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【七周年記念SS】空砲

これは、彼等が旅をし終わった後のほんのちょっと未来の話。

空砲
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by vrougev | 2012-07-24 02:06 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   6

「あははははは!」
操られたフィーリは壊れたように笑いながら、両手でぶんと杖を振り回した。
ロジェは咄嗟に身を屈んだ。ひゅっと上空で空が切れる音がし、直撃を回避する。
まずはフィーリの動きを止めなければ。
視線を低くした状態から足払いを掛けようとして、ロジェはあることに気づいた。
自ら振り回した杖の反動でフィーリがふらふらとよろめいている。
今度は叩き潰さんと真上から振り下ろされた杖を横に跳び退けながら、ロジェは再びフィーリの動きを注視する。
普段と比べ、のろのろと攻撃の動作にキレがない。それどころか、自身の武器の重さに振り回されているような攻撃ばかりを繰り返す。まるで喧嘩を覚えたてのごろつきの様だ。
どうやら操り主は接近戦初心者のようだ。少なくとも、フィーリの扱いに手間取っている。
「逃げてばかりじゃなくて、遊んでよ」
「お断りだ」
不満げに文句を漏らすフィーリもどきの打撃を黒太刀で捌きながらロジェは淡々と答えながら考える。
問題はフィーリの知識をどこまで共有してしまっているのか、だ。
後ろに跳び、一旦フィーリとの距離を置いたロジェはおもむろに今まで攻撃を防いでいた黒太刀を鞘に納めた。
獲物を自らしまった今を好機と思ったのか、光無き目を見開き、陰湿な笑みを浮かべた。
「さよなら」
馬鹿の一つ覚えのように振り回される杖が首を吹き飛ばさんと迫りくる。
ロジェは顔面に触れるか否かの一瞬を見計らって腰を落とし、力強く地を蹴った。
「……ッ!?」
杖はリーチが長い故に隙が出来やすい。
一気に距離を縮めたロジェは懐から取り出した小太刀で鞘ごとフィーリの手首に叩きつけた。
予測外の出来事だったのか、フィーリもどきは痛みに顔を歪める。
怯んだ一時の隙にあおりを支えきれなくなった手から杖が離れた。
ブーメランのように飛びだした長杖は勢いそのままロジェの頭上を飛び越し、後方に捨て置かれた枯草の中に落ちた。
「もうお前の武器はない。さっさとそいつから離れろ」
ロジェはフィーリもどきから目を離さず、警戒を続けながら立ち上がった。
フィーリの持ち物の中で誰でも武器だと分かり用いる事が出来る品は杖のみである。
しかし、魔術が使えるなら話は別だ。フィーリの膨大な魔力の恐ろしさは魔術師ではないロジェでも分かる。
余裕と平常を装いながらロジェは問い掛けた。
「お前が“セイレーン”なのか」
フィーリは答えなかった。代わり虚ろ眼でにたりと笑むと息を吸って、声を張り上げた。
其れは人の声とは到底呼べぬものだった。叫びと云う凡庸な例えにすら当て嵌まらない音。
音ですら無く、そう感じる事すらも錯覚なのかもしれない。三半規管が、脳が、脊髄が、ぐるりと回って迷子になる。
右も左も、上も下も、自分が何者かも分からなくなるような混濁感がロジェを襲った。
体中の毛が逆立ち、額にはじっとりと嫌な脂汗が滲む。
じわじわとナニカが這いあがる様にロジェを侵蝕していく気持ち悪さに思わず片膝を付く。
深く息を吐きながら顔をあげると、声を発しているフィーリの姿をした怪異と目が合った。
生気がない濁った瞳の筈なのに、何処か興味津々と言った様子で其れはロジェをじいと見つめている。
その瞳はまるでロジェを試しているようだった。
フィーリの姿が重複する。無表情だった性悪魔術師が普段のように笑い、拗ねたように口を尖らせた。
『ロー君、其の程度の相手やられちゃうの?つまんないの。ねえ、もっと僕を楽しませてよ』
その姿や声は朦朧としたロジェの意識が引き起こした幻覚であり幻聴である。
しかしまともな判断能力が失われたロジェには本物のフィーリの言葉にしか聞こえなかった。
「……ふっ、ざけんな」
誰がつまんない存在だと。誰を楽しませろだって。
絞り出すように上げた声に幻影は微笑む。そしてロジェの耳元で愛を囁くように笑顔で煽り立てた。
『ふざけてなんかないよ。僕のロー君はいつだって誰よりも強いんだから♪』
「…………黙ってろ」
ロジェは無意識に唇を噛み締め、握ったままだった小太刀の鞘を引き抜き捨てる。
第一、誰がお前のものだっていうんだ。
抜き身の刀身をロジェは自らの左肩に突き刺し、勢いよく引き抜いた。
全身に広がる痛覚に思わず呻く。ロジェの行為にフィーリもどきが「ひっ」と息を呑む音が聞こえた。
肩から溢れるどろりとした生温かい血と伴い脈打つ身体が、心身をつんざくぬるま湯のような幻覚を打ち払う。
自身は此処に生きて立っているのだと否応にも教えてくれる。そして今、何をしなければいけないのかも。
「さっさとその馬鹿の身体を……返せ」
『流石、僕のロー君♪』と何処かで幻覚が笑った気がした。
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by vrougev | 2011-11-15 23:34 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   5

「歌、だと……?」
ロジェは自らの耳を疑う。旋律と言えば旋律なのか。
聞けば聞くほど奇妙な歌だった。いや歌…、音だといっていいのかも分からない。
心地よいと感じ。内臓が競り上がる感じ。様々な感情がぐちゃぐちゃと混じったような響きにロジェは思わず口元を押さえる。
気持ち悪い。
「これが原因か……」
村人とみられる者達の異常は四十八九この得体のしれない歌のようなものであろう。長時間聞いていれば確かに操られてもおかしくない。
「戻るぞ」
さっさと道を引き返すぞ、振り返り、ロジェは異変に気づいた。
フィーリが先ほどから一言も喋っていない。
この異常な歌に普通だったら騒ぎたてるだろう魔術師は黙ったままこの現象と直面していた。
虚空を見つめたまま、豊かな表情を一切消した無表情のフィーリ。
「おい、聞いているか」
声をかけるもフィーリがロジェに気づく様子はない。ただぼんやりと虚空を見ていた。
その様子から、最早嫌な予感しかしなかい。
一刻も早くここを立ち去るべきだ。
ロジェはそう判断を下すと、フィーリの腕を無理矢理掴んだ。
「帰る」
「やだ!」
今まで反応すらしなかったフィーリが突然反応を返した。
しかし、ロジェのほうを振り向かず、ただ一点を見つめているのみである。
何がしたいのか分からない。
「フィーリ!」
諌めるようにロジェは強く名前を呼ぶと、だって!と更に言葉が返ってきた。
まるでロジェに縋る様に手を伸ばしてきたフィーリの手は、かたかたと震えている。
「…フィーリ?どうした」
何かを伝えたいかのようにぱくぱくとフィーリは口を動かす。
つぅと頬に一筋、涙が流れ落ちていく。
「………やだ。行っちゃいやだよ…!」
縋ってきた手がぎゅっとロジェの手を掴んだ。
途端、フィーリはロジェを勢いよく突き飛ばしたのだった。
突然の行動に不意を突かれたロジェはよろめき、片膝をつく。
そんなロジェの上から、容赦なく杖が大きく振りかぶられた。
がき、という鈍い音。
「どうしたの?ロー君」
まるで何事もないかのようにロジェに杖を振り下ろしたフィーリは微笑んだ。
「意識の乗っ取り、か。…何者だ」
瞬時に抜刀した刀でその杖を抑えつけながらロジェは溜め息をつく。
フィーリ、いやフィーリの器に入ったナニカは肯定するかのように一層深く微笑んだ。
「何者でしょう」
乗っ取ったものが先刻断固として振り向かなかった理由がようやく分かった。
虚空しか見つめない死人のような濁った瞳。生者の輝きなど一切ない。
これでは騙そうと思ってもすぐにばれるだろう。
「フィーリ、馬鹿されてないで帰るぞ」
「えー。こんなに奇麗な歌声なのに、聞かないのは損だよぅ」
フィーリの動作を真似ているのか、それとも知識を共有した結果か。
その動き、振る舞いはそっくりである。
「これが歌に聞こえるのか」
「歌以外の何に聞こえるの?」
ロジェの問いにフィーリは更に問い返してきた。
何に聞こえるだろうか。
混ざりすぎていて、何が何だか分からない。しかし、何処かで聞き覚えのある音達。
一体なんだと問われても、答える事は難しかった。
「少なくとも、俺には歌に聞こえない」
「そっかぁ、残念」
ロジェは押さえ込まれたままだった杖を払いのける。
「そして、俺には興味もない」
いとも簡単に払われ、フィーリは「わわっ」と声を上げた。
ロジェは静かに刃をフィーリに向ける。
「だからさっさと正気に戻れ」
構えたロジェにフィーリを乗っ取ったモノは困ったように肩をすくめた。
「本当に、残念だよ。」
そう言って、ぶん、と杖を振った。中央に埋まった宝玉がきらりと光る。
「君なら分かってくれると思ったんだけどな」
濁った瞳のままフィーリはいつものように微笑んだ。
「大好きだよ、ロー君」
溜め息をつくしかなかった。
「そんな物真似は要らないんだよ」
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by vrougev | 2009-04-19 22:36 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

番外編   澪標の理由

剣士と魔術師が繰り広げる目的在る当て無き旅物語の些細な断片より


今となっては昔、独りぼっちの魔術師は独りを好む剣士に云った
「僕と一緒に行かない?」
鳥と呼ばれる魔術師と狼と呼ばれた剣士の出会い
此れこそが全ての始まり、ハジマリ
そして現在に至るのであるが―――――


「ねー、ロー君。こんなにいい天気なんだしさ、少し休んでいかない?」
事は常に上機嫌である魔術師の我侭から始まる。今も、そしてあの時も。
物語はいつも此処から。
「いい天気の時こそ進むべきだと思わないのか、お前は」
少し常識から外れた発言に意見するのは剣士の役目である。
相方の我侭に呆れた声で答えた。
「いいじゃないかぁ♪急ぐ旅でもないんだし、ねっ♪」
確かに先を急ぐ必要はない。だが、だからといって休む必要も無いのであるが。
二人の頭上で、太陽は今日も休むことなく世界に光を供給している。雲ひとつ無い良い天気だ。
「じゃあ、昼間休んで夜に動こう♪
 夕方ぐらいから歩き始めれば深夜になる前に街に着くでしょっ♪」
「却下。第一、晴れているからといって夜も晴れると言う可能性は…」
剣士の言葉は最後まで紡がれる事は無かった。皆まで聞かず魔術師は走り出す。
「丁度大きな落葉樹があるし、あそこで休もうっ♪」
手を振り剣士を招く魔術師。調子に乗ってはしゃぐ彼を止められる訳も無く。
こうなったら仕方無い。
残された剣士は過去より癖となってしまった溜息を付いた。
男は招かれるままに足を踏み出す。
丘にそびえる巨樹は立派だった。年輪を数えるまでも無い。
齢百年…いや、もっと年経ているだろう。
木陰を作るには十分過ぎる若葉をそよ風に靡かせる。
身体を揺らし、枝を揺らし、二人を歓迎する。堂々とした風格溢れる木の下での小休止。
「えへへー♪こんなの久々だねっ♪」
「……約束通り日が暮れた出発するからな。それまで十分休め」
普段と違う。けれど変わらない。何も無い、至極普通である平穏な午後。


幾ら傍に人がいるとはいえ、無防備過ぎるんじゃないのか。

剣士、ロジェ=ミラ=クレセントは共に旅する魔術師を見て再び溜息を付いた。
真っ直ぐで艶やかな髪に華奢な体躯、透き通るような白肌。
女性と偽ってもおかしくない容姿の魔術師は草原で大の字を描いて寝ていた。
魔術師の名前はフィーリ=メ=ルーン。魔術師としての名を“流浪の鳥”と名乗るこの男。
ロジェ同様、木にもたれ掛かっていたはずなのだが、少し目を離したらコレだ。
本人曰く「可愛いから」という理由だけで穿いているスカートの裾は乱れ、僅かに捲れたシャツからは風が吹く度に肌が見え隠れしている。此れが男だというのだから世の中は恐ろしいと改めて思う。
今は一年の中でも過ごし易い季節だと言われているが、それでもこの格好はどうだろうか。
「おい、フィーリ。風邪を引くぞ」
ロジェが声を掛け、揺するも起きる気配は見られない。
元々寝相の良くない奴だ。起きる訳が無い。
寝顔は穏やかに微笑んでいる。察するにきっといい夢を見ているのだろう。
起こすのも悪い気がした。
「全く…」
仕方の無い奴だ、と続けようとしてロジェは木上から投げられる視線に気付く。
視線に敵意はない。
見上げると其処には鳥が一羽。真夏の空に浮かぶ雲のように真っ白な鳥だ。
詳しくないため名前までは分からないが、群集する種の鳥だったとロジェは記憶している。
群れとはぐれたのか。
視線が合うも鳥は飛び立たない。視線を逸らすことなくロジェを見つめ続けている。ロジェは鞄から乾パンの欠片を取り出し、細かく砕き、手に乗せた。此れ位の大きさなら大丈夫だろうか。
「食べたいなら来い」
意味が通じたとは思えない。
だが、まるでロジェの声に答えるかのように鳥はロジェの手へ止まった。
元々人懐こい鳥なのだろう。警戒する様子もなくそのまま小さな嘴で乾パンを啄ばみ始めた。
「一羽だけだと寂しいだろう」
一声。高い音の短い鳴き声だけが草原に木霊する。
肯定なのか否定なのか。ロジェには分からない。
「食べたら早く仲間のところに戻るんだ、いいな」
ロジェは鳥にそう言い聞かせる。そしてふと、魔術師に目をやった。
流浪の鳥は存在していた。いや、今も存在はしている。
其の名を持つ魔術師は此処にいるのだから。
昔の話だ。そう、路地裏で見つけたのである。そして俺は其の手を取らずにはいられなかった。
一体どうして。愚問としか呼べない心中の問いにロジェは一人微笑む。
そんなもの、決まっている。


幾ら僕がいるからってどうかと思うんだけどな。

目を覚ました魔術師、フィーリ=メ=ルーンは共に旅する剣士を見て苦笑した。
時は既に夕刻。日の姿はもうほとんど無く、空は茜色から夜色に染まろうとしている。
夜色の闇と同化するかのように全身黒尽くめの男が此処に一人。
黒い髪、黒い服、そして黒い太刀。
剣士の名はロジェ=ミラ=クレセントと言う。通称“ロー君”。命名は勿論フィーリである。と同時にこの呼び名で呼ぶ者もフィーリの他にいない。初めこそ本人もこの呼び名を嫌がったが、今では何も言わずただ溜息を付くだけだ。こう言うのを「時が解決してくれた」と言うのだろう。
だって、せっかくなら呼び名は可愛いほうがいいし、ね♪
剣士は幹に身体を預け、静かに目を閉じていた。時折吹く夕風で黒髪が揺れるも、それ以外はぴくりと動く気配も無い。腕中に愛用の黒太刀を抱きしめ、利き手でその柄を握っている。どんな時でも警戒を忘れない。
彼故の、恐らく無意識の行動だ。そんな男だから目を閉じているだけなのかと思った。
「ロー君っ♪ごめんね、寝すぎちゃった♪」
動かない。
「上着まで掛けてもらっちゃって…、寒かったでしょ?代わりに今から僕が暖めるからー♪」
そう言ってフィーリはいつものように剣士に擦り寄るも矢張り、動かない。
もし起きているのならば此処で「五月蝿い」なり「やめろ」なりの声が飛ぶはずなのだが。
「ロー…くぅん?」
小さな寝息。珍しい、ロー君が寝ているなんて。あ、夜とかは普通に寝るけど、そうじゃなくて。
恐る恐る寝顔を覗くも想像通り無表情。元々仏頂面な人は寝顔も仏頂面らしい。
少し残念、なんて。
「全く…もうっ!これじゃあロー君が風邪引いちゃうじゃないかぁ…!」
寝ていたフィーリに掛けられた彼の上着。自らが寝るにもまだ肌寒いはずなのに使いもせず。
自分のことを気にせず真っ先に他人を気遣い守る剣士にフィーリは苦笑する。
「いつでも僕ばっかり気にするんだよ。…ねぇ、君は可笑しいと思わない?」
誰に話しかけるわけでも無くフィーリは言う。いや、正確には話しかけていた。
草原の影に一匹の獣。
身を潜めながら此方を窺う狼の姿にフィーリは微笑む。狼の鋭い眼光に怯える様子は無い。
なぜなら。
「羨ましいかい?変われた存在が」
燻銀の孤狼は確かに存在していた。だが、今はもう存在しない通り名。
狼は騎士になったのだから。
昔の話だ。そう、路地裏で見つけたのである。そして僕は近寄らずにはいられなかった。
一体どうして。愚問としか呼べない心中の問いにフィーリは一人微笑む。
そんなもの、決まっている。


夜、ロジェとフィーリは歩き出す。ロジェは先導を取り星見、フィーリは後方から灯りで照らす。
日は既に没した後の世界、辺りすっかり夜色に包まれてしまっている。光と呼べるものは空に浮かぶ少し欠けた月と数多の星々の微々たる光、そしてフィーリの魔術によって光る杖のみだ。幸いな事に今晩は晴天のため星がはっきりとぼやけることなく見える。これなら方角を違える事もなさそうだ。
「ロー君はさ、僕と旅していて楽しい?」
星と星見盤を照らし合わせていたロジェに突然、奇怪な質問は降りかかる。
「……一体どうしたんだ」
「ん、少し思っただけだよ♪」
フィーリの弾んだ声にロジェは影で溜息を付く。上機嫌な声。
だが常日頃から聞いていれば分かる。
普段の其れより幾分か押し殺した其の声は紛れも無く、作り声だと。
「安心しろ」
一体何に対して「安心しろ」なのか。本人すら分からない。けれど、安心させなければと思った。
「楽しくない訳ではない」
苦労が多すぎるだけ。けれどそれも既に慣れた事。ならば残るのは、考えるまでも無い。
急にロジェの背中にどん、と衝撃が走る。暗闇故、身構えたものの衝撃はよく知ったものだ。
「フィーリ、突然抱きつくな。止めろ、邪魔だ、離れろ」
首に回される腕を払いのける。フィーリの表情は見えない。だが、きっと笑っているのだろう。
「だってぇー♪ロー君の背中は抱きつきやすいんだよぅ♪」
上機嫌な、いつもの声。
はぁ、とロジェは本日四度目の深い溜息を付く。いや、四度で済むならマシな方だろう。
首から離れたフィーリは定位置と化しているロジェの腕へと手を伸ばし、抱きしめる。
「ねぇ、ロー君。ずっと一緒だよ♪」
存在を確かめるかのようにぎゅっと強く腕を抱くフィーリにロジェは五度目の溜息と共に返す。
「……はいはい」


一体どうして。愚問としか呼べない心中の問いに彼らはこう返答するだろう
魔術師は楽しく笑いながら。剣士は淡々と無表情に
そんなもの、決まっている
其の存在は心から欲していたモノを持ち、必要なモノが欠けていた
ただ、それだけ。しかし、それ故に惹かれたのだ、と
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by vrougev | 2008-12-25 20:03 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   4

フィーリの嬉々とした声と共に背後を守るようにロジェも抜刀した刀を閃かせた。露濡れの刃は鈍く輝き主の命に素直に従う。久々の軽い運動とするか。
ロジェは器用に刀の峰だけを使い、相手を気絶させていく。その隙間を縫うようにフィーリの杖が飛び交った。本来杖は殴るためのものではない。だが中に合金を、天辺に宝玉を埋め込んであるならば話は別だ。ある程度の重さを持った鈍器となる。
「天誅、っと♪」
フィーリは上部より杖を一気に振り下ろす。みしっと何かがへこむような音が響きロジェの腹部を狙っていた村人が倒れた。
「魔法を使え、いい加減」
あの音だと相当痛かっただろう。実体験を思い起こしロジェは心中で合掌した。
南無。
「えー♪こうやってロー君と一緒に戦っているのが楽しくて好きなのにぃっ♪」
「……そうか」
魔法使いなのに魔法を使わない女のような男にロジェは呆れている間に背後でまた一人誰かが地に沈んだ。ロジェも気絶させた二人を容赦なく放り投げる。フィーリの答えの最中にまた一人。会話こそ淡々ほのぼのとしているが手は休む事を知らない。
「共闘って言葉にロマンを感じない?」
両手に持った杖を思い切り振り回し、一気に複数人を薙ぎ倒す。行動とは似つかずフィーリのスカートの裾はふわりと優雅に舞う。
「感じるか」
そう言ってロジェはフィーリの顔面に向かって蹴りを放った。にこやかな表情のままフィーリは僅かに首を傾け、蹴りを回避する。と、背後に立っていた村人に直撃し、変な声を上げながら彼は大の字に倒れた。元々それが狙いだったのだが。
「もっと普通に守ってよねっ♪」
不満を露にしながらフィーリは手をひらひらと振る。その手には護身用の魔方陣が描かれていた。怪しげに輝くそれは術者の一声で発動できるまでのもの。
「誰が護衛になった。対処できるなら対処しろ」
全く、とロジェは天を仰ぎ、息を吐く。曇天が晴れる気配は無い。
「ひ、ひぃっ!!」
力の差を知りすっかり勢いがなくなった集団は一歩ずつ後退を始める。既に村人の瞳に戦意はなく、完全に怯えてきっていた。元々戦闘集団ではないのだ。群れた仲間が倒れれば恐怖し、いずれ士気をも勝るに決まっている。
「あららー♪お終い?骨が無いなぁ…全くもうっ♪」
まるでどちらが悪なのだか分からない台詞を呟いたフィーリはあはっ、と声を上げて同意を求めるようにロジェに向かって微笑む。呆れ半分といった表情をロジェは浮かべたはずなのに何故かフィーリは満足したような顔でこくんと見た目だけは可愛らしく頷く。そう、見た目だけ。ぱっと杖を手から消したかと思うと、逃げ遅れ草陰に隠れていた男の首元をぐいと掴み持ち上げた。
「で、どうして僕たちを襲ったのかな?教えてくれない?」
優しげな風貌とは裏腹にその瞳は男を真っ直ぐ見、言葉に出来ない確かな威圧を掛けていた。そういえばつい先日もこいつはこう他人を脅していなかったか。
下手な恐喝より怖い笑顔。笑顔に釣られるように男も引きつった笑みを浮かべる。
最近、凶悪さが増してないか。
まぁいい。その矛先は自分じゃないのだから。
「お、俺は何も知らないっっ!!」
引きつった悲鳴の声の様な声を上げながらも力を振り絞り手足をばたばたとばたつかせる男。「本当に?」「知らない!」と言う問答が何度繰り返されたか。男の顔の色が赤から紫へと変わり始めた時、フィーリはどさりと男を投げ捨てた。
「どうした」
あまりにも突然の行動にぱんぱんと手を払うフィーリにロジェは問うた。
「ん、本当にこの人達はただ怯えているだけなんだなって思ってさ」
口元だけで微笑むも、その顔はどう見ても作った笑いでしかない。何かを探すように二三視線を彷徨わせたフィーリは崖向こうの海を指差した。
「ほら」
風が吹いた。潮風に乗って海鳥と共にそれは流れて来た。
ぴぃんと、ふわりと。真っ直ぐに、緩やかに。
「歌が聞こえる」
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by vrougev | 2008-04-30 00:02 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   3

娘が目覚めた時、村は廃墟になっていた、と言ったか。
フィーリの言った通り、確かに其処には村があった。
ただ、これは村と呼んでいいものかどうか。
今では珍しいトタンの屋根は潮風により赤錆色に変わり果て、外壁の木材はシミのように黒ずんだ家々が立ち並んでいる。道と思われる場所は背の高い草々に覆われ、既に道としては機能していない。
打ち寄せる波の音は虚しく、寂しげな声で海鳥は鳴いていた。
視界を遮る霧は漁村の古めかしい不気味さに一層磨きを掛けている。
「確かに、民話通りだな」
皮肉を込めてロジェは言う。フィーリは心底不思議そうに首をかしげた。
「あれれ?村民の気配がないよ?どうしてだろうね?」
村人の気配はない。しんと静まり返った冷たい空気の中、ロジェは頷く。
霧はじっとりと肌に纏わり付き、衣服を湿らせる。
「あぁ。どうしてだろうな」
腕に抱きついていたままのフィーリを引き剥がしたロジェは僅かな金属音を立てて鯉口を切った。ひゅっ、と言う風切り音と共に近くの草々がばらばらと倒れる。
「俺たちがこうして囲まれているのは」
草陰には襤褸服を纏った老若男女がフィーリとロジェをぐるりと取り囲んでいた。手には錆びて切れ味の悪そうな斧や鎌、中には漁に使うような網や銛を持っているものも居る。好意的な歓迎ではないのは明らかだ。
「贄だ…、セイレーン様に捧げる贄が来た……」
「これで暫しの間、嵐から逃れられるぞ…!」
ロジェはその言葉に首を傾げる。外部と接触の少ない閉鎖的な村や街では部外者を必要以上に恐れ、自らの土地から排除しようとする場合が多々ある。
今回もその類かと思ったのだが、彼らの様子を見ているとどうも違うようだ。
「セイレーン?贄?何のことだ」
「さぁ?でも、大歓迎だよねっ♪」
ロジェの腕から離れたフィーリの生き生きとした表情を見て、ロジェは苦笑する。
村人達に歓迎されているのか。それとも自分達が歓迎しているのか。
フィーリの顔を見る限りだと後者な気がするのは気のせいだと思いたい。
…いや、気のせいじゃないな。ロジェは心中で訂正する。
無意識に笑みがこみ上げている自分が此処にはいた。この状況をフィーリならずロジェも楽しんでいるのだから、人のことを言えたものではない。
「捕まえろ!!」
頭と思われる男の声を皮切りに一斉に四方八方から襲い掛かる、人、人、人。
にまり、と微笑んだフィーリは杖を振り上げ、軽快なステップで人々の前に躍り出た。
「いくよ、ロー君っ♪」
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by vrougev | 2008-04-25 20:35 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   2

「と、言うわけでー♪不老不死を探しに行きたいと思いまーすっ♪」
相変わらず突拍子も無いフィーリの発言にロジェは冷静に返す。
「話が見えん」
『たまには海を見ながら旅したい』、というフィーリの要望に答え海岸沿いの道を選び、目的在る手がかりの無い旅を続けていた。先刻までの会話をロジェは思い出す。
海といえば、とフィーリが民話を語り、そして現在に至る。
どうやったら今の話から不死に辿り着く事が出来るのだろうか。
「う、どの辺が?」
当の本人は全くおかしさに気がついていない。ロジェは本日数回目のため息をついた。
「全部だ。どうして今の話で不老不死が出てくる」
「あれ、ロー君知らない?知っているからこの道を選んだんだと思っていたんだけど」
どうやら知らぬうちに曰く付の道に来ていたらしい。ロジェは後悔よるため息を再びつく。何か、がある道だと知っていたのなら絶対に通らなかったのに。
「単なる何処にでもありそうなこの民話、実は本当にある話らしくってさぁー♪」
ロジェの心中を知らないフィーリは嬉々として尋ねた。
「どうして娘さんが起きた時、長い年月が経っていたと思う?」
知るはずがない。ロジェは首を横に振った。
「娘さんは死なない身体だったからさっ♪」
自信満々に言い放つフィーリに「非現実的な」と呟きたいのをぐっと堪える。
ロジェは思う。そう言えば、フィーリもまた別な方向で非現実的な奴だった。
世界の中心といわれる『要の国』の第一王位継承者で、かなりの力を持った魔術師。
聞こえはいい。実際、確たる地位も在る。見た目もいい方だろう。だが。
ロジェはちらりと横目でフィーリを見やる。
本日の格好はゴシック調でフリルをふんだんにあしらったワンピース。そして同色のリボンで真っ直ぐ伸びる針金のような薄茶の髪を結いあげている。ガーターベルトでニーソックスを吊り上げ、靴もヒールがある厚底だ。
童顔、長髪、女装を好む、魔術師の男。これを非現実的と言わず何を言おうか。
現実離れしている、と称したほうが表現的には正しいかもしれない。
「……で、その紅い液体は実は……、ってロー君聞いてないでしょっ!」
「聞いている」
むぅと、一瞬頬を膨らませた非現実的な魔法使いにロジェは淡々と返す。
そんな奴と旅をしている俺も、俺だが。
「ともかく!此処がその民話の舞台なんだってっ♪あ、正確にはこの先の漁村がそうらしいんだけどさー♪」
地図をひらひらと風になびかせながら楽しそうにフィーリはくるくる小躍りする。
「村は滅びたんじゃないのか?」
民話との矛盾。
そんな曰く付の場所で一度は滅んだ村が復興するだろうか。全てが絶えてしまったはずなのに新たに人が着て住まうというのはなかなか考えにくい。
「さぁ、復興したんじゃないのかなぁ?全てが実話はじゃないのかもっ♪」
「妙だな…」
「ま、行けば分かるって♪」
ロジェの心配はフィーリのお気楽な一言によって打ち消される。
そうだな、と同意してから在る事に気付いたロジェは再び大きなため息を漏らした。
あぁ、また自ら問題に首を突っ込もうとしている。
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by vrougev | 2008-04-19 09:15 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

十話   歌姫の尾ひれ   1

これからお聞かせするのは在る地方に伝わる一つの民話。
小さな漁村の岬のお話です。其処には一組の夫婦が住んでおりました。
夫婦は貧しいながらも幸せに暮らし、在るとき一人の女の子を授かったのです。
透き通るような白い肌。
陽射しのような暖かみのある金色の髪の毛、そして海底の様な深い青色の瞳を持った子供でした。女の子の誕生に夫婦は大層喜び、大切に育てました。
その女の子は夫婦の愛を受けてすくすくと幸せに育っていきます。
めでたし、めでたし?そう簡単には終わりません。悲劇は此処から始まるのです。
娘が、少女と女性の狭間の齢になったとき、悪夢は突然訪れます。
漁村で流行り病が伝染し、村人達は次々と病魔に伏し、死んでいきました。
夫婦と娘も例外ではなく病に倒れたのです。
今にも死にそうな虫の息の娘に、両親は紅い液体の入った小瓶を渡し、言いました。
「可愛い娘や、これは唯一の薬。苦いがきっと良くなるはずだ。お前だけでもお飲み」
娘は両親の言葉に従い、その液体を飲み干しました。
と、同時に急激な睡魔に襲われ、娘は混濁とした闇の中へと落ちていきます。
あぁ、私はもう死ぬのね。そんなことを朦朧とした意識の中で感じました。
それから、どれ位の時間が経ったでしょう。在る朝、娘は目を覚まします。
ざざぁ、ざざぁ、と響くのは波の音。ちゅん、ちゅん、と鳴くのは鳥の声。
娘は布団から起きました。すっかり身体は軽く、病気に掛かっていた事がまるで嘘のようです。娘はなんだかとても歌いたい気分でした。
小さく鼻歌を口ずさみながら少女は父の元へ、母の元へと向かいます。
「おはよう。お父さん、お母さん。私はもうすっかり元気になったわ」
どれ位の時間が経ったのでしょう。
娘の両親は居間の椅子の上で、キッチンのレンジの横で。肉一つ残さず綺麗な骸骨となっていたのでした。其処にもう村はありません。在るのは潮風に吹かれてぼろぼろとなった廃墟のみ。
どれ位の時が経ったのでしょう。
娘が其れから楽しそうに、狂ったように歌い続けているのは。
物語はこれでお終い。めでたし、めでたし。

さて、本当にこれでお終い……?
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by vrougev | 2008-04-17 22:40 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

九話   RUN AWAY!!   23

結局ロジェ達は「要の国が送り込んだ偵察者」と言う事になり、列車を救った勇気ある者として丁重に持て成された。魔導車両での状況を報告すると、どの国の王も寂しそうな何とも言えぬ表情をして「そうか」と呟くのみであった。後でベルナールから聞いたのだが世界全統治を目指すためならばどんな事でもやる評判の良くない国であったようだ。
後日、要の国の王がなんらかの処置を取ってくれるらしい。処罰は公にはされないだろうけれども、下手をすれば各国の中枢が大勢死んでいたかもしれないのだ。其れぐらいの処置は当然だろうとロジェは思う。
その後、数日間フリフ国に滞在していたが、昨日出国してからはまたいつもと変わらぬ二人旅をしている。
森の中でロジェは晩御飯の味見をしながらふと思い返し、疑問に思う。
魔石はどうしてあんなにあっさり砕けたのだろうか。
あの時、石を斬ったような固い手ごたえはなかった。衝撃が強いだろうからと両手にしたのだ。
だが、衝撃どころか手ごたえもほとんどない。斬ると言うより触れた、と言う方が正しい。
……俺は斬っていなかったのか。なら、何故砕けた。
ロジェの思考は沸騰した鍋の音によって中断される。吹き零れそうな鍋が笛を鳴らし危険を知らせた。
まぁ、終わった事を気にしていても仕方がない。
思考に結論付けながら鍋を安全な場所に移し、ロジェは気がつく。
「…フィーリ、何処行ったんだ」
もう直ぐ飯だというのに。

「もー!大変だったんだよ!?」
ロジェのいる場所から少し離れた場所でフィーリは杖に向かって話しかけていた。通信先の相手は飛鳥。
「悪い、悪い。で、急に俺に何の用だ?」
悪びれた様子も無い声音が杖を通して遠い距離を繋ぐ。連絡を取ったのは珍しくフィーリからだった。
用は唯一つだけ。どうしても確かめておきたかった。
「ねぇ…飛鳥、あの場所にいたでしょ」
「何のことだ」
はぐらかす様に。それとも本当に何も知れないのか。
「僕は魔石に触れて魔力を一時だけれど奪われた。僕の魔力は普通じゃない。それなのに奪われたんだ。あんな事が出来るのはCIRCLE、もしくはそれ以上の力がないと無理だと思っている」
「ほぅ」
CIRCLE以上の魔術師はヒトではそういない。精霊と言う意見もあるかもしれないが飛鳥に連絡した訳は。
「そして、魔石の中に一瞬だけど…蔦が見えた」
「………蔦ねぇ。あの双子のじゃないのか?」
いつも通りの受け答えの中に出来た一瞬の沈黙。他に逃げるかのような答え。
「何を考えている、紅末飛鳥」
普段の様子からは想像付かない程に厳しい声でフィーリは問うた。
「『宰』は何を助け、司っているか。お前は分かるか」
「『宰』…?何それ。知らないよ」
突然現れた単語にフィーリは首を捻る。何処かで聞いた記憶も在るがそれが何処だったかは思い出せない。
「だろうな」
くくくっ、と飛鳥らしい笑いが向こうから聞こえ、フィーリは訊ね返す。
「飛鳥は知っているの?」
「さぁな」
相手を挑発するような口調に更に問いただそうとフィーリは口を開くが其れは紡がれず。
「おい、フィーリ!飯出来たぞ」
ロジェのフィーリを探す声に遮られる。うぐ、と口を噤むと向こうからも忍び笑いが聞こえる。
「むー…笑わないでよぅっ!」
控える気のない忍び笑いにフィーリは不機嫌に口を尖らせた。
「大切にしろよ。いつ何が起こるか分からないからな」
「え?」
問い返す間も無く通信は切れる。そして見つかった。叢の木の上。
「フィーリ!此処にいたのか」
下から見上げるロジェの顔には呆れた表情が浮かんでいる。フィーリはぱっと瞬時に笑顔を浮かべる。
「はーいっ♪待っててっ♪今、行っくよぅー♪」
へらへらと笑い木を降りるフィーリにロジェは「全く…」と呟くのが聞こえる。
フィーリは飛鳥の言葉を思い出す。いつ何が起こるか分からない、か。
確かに普段から何かしか騒ぎの中に巻き込まれている気はする。
フィーリはロジェの見えない死角で微笑んだ。
おあいにくさま。
いつ何が起こっても僕は手放す気などさらさらないのだれど、ね。

要の国。誰もいない部屋で飛鳥はくくくっ、と笑った。
「このまま全て杞憂で終わればいいんだがな……女神のみぞ知るってところか」
ゆっくりと。だが確実に運命の針は回り続ける。行く先も、狂う先も誰も知らずまま。
一人の男を中心にして。


                                 九話   RUN AWAY!!   Fin
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by vrougev | 2008-04-05 23:02 | きらきら☆まじしゃん【休止中】

九話   RUN AWAY!!   22

「すごい……」
一時の出来事にフィーリはただ呆然と呟く。身体には奪われた魔力が戻りつつあるも様子は変わらない。
綺麗な弧を描いて下ろされたロジェの一撃により魔石は全て粉々、塵と化した。
当の本人は何事も無く着地した後、刀と小太刀を鞘に収め。
「フィーリ!無茶するなとあれ程言っただろうが」
咎めるように名を呼んだ。近寄ってくるロジェの足元にフィーリは勢いよく抱きつく。
「うわーん、ロー君ーっ!怖かったよーぅ!!」
「引っ付くな。ムローリーは」
「意識はないけど息はあるから…多分大丈夫」
石が壊れたと同時にムローリーは目を白黒させた後バタリと倒れ、動かなくなった。
時折呻くような声を上げる事から状態に心配はなさそうである。悪夢でも見ているのかもしれない。
「そうかところで……」
ロジェは其処で言葉を止め左右を見る。つられる様にフィーリも左右を見て異変に気が付いた。
「……傾いてる?」
がががががっっ!
フィーリの疑問に呼応するかのように突然おかしな音を立てて揺れ始めた。車体は更に傾く。
「い、石壊しちゃったから暴走し始めちゃった!?」
窓が飛び、壁に穴開いた吹き曝しの部屋にひゅうひゅうと吹き荒ぶ風。その鋭さがどんどん増していくのにロジェは眉を上げる。急いで窓の近くに駆け寄り、自分の疑いの正しさを確信する。
「速度が上がっている。動力源は壊れたんじゃないのか」
確かに制御が利かなくなるとは言っていた。言っていた、が。
「…うぇ、気持ち悪いぃ……」
口元を押さえ床に屈むフィーリ。そうだ、こいつは急激な車両特有の揺れが駄目だった。
「我慢しろ、其れより今は…」
がたんっ!
何かが外れるような、段差を飛び越えたような大きなジャンプに一瞬体が浮く。
「うわあぁ!!」
「今度は何だ」
窓から再び身を乗り出すと先刻とは景色が変わっている。
何故だ、と言う疑問が口から漏れる前にフィーリの悲鳴により危機に気付かされた。
「ろ、ロー君、前、前えぇー!!」
壁も窓もない。目の前の進路には切り立った岩壁は聳え立っていた。
進むはずだった道を外れたのか、とロジェは冷静に察する。このまま衝突したら間違いなく即死だろう。
だからと言ってロジェにどうにか出来るものでもない。
フィーリも力が戻りきっていない今、此れを止められる人物は此処には居ない。
「ロー君…!」
いつの間にか足元に這って来ていたフィーリにロジェは静かに「大丈夫だ」と呟く。
人物は居ないのだ。だが彼等がまだ。
「命じる。止めろ、アマヅ」
「声に答えて!伸びろ、コーリウス!!」
背後から響いた幼い二つの声にロジェは安堵の溜息を付き、フィーリは驚いたように振り向いた。
ぎしと軋むような音がした後列車は逆方向に引っ張られる。減速を始めた列車は目の前に現れた巨大な草々の中に突っ込み、止まる。
「アクト!レスト!!」
車両の扉のところには仲良く手を繋いだ白と黒の双子が誇らしげに微笑んでいた。
「もー、僕達のこと忘れないでくださいよぅー」
「全くだ」
そして其の後ろからどやどやと声と共に先頭車に流れ込んでくるのは。
「全く嫌ねぇ、こんな手に引っかかるなんてぇー。私としたことが…」
見知った女性の溜息を皮切りに魔術師、そして各国の王は次々と思い思いの事を口にする。
「うわ!なな、何があったんだぁ!?この車両はぁ!?惨状はぁ!?」
「頭がまだくらくらしますー。此処は何処ー?私はー?」
次々と現れる人にフィーリが歓喜の声を上げる。
「ベルナちゃん!!皆っ!!無事だったんだね!!」
「乗客は無事か」
麗しい女王はロジェとフィーリの問いに優しく微笑み頷く。
「えぇ、皆何処にも異状はないわ。で、黒幕は何処?」
フィーリとロジェは無言でムローリーを指差す。「やっぱり」と呟いたベルナールは未だ気を失っているムローリーの首根っこを摘み吊るしながら恐ろしく微笑んだ。
「そんなこったろーと思ったわ。流石暗殺国家、一気に抹殺しようとしたのかしらねー」
「みたいだねー。まさかイレギュラーが混ざってるとは思わなかったんだろうねっ♪」
「詳しい話は後でにしてくれ」
「そうしてくれると有難いわ。アクトとレストにも話を聞きたいし」
完全に知り合い同士の会話を繰り広げていたところに一人の王がおずおずと尋ねた。
「で、その二人は何者なのだ?」
フィーリとロジェ、ベルナールはその問いに動きを止め、顔を見合わせ。
一人はにこやかに愛想笑いを、一人は溜息を、一人は答えにくそうに視線を泳がせながら。
「「「単なる通りすがりですっ♪」だ」ですよ」
嘘だと分かる嘘に呆然とする王達に双子だけが楽しそうに笑っていた。
くす、くすと。くす、くすと。くくく、と。
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by vrougev | 2008-04-05 23:01 | きらきら☆まじしゃん【休止中】