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九話   RUN AWAY!!   23

結局ロジェ達は「要の国が送り込んだ偵察者」と言う事になり、列車を救った勇気ある者として丁重に持て成された。魔導車両での状況を報告すると、どの国の王も寂しそうな何とも言えぬ表情をして「そうか」と呟くのみであった。後でベルナールから聞いたのだが世界全統治を目指すためならばどんな事でもやる評判の良くない国であったようだ。
後日、要の国の王がなんらかの処置を取ってくれるらしい。処罰は公にはされないだろうけれども、下手をすれば各国の中枢が大勢死んでいたかもしれないのだ。其れぐらいの処置は当然だろうとロジェは思う。
その後、数日間フリフ国に滞在していたが、昨日出国してからはまたいつもと変わらぬ二人旅をしている。
森の中でロジェは晩御飯の味見をしながらふと思い返し、疑問に思う。
魔石はどうしてあんなにあっさり砕けたのだろうか。
あの時、石を斬ったような固い手ごたえはなかった。衝撃が強いだろうからと両手にしたのだ。
だが、衝撃どころか手ごたえもほとんどない。斬ると言うより触れた、と言う方が正しい。
……俺は斬っていなかったのか。なら、何故砕けた。
ロジェの思考は沸騰した鍋の音によって中断される。吹き零れそうな鍋が笛を鳴らし危険を知らせた。
まぁ、終わった事を気にしていても仕方がない。
思考に結論付けながら鍋を安全な場所に移し、ロジェは気がつく。
「…フィーリ、何処行ったんだ」
もう直ぐ飯だというのに。

「もー!大変だったんだよ!?」
ロジェのいる場所から少し離れた場所でフィーリは杖に向かって話しかけていた。通信先の相手は飛鳥。
「悪い、悪い。で、急に俺に何の用だ?」
悪びれた様子も無い声音が杖を通して遠い距離を繋ぐ。連絡を取ったのは珍しくフィーリからだった。
用は唯一つだけ。どうしても確かめておきたかった。
「ねぇ…飛鳥、あの場所にいたでしょ」
「何のことだ」
はぐらかす様に。それとも本当に何も知れないのか。
「僕は魔石に触れて魔力を一時だけれど奪われた。僕の魔力は普通じゃない。それなのに奪われたんだ。あんな事が出来るのはCIRCLE、もしくはそれ以上の力がないと無理だと思っている」
「ほぅ」
CIRCLE以上の魔術師はヒトではそういない。精霊と言う意見もあるかもしれないが飛鳥に連絡した訳は。
「そして、魔石の中に一瞬だけど…蔦が見えた」
「………蔦ねぇ。あの双子のじゃないのか?」
いつも通りの受け答えの中に出来た一瞬の沈黙。他に逃げるかのような答え。
「何を考えている、紅末飛鳥」
普段の様子からは想像付かない程に厳しい声でフィーリは問うた。
「『宰』は何を助け、司っているか。お前は分かるか」
「『宰』…?何それ。知らないよ」
突然現れた単語にフィーリは首を捻る。何処かで聞いた記憶も在るがそれが何処だったかは思い出せない。
「だろうな」
くくくっ、と飛鳥らしい笑いが向こうから聞こえ、フィーリは訊ね返す。
「飛鳥は知っているの?」
「さぁな」
相手を挑発するような口調に更に問いただそうとフィーリは口を開くが其れは紡がれず。
「おい、フィーリ!飯出来たぞ」
ロジェのフィーリを探す声に遮られる。うぐ、と口を噤むと向こうからも忍び笑いが聞こえる。
「むー…笑わないでよぅっ!」
控える気のない忍び笑いにフィーリは不機嫌に口を尖らせた。
「大切にしろよ。いつ何が起こるか分からないからな」
「え?」
問い返す間も無く通信は切れる。そして見つかった。叢の木の上。
「フィーリ!此処にいたのか」
下から見上げるロジェの顔には呆れた表情が浮かんでいる。フィーリはぱっと瞬時に笑顔を浮かべる。
「はーいっ♪待っててっ♪今、行っくよぅー♪」
へらへらと笑い木を降りるフィーリにロジェは「全く…」と呟くのが聞こえる。
フィーリは飛鳥の言葉を思い出す。いつ何が起こるか分からない、か。
確かに普段から何かしか騒ぎの中に巻き込まれている気はする。
フィーリはロジェの見えない死角で微笑んだ。
おあいにくさま。
いつ何が起こっても僕は手放す気などさらさらないのだれど、ね。

要の国。誰もいない部屋で飛鳥はくくくっ、と笑った。
「このまま全て杞憂で終わればいいんだがな……女神のみぞ知るってところか」
ゆっくりと。だが確実に運命の針は回り続ける。行く先も、狂う先も誰も知らずまま。
一人の男を中心にして。


                                 九話   RUN AWAY!!   Fin

by vrougev | 2008-04-05 23:02 | きらきら☆まじしゃん【休止中】