを突きつけられたにも関わらずロジェは冷静だった。いや、冷静と言うよりもこのような事態に慣れてしまった、というほうが正しいかもしれない。
普段と変わらず「そうか」と一言告げるロジェを前にフィーリはらしくなく頭をうな垂れる。
「もっと早く気付けたら呪解出来たかもしれない。けど、もう影響が出ちゃって……解く事は無理に近い」
「影響?」
「あの種の魔石は本来濁りがあっちゃいけないんだ。…濁っているでしょ?もう性質が変わり始めている」
ロジェは改めて魔石と呼ばれた石に目を向けた。確かに初めに見たときよりも濁っている気はする。だがまだ向こう側がぼやけてはいるが見える程度でロジェにはその危機感が感じられない。
そこ等に落ちている綺麗な小石、と同等だ。
「放っておくとどうなる」
興味で聞いてみる。逃げる術はない、と分かった上での発言。
「同じ魔法を放つ石になるか、力に耐え切れずに壊れるか、のどちらかだと思う」
「道はない、か」
壊れるまで待つ、と言う方法も在るのだろうがロジェにはそれまでフィーリを守りつつムローリーを避け続ける自信はない。それに壊れたところでまた危機が迫るのだから大した違いではない気がした。
それよりも恐ろしいのは時間が経つほどに上昇するムローリーの身体能力だ。
それもまた魔石の濁りが原因なのだとしたら、一刻も早く魔石を断ち切らねばならない。
視界の隅でごそごそ、と動く音がした。フィーリの魔法で吹き飛んだムローリーの意識が戻ったらしい。
「指示をくれ。俺はどうしたらいい」
小太刀から血を振り払い、再びフィーリを背に庇いながらロジェは問う。
「アレは僕が壊す。だからロー君は其れまでムローリーを引き付けていて」
ふと気になり振り返り見たフィーリの表情には強い意志と何かが灯っていた。魔術師としての表情にロジェは時折恐ろしさと不安を感じる。何をしでかすか分からない恐ろしさ。そしてそれによる不安。
「…無茶だけはするな」
ぽん、とフィーリの肩に手を置く。一瞬きょとん、としたフィーリはいつものほのぼの顔で笑う。
「其の台詞はそのまんま返すよ♪」
まるで叢から獲物を見つけ飛び出す獣のように。フィーリの言葉に突っ込む余裕すら与えず、フィーリとロジェにムローリーは襲い掛かかる。腕を伸ばし標的を捕まえようとするムローリーをロジェは刀で受け止め、振り払う。背に庇われたフィーリは小さく言葉を唱えると何処となく吹いた風と共に跳躍した。
降り立つ場所は魔石の近く。その後を追おうとするムローリーの前にロジェは刃をつき立てる。
「いかせるか」
ロジェは薄く挑発するようにムローリーに向けて微笑んだ。
フィーリが石を壊すまでなんとしてでも耐えて見せようじゃないか。

by vrougev | 2008-04-05 01:33 | きらきら☆まじしゃん【休止中】