カテゴリ:小話( 33 )

ハンプティ ダンプティ

ハンプティダンプティ 塀の上から微笑んだ

「貴方は一体 何がしたいの」

アリスの問いに

ハンプティダンプティ 崩れかけた塀の上から微笑んだ

「とびきり楽しいお茶会を開くのさ!」

アリスに応えて

ハンプティダンプティ 崩れかけた塀の上から愛想を込めて微笑んだ

「きっとみんな、昔のように集まってくれる」


………


アリスは微笑んだ

「そうね、集まってくれるといいわね」

無理よ。だってハートの女王は揺るがない

アリスは優しく微笑んだ

「きっとみんな集まってくれるわ」

無理よ。だって塀はすでに崩れているもの
 

………


崩れた塀 貴方一人では直せない
でも、
ハンプティダンプティ 気付かない


………


アリスは砕けた内包物に優しく微笑んだ

「楽しみに待っているわね」

無理よ。だって自分が壊れちゃったんだから




「約束だよ、アリス」

地面と混じり合ってぐちゃぐちゃになった黄身と白身がにかりと笑った…気がした
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by vrougev | 2009-01-19 00:46 | 小話

テガミ

部屋左端本棚、上から二段目の中央に立てられたブックスタンドの下
小さな小さな私の宝物は其処にそっと眠っている
訂正しよう。私の宝物だったモノはは其処に眠っていた

潮風と共に出会って、泣きながら笑って、結果悩んで
失くしたなんて見え透いた噓を盾に、ずっとずっと忘れたフリをした
揺れた鉛筆の線。濃い色、薄い色。二つの誤字。独特の言い回し。意志の弱い言葉
いったい何を持っているんだろうね、なんて一人笑った日もあったり、なかったり

本当は知っていた
これが書き手の意思ではなく周りからの威圧によって書かれたものだって事
だからこその言い回しなんだと気が付いたのは歌が響いたあの日
伝言ゲームはなかなかうまく伝わらない。だから、気が付くのが遅れてしまった
唯一つ分かったのは、重荷のひとつが私だってこと位

それから時が経ち、フリが本気になり、そしてある日突然思い出させることになる
夢を見た。白靄の中で驚いた笑顔で迎えてくれる変わらぬ存在
そんな笑顔を向けられたことはないのに、どうして覚えているのだろう

そして、今。私は再び手紙を開いた
乱雑に畳まれた其れはすっかり黄色くなってしまった。もう四年。まだ四年
きっとこれから先、会うことのない大切な友人からの手紙
「まだ夢見てる?」   
「残念ながらまだ。でも、これから先それ以上のモノが見れると信じてる」
「だといいね」
手の中でくしゃりと潰れる小さな紙。歪な球になったそれを私は放り投げた
向かう先、大きなゴミ袋はぽっかりと口をあけてそれを胃へと流し込む

「ありがとう」
そしてたくさんのごめんなさい

もし会えるのなら一つだけ問わせて
「貴方は素敵な人と出会えて笑えるようになった?」
なんて、ね

私?私は………
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by vrougev | 2008-03-26 23:18 | 小話

三章   在るモノの見物

世界があたしに求めたのは見つける事。見つければ世界はあたしを認めてくれるの!

あたしの大切な王子様。やっとあたしはアナタを見つけたの。
今日この時、あたしは世界の中心に歓迎されるんだわ。

長い年月望んだこの日がやっと来た。
目の前には一人の男。表情の読めない眼をした冴えない旅人が立っている。
コイビトではない。好きなヒトでもない。第一、タイプとはかけ離れているし。
けれど、あたしはずっと広い世界の中で彼を捜し、見続けていた。
理由はひとつ。あたしの存在意義はこのヒトのためにあるのだから。
この世にあたしが誕生した時に世界から告げられた意義は居る限り、ずっと付き纏う。
今の今まで続いていた。この時であたしはようやく解放されるのだ。
この呪縛の中から、なんて言うと何処かの童話みたいでカッコイイかな。
やっとアナタを見つけたの。ねぇ、ずっとずっと会いたくて仕方がなかったんだよ?
「ようこそ、おにいさん」
弾んだ声を無理矢理押さえつけて、あたしは旅人を歓迎する。
結果、幼さが変に残ったなんとも言えない声になってしまった。
「……来た覚えはない」
冷静に状況を把握しようとしていた男はあたしの声に気が付き、答えたのだ。
王子様が答えてくれたっ!!
あたしを見るその目が驚きに見開かれ事に、あたしは気が付かない。
今のあたしは浮かれ過ぎていた。自分でもどうかしているのではないかと思う程。
其の先にあるのは闇夜静寂だと知っているに、はしゃがずには居られなかった。
「非ィ現実的な光景だな」
男は素直な感想を漏らす。確かに現実に生きるモノならこの空間は非現実的だろう。
此処にヒトはいない。建造物もない。生物も、モノも、何もかも。
ないモノはない。
そう表現するのが一番的確だとあたしは思っている。
だって、此処は何でも出来る空間だもの。だからあたしも存在出来る。
「これは、夢なのよ。おにいさん」
白くだだっ広い空間の中にふたりぼっち。あたしとあたしの王子様。
唯それだけ。それ以外は要らない。魔女も狩人も、妖精さんも要らないの。
「あたしはね、ずっとおにいさんを探していたの」
世界が見つけろと命じた。それは単なる口実。世界に付いた小さな嘘。
本当は羨ましかったのだ。世界に存在を認められている旅人。
それはとても幸せな事だから。一目でいい。見てみたかったの。
世界から望まれるヒトは一体どんな姿、形をしていて、どんな風に歩んでいるのか。
「おにいさんはね、世界が選んだあたしの王子様なの。だから見てみたかったのよ」
繋がれた鎖を解き放ってくれる救世主にあたしは笑う。最も見えないかもしれないが。
お姫様が目を開けて最初に見るのは王子様。そして、幸せに暮らすの。
あたしは目を開けて最期に見るのは王子様。そして、自己満足の内に終りを迎える。
全てが終わって、呪いは解けるの。お姫様ではないから幸せにはなれないけど、ね。
だけれども、出来る事なら最期に見る旅人の表情は笑っていて欲しかった。
「……それが、世界がお前に定めた『ナニカ』なのか」
男は小さく呟いた。とても、寂しそうな。違う、哀れみに似た、ナニカ。
どうしてそんな声あげるのかな。あたしは今こんなにも幸せなのに。
「……そんなモノの中にしまわれても……どうして」
そんなモノ。男はあたしの体をたった一言で表した。

白い空間に黒い長方形。本来は立つ筈のない、世界の夢を眠るための箱がひとつ。
そんな中にあたしはいる。もう箱自体があたしだとも言っても良いだろう。
あたしをこの箱に入れてくれたヒトは泣いていた気がする。遠い、遠い昔の話。
よく覚えていないのは年月のせい。もうみんな、大切な事も忘れちゃったよ。
今も彼等は存在しているのかな。それとももう、あたしと同じモノなのかな。
箱には窓が一つ付いている。名知らぬ心優しいヒトが付けてくれた長方形の小窓。
「変わり行く世界がアナタも見られます様に」って付けてくれたんだ。
けれど、その窓は背の低いあたしには高すぎて、あたしはいつも世界を見上げている。
ちょっと不便だよ。でもね、これはあたしの体。大切な身体なの。

「しまわれても存在はあるもん。其れすら無くなったら会えなくなっちゃうじゃない」
あぁ、せっかく憧れの人が目の前に見えないよぅ。見てしまえば全て終りなのに。
心ではなく、あたしの瞳で、アナタを見てしまえば………!
ねぇ、王子様。あたしの大切な王子様。
教えて。今、どんな表情をしてあたしを見てくれているの?
「最期に教えて、王子様。アナタの『あだ名』はなぁに?」
愛しいアナタが持つ世界の使命は一体なんなの。
「………聞くと眠れなくなる」
男はそう呟くとあたしに、箱に近寄り、触れ、そっと耳打ち。
責任は取らない、と男は最期に罪深く呟いた。

あはは、ホントだよ。聞いたらホントに眠れなくなっちゃった。
あたしの王子様はやっぱり凄かったんだね。『あだ名』を聞いて直ぐに悟っちゃったよ。
世界が彼に目を掛ける理由を。そして多分、彼自身もまだ気が付いていない事実も。
でもまだ、パズルは未完成なの。迷路のパズルは曲がりくねってまだ出口は見えない。
だからね、あたし決めたわ。
眠るのは全てを見届けてからにしようって。男の行き着く先には、絶対に何かが在る。
世界に見放されてもかまわないんだから。
………これはちょっと強がりだけど、さ。

もう少しだけ、もう少しだけ、眠らないで頑張ってもいいかな。
其のモノ『矩形の眼』は自ら想いを寄せた男の結末を見守るため『傍観者』と成った。
彼女は今日も箱の中から旅人の世界をじぃと見つめる。
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by vrougev | 2008-02-21 18:23 | 小話

二章   在る狂人の標的

俺様の『目標』は俺様を倒す事。それ以外に一体何が在るって言うんだ?

男の問いに俺はさも当然に答えた。それ以外に答えは見つからない。
ずっと俺はそれを『目標』としてきたのだから。

俺がその変な男と出会ったのは偶然の重なりの結果、としか言いようがなかった。
偶々立ち寄った街で、偶々街の不良に絡まれ、偶々在る路地裏で、偶々殺した瞬間。
いや、最後のは偶然と言うより必然か。偶々、と呼ぶにはあり過ぎる事である。
まぁ、そんな偶然を偶々見てしまった不幸な旅人。それがその男であった。
「よぅ、其処のヒト」
俺は声を掛けた。手に持ったままのナイフから紅い温もりがぽたぽたと垂れる。
見られたから、と慌てるほど俺は馬鹿ではない。僅かに口を笑ませられる程は余裕だ。
なぁに、こういう場合の対処法は一つしかない。
「凄いモノ見ちまったなぁ、なかなか非現実的だろ?」
友好的に話しかけながら俺は一歩一歩確実に新たな獲物との間合いを詰めていく。
普通のヒトならば此処で恐怖に喚き叫び、逃げようとするだろう。
だが、どうだろうか。
旅人はナイフに体温を奪われた元ヒト…現モノを冷静に一瞥し、俺を真っ直ぐ見た。
なんなんだぁ、この男。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。石畳に広がった紅は衝撃と共に飛沫して俺を濡らす。
「お、怖くねぇのか?人が死んでるんだぜ?」
男は首を傾げ、俺に踏まれたモノに再び視線を向けながらゆっくりと口を開いた。
さぁ、叫べ。泣き縋れ。跪け。赦しを乞うなら少しぐらい考えてやってもいいぜ。
「お前の『ナニカ』はそれか?」
紡がれたのは問い。其の言葉は俺の予想を反し過ぎていた。

「『目標』か…」
其の声は僅かだが感情を持っていた。俺の答えに男は興味を示したようである。
生者に興味はないが退屈であろう冥土のいい土産になるかもしれない。
だから俺は男に語ることにした。俺ってばなんていい奴なんだろう。
「聞きてぇか?俺様は昔から知ってたんだよ」
そこで俺は声を落とし、世界に聞こえぬよう顰めるように言った。
「世界っていうのは俺様中心に回っているって事をな」
俺は自分で言うのもなんだが多少ヒトとは違う。僅かな唯一点に置ける相違。
生きるヒトより死んだモノに愛着が沸くという点で、俺は他人と違っていた。
今まで誰とも相容れたことがないが気にする必要もない。生物に興味はないのだから。
故に俺は偶々の重なりの衝動で時折ヒトをモノにする。
何、たまには愛でるものが欲しくなると言うだけの行動だ。
「なら、俺様自身が神だ、創造主だ、違うか?」
現に俺は警察や自治隊に捕まった事はない。相当な数をこなして来たのに、だ。
「違わないな」
男は納得したように頷いた。なかなか物分りのいい男らしい。
「其処で、俺様は考えたわけよ。神は愛でられるものだ。
愛でられるためには俺様自身をまずは俺様が愛さなければならない、ってな」
ナルシストだとよくヒトからからかわれ笑われた。懐かしい話である。
今も彼等は笑っているだろう。もうヒトではなくなっているが。
「だけどよ、世界を作った俺自身は生きているじゃねぇか」
だから、俺は俺を倒さなければならない。それが、俺が俺に課した『運命』だ。
「面白いな」
自己陶酔している俺を男は笑うこともなく、蔑む事もなく淡々と呟いた。
こう言うヒトは稀だ。稀、故に俺は好意を寄せる。即ち。
「男ぉ、お前はなかなか見所があるぜ、だからよぉ…」
俺自身を落ち着かせるために瞬きを一回。視界の隅でナイフが鋭く輝いた。
「モノとして俺様が可愛がってやるぜ!?」
すっかり紅が抜け切ったナイフで俺は切りつけた…はずだった。
一体何を切った?あの男を?
いいや、空を。
あの変な旅人は一瞬で何処かへ。忽然と俺の前から姿を消したのだ。
今まで見ていたのは魔術師の幻か。それとも未知なるモノに化かされていたか。
いいや、違う。
男がいた証拠は目の前に堂々と残されていた。石畳に紅の曲線が踊る。
俺の『あだ名』も聞かず、自らの『あだ名』を石畳に記して。

よぉ、俺様。世界創造ご苦労さん。
俺様が俺様を愛す前に欲しいものが出来たからよ、手に入れてくるぜ。
俺様と言葉を交わして唯一ヒトでいた男だ、面白いだろ?

おぃ、逃げるなんて面白くねぇよ。それとも釣られてみろってか?
其の狂人、『対自核』は新たな『目標』のため、
行き先も目的も知らぬ、『あだ名』だけ知る男を捜す旅を始める。
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by vrougev | 2008-02-08 02:02 | 小話

一章   在る女の探求

正直、『使命』だなんて馬鹿げていると思わない?

私は言った。誰に。
そう、それは一人の男。旅人だった。此処は酒場。旅人など珍しくもない。
だが、私は男に話しかけた。わざわざ同僚が持って行こうとした酒を奪ってまで。
わざと明るく話しかけ、男の興味を引く。あぁ、なんて馬鹿らしい。
暫く一人で虚しい笑い声を上げていると、男はゆっくりと口を開き始める。
男は言った。「自分は『使命』が在って其の為にこうして旅をしているのだ」と。
真面目な表情だった。私の嫌いな表情だった。だから、私は笑い続けるのを止めた。

そして、冒頭に戻るのである。男は私の発言に驚きも笑いもしなかった。
ただ「そうか」と呟き、グラスに注がれていた酒を一気に飲み干す。そして、むせた。
ウォッカやラムなどのキツイ酒ならそれでも様になったかもしれない。
だが、男が飲み干しむせたのはオレンジをベースとした食前酒程度の甘い酒だ。
それで私は笑いを取り戻す。あはは、と無理矢理声を出して笑う。
そんな私に男は少しバツが悪そうな顔をした後、顔を背けて呟いた。
「お前にも『ナニカ』はあるんだろ」
私は再び笑みを失った。
男には『使命』が在った。私には『ナニガ』在る?

「なにもないって、在るのは恐怖だけだよ」
この言葉が紡がれるまでに一体、どれ位経ったか。
其の間に何度男は酒を飲み干しただろう。爽やかなオレンジの香りは当に消え去り、
男のグラスには爽やかに怪しい空色の液体が半分ほど残され放置されている。
「何かあるだろ」
「欲望、かな」
私は試すようにふざけて答えた。だが、間違ってはいない。私は欲深い人間だ。
洋服を欲しいと願ったり、お金を求めたり。まぁ、ヒトとして普通の行為であろう。
だが、私はそんな物欲よりも『知識』を欲している自分がいることを知っている。
知らないことが在るのは嫌。多くを知りたい。世界の知識に埋もれてもかまわない。
知らないことが怖いの。全てが知れるのなら自分だって偽れる。
もしかしたらこの男に話しかけたのも新たな知識が得られると無意識に思ってのことかもしれない。
事実、収穫はあったのだから私の『予感』も大したものだ。
「もしもの話だ。この世界がある日突然姿を変えたものだとしたら、お前はどうする」
それは去り際の事。突然投げられた想像した事もない問いに私は呆然とした。
回転する頭脳。廻る知識。私がはっと我に返ったとき、其処に男はいなかった。
テーブルには酒代と襤褸切れに書かれた男の『あだ名』。
名乗らなかった事をこれ程後悔した日はない。

数日後、私は大きなリュックを手に住み慣れた家から飛び出した。
手がかりは男の『あだ名』と酒場の暗がりに見た容姿だけ。
だが、知りたいのだ。待っているだけではこの感情に潰されてしまいそうだった。

ねぇ、世界は突然姿を変えたの?アナタは何を知ってるの?
疑問と動き出した『運命』をも詰め込んで、
在る女、『欲望と言う名の恐怖』は知り知らぬ土地へと旅立ったのだ。
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by vrougev | 2008-02-07 03:06 | 小話

序章   在る男の手記

世界は一度滅んだのかもしれない

西暦20XX年、俺達の世界は一夜にして姿を変えた。
いや、こう表すのは正しくない。何故ならその記憶はヒトビトにないのだから。
とりあえず「俺以外」と記しておこう。他に記憶を持つモノを見たことがない。
これを見つけたヒトよ。信じられないかもしれないが、どうか信じて欲しい。
世界はヒトビトから『音楽』と『名前』を奪っていった。
よくよく考えるとおかしな話であるのだ。

『声』は在るのに『音楽』は存在せず受け入れられもしない。
『名前』はないのに『あだ名』は在る。

『あだ名』は『名前』ではないのか、と思うだろう。
あんなモノ、唯の狂言師の戯言にもならん。奇怪で奇妙、意味の分からぬモノばかり。
代わりに世界はその馬鹿馬鹿しい『あだ名』見合った『ナニカ』を与えた。
詳しい事は分からない。生まれながらに与えられる存在する意味とでもしておこう。
従いたくなくても従ってしまう。そんな呪われたモノを俺は『運命』と呼ぶ事にする。
世界が俺に与えた『ナニカ』は矛盾した『使命』だった。
一体世界は何を考えているのか。そして俺に何をさせたいのか。

俺は今から旅に出る。出なければならない。
恐らく、戻ってくる事はないだろう。嫌な『予感』だ。

最後に記しておこう。俺が世界の忘却の波に飲まれてしまう前に。
俺の『名前』は――――――――。
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by vrougev | 2008-02-07 01:50 | 小話

時に魔術師は

ふと、夢から覚める。いや、覚めるものは自らに掛けた術であろうか。
そしてぼんやりとした眼でその手の内にあるモノを見つめるのだ。

「何だろう、これ」

砕けた象徴。声にならないナニカ。欠けたピース。余った鎖。
そして目の前で流れる鮮やかな滝、止まる事はない。
段々とはっきりしていく意識に、寂しそうに微笑んだ。

「あぁ、そうか」

魔術師は救い上げた其れを部屋の隅へと連れて行った。
小さくて大きな箱がぽっかりと口を開けている。

「久しぶりだね」

箱は言った。旧友に話しかけるような親しみを持った口調。
答えはない。ただその手の内にあるモノをじっと見つめていた。

「本当にいいのかい」

案じるような確認。単調な抑揚の無い声は言う。

「えぇ」

箱の上に両手を伸ばし、ゆっくりと傾けていく。

「これはもう、きっと、誰にも望まれていない」

さら、さら、さら。零れる、零れる、零れる。
砕けた象徴。声にならないナニカ。欠けたピース。余った鎖。
全ては飲み込まれ、渦巻き、忘却の彼方へ。輪廻も転生も無い世界。

あぁ、きっと其処は真っ暗なんだろうね。それとも、真っ白なのかな。
そもそも無と言う空虚が広がる中に色なんてあるのだろうか。

全ての砂を世界に還した罪深き魔術師は言う。

「新しいマスターの元で幸せになれますよう」



どうか、その僅かに残った意識が汲み取られますように
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by vrougev | 2007-11-29 16:25 | 小話

第二文   years

馬鹿弟子の師は街から遠く離れた森の中の小屋に居た。古びて今にも崩れそうなログハウス。
歩くたびにぎしぎしとその前兆を見せるこの家でため息とともにティーカップを傾けていた。
白い肌、白い髪、赤い瞳。アルビノの青年。開いた本から目を離す事はない。
「いつになったらあのガキの馬鹿は治るんだ」
それは独り言。親のような心配と他人の呆れと苛立ちが混じった声で。
「治んないサ。馬鹿さ加減だけはねどんだけ経ってもね」
師の家には一人の来客者が居た。腰に差す二本の短剣と、背に担がれた大剣。露出度の高い鎧。
覗く浅黒い張りのある肌には細かな傷が何本も刻まれている。太陽のような瞳で女剣士は笑った。
からから、と強気な女性の笑い声。師は眉を不愉快だといわんばかりに寄せながらの呟く。
「黙れ。何故お前は此処にいるんだ。失せろ、呼んだ覚えは無い」
「はいはい、分かった分かった。でも、親しい仲にも礼儀ありだよ?」
呟きにしては些か長い罵倒言葉も剣士はさらりと流してゆく。言葉とは裏腹によいしょ、と大剣を床に置き椅子に腰掛ける。疲れたようなため息に彼女は再び笑った。
「いいじゃん?長い付き合いなんだし少しぐらい。これから仕事なんだって」
「仕事?・・・討伐か」
討伐されて来い、という師の嫌味に答えることもせず上機嫌で剣士は高足を組む。
「そうそう、討伐、討伐。それもアノ砦に湧いた敵サ」
「あの砦?・・・・もしかしてヤイロの砦か!?」
「当り!!」
本から目を離して身を乗り出した師は再び椅子に身を埋めた。ロッキングチェアーは主人を優しく受け止める。師はというと天を仰いでいる。
「そうか・・あの砦にも敵が湧くようになったのか・・」
その昔、人間と魔族の間で大きな戦争があり、ヤイロと言う男がこの世界に存在していた。人が住む街と森を守るためにその男と仲間達が守った砦、それがヤイロの砦である。
昔の話だ。それがどの位前なのかは思い出せないが。
ただ言えるのは彼らはまだ此処にいて、ヤイロは此処にいない。
「嫌な話だ」
師は言い放つ。苦々しく嫌な事を思い出したかのように。
「さって、あたしは討伐に行ってきますかねぇー」
剣士ギルドの命令なんでね、と女は立ち上がり、うきうきと重そうな剣を背負う。
「お前、本来は命令する側だろう、最高権力者。この戦闘馬鹿が」
「言ったろう?馬鹿さ加減は治らないものサ」
にぃと笑う。その笑みは若い女性の笑みと言うよりも全てを悟った仙者の微笑であった。
「あれから何百年経とうと・・ね」
冷めた目で師は言い放つ。
「さっさと行け、婆なんぞ見たくない」
だが、その裏にあるものを知っている。
「爺に言われたくないね。いい加減滅んだらどうだい?」
言い返したところでこの日初めて師は笑った。
笑うというよりも企んでいるかのようににぃ、と口元を吊り上げる。
「戻ったら私にも砦の報告をくれ」
「あぁ、嫌と言うほど婆の顔を拝ませてやるサ」

年月という枠から外れた人々のお話。
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by vrougev | 2007-03-28 12:18 | 小話

第一文   death

この日の天気は雨だった。
すすり泣くように振りはじめた雨は泣き止むどころか益々強くなり、雷雨へと変わる。
子供の癇癪のような雨空。だが、天気に気に留め足を留める者などいない。関係なしに人々は歩む。全てが進むのは何処も同じ。そして、自然の摂理。
この時、一人の少女が歩み止める道へと一直線に向かっていた。少女はこの嵐の中、箒に飛び乗り、友人との待ち合わせに急いでいたのだ。服が濡れるのも構わず天を駆けた。
気まぐれな癇癪が彼女を襲ったのだ。一閃。途端に彼女の箒は焼け焦げた。燃え落ちる木片。空に放り出された少女は驚いたと言うような吐息を漏らした。高度数千メートルからの落下。
終着点は一つしかない。
「おーちーるーぅー」
少女の長いスカートが空気を孕む。空気抵抗。激しく布地がはためき続ける。
瞳は虚空を見つめていた。何も映らない。何も映さない。
せっかく整えた髪も衣装も台無しだ。少女は「あーぁー」と呑気に呟く。自らの身よりも身だしなみのほうが大切だというように流れる髪に手櫛を掛ける。場違いな行動。
少女は魔術師だった。いや、まだ師の元に居るのだから魔術師見習い。しかし彼女は優秀な魔術師であったと記しておこう。そんな彼女が落下を防ぐ手立てはあったのだ。
再び、飛行呪文を唱えればよかったし、呼べば直ぐに飛んでくる頼もしい使役獣だっているのだ。今からでも間に合う。けれど、少女は落下し続けた。
唱える気も、呼ぶ気もなかったから。
重力に逆らう事もなく、雲を切り裂く、風が痛い。
緑が見えた。土色も。
「大地に到着ーぅ」
少女は深く息を吐き、目を閉じた。

衝撃。

人通りの多い道路の上に倒れた少女。四肢は投げ出され、目元は前髪で隠れている。
まるで人形の様。
人々は彼女に目もくれずその脇を過ぎて行った。何人も、何人も。
地に横たわったぴくりとも動かない少女は。
「あーもー、また死んじゃったー。師匠ーぉ。助けてぇー」
「・・・自殺に救済は要らない」
何処から聞こえる呆れた声。声と共に光。暖かな色に包まれた少女は何事も無かったかの様に立ち上がる。そして、一伸び。
「ありり♪師匠っ♪」
見えない師にお礼。彼の「この馬鹿弟子が」と言う声音に笑い、少女は再び生を歩く。
急がなきゃ、遅れちゃう。

物質的な死のない世界のお話。
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by vrougev | 2007-03-16 22:20 | 小話

前文

小さな魔法が当たり前の世界のお話。
剣士、魔術師、法術士。狩人、暗殺者、狂戦士。職業の自由が約束されていた。
人間、妖精、小人、獣人。全ての種族が平等に祝福され、文化と社会を築いている。

自由で、平和な世界。愛し愛される世界。


Is that really right・・・・・?
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by vrougev | 2007-03-16 21:00 | 小話