カテゴリ:キセツモノ( 87 )

自分で作ったバースデーケーキを囲んで

日付変わってないよね!?こんばんわ、成葉です

今日は……ロジェの誕生日です!!
あ、うん。どうだっていい言わないで!私もさっき気付いたけど、今日です

おめでとう!!!ありがとう!!!!
今となっては一番書き易いキャラです。ホント重宝してます……!
実は某人からお祝いイラストを頂いて気付きました……あたしってほんとばかorz
イラストは無法陣の掲示板に張られているので是非美麗イラストを見てあげて下さい!
あれ、でもお祝いなのに18k……ry

お祝い文はないよ!
ざっくり一時間で作成したぜ!……と言う事で痛々しさに耐えられる方はどうぞ!
描写抜けが激しいですがみない振りをしてくれると嬉しいです。突発なんでこんなもんさ……orz
他人の目より自キャラ愛を通すぜ!!
そして……明日も誕生日だって言うね。私、考えて誕生日配置しようぜ……orz

君に捧ぐ祝祷
[PR]

by vrougev | 2011-11-07 23:50 | キセツモノ

2011エイプリルフール   君が為に出来る事は

「ねぇ、ロー君。君は今日、幾つ嘘をついた?」
その日は昼の朗らかな陽気とは一転し、まだ寒気が身に堪える夜だったと覚えている。
煌々と遠く瞬く星を窓から望みながら、ロジェは明日付けで締切の書類を片付けていた。
向かい側には同様に大量の書類を積まれ埋もれ、ようやく顔が見えたばかりの君王が座っている。
先日正式に要の国の王位を継ぎ、新たな国王となった男は書類の束と束の間から「やっと顔が見えた」と無邪気に笑っていた。
「何のこと……ですか」
軽い口調に思わず嘗ての調子で相槌を打ってしまったロジェは慌てて語尾を濁すように敬語を使った。
傍にいることに変わりはないが今や立場は王と部下。
昔のように砕けた口調で軽々しくしてはいけないと分かっては居ても未だに慣れずにいる。これでは周りに示しがつかないというのに。
言動不審になったロジェをくすくすと笑いながら「いつものように、でいいよ」と君王、いや、フィーリは甘えたような声音で囁いた。
「二人っきりの時ぐらい唯のフィーリでいさせてよ。……ねぇ、ロー君」
「じゃあ、その止まった筆を動かせ。手を動かさなければ仕事は終わらないぞ」
「相変わらず手厳しいなぁ。まぁ、それでこそ僕のロー君だけどさ」
ぴしゃりと言い放ったロジェにフィーリの苦笑が聞こえた。
それから暫くはさらさらとペンが紙の上を走る音だけが部屋に響き渡った。
お互い一言も言葉を交わさず淡々と仕事をこなしていく。集中するとフィーリの仕事速度は速いもので、みるみるうちに机上から溢れんばかりに盛られていた書類は残りひと山までになっていった。
ロジェが話の続きを切り出したのは書類が残り数枚、もうあと数分で日付の変わる時である。
「…………で、なんだって」
その問いに「ああ」と顔を上げたフィーリは傍にあった暦をペンでぺしぺしと叩いた。
「今日はエイプリルフールなんだよ!」
示された暦を見ると「四月一日」と書かれた月初めの欄に紅い花丸がでかでかと描かれていた。
ロジェにとっては内容すら記憶から忘れ去られる程度のものであったのだが、どうやらフィーリにとっては一大イベントだったらしい。
「今日だけは嘘をついていい日!……だ、なーんて言うけれども、僕の周りでは誰も嘘をついてくれなかったんだ。イベントも何もあったものじゃないさ。面白くないよ」
肩を竦め視線を伏せたフィーリは境界が曖昧な寂しげな顔をした。
意のままにいかずふてくされる子供のように、けれども何処かで全てを諦めている大人のように。
ロジェは今日一日のフィーリの予定を指折り思い出していた。
夜も明けぬ早朝から他国の宰相との会談が二件、遅い朝食の後に視察訪問、軽食をつまんだ後に謁見が続けざまにあり、会議が挟まれ晩餐を取り、現在に至る。
確かに、嘘をつける場はない。それどころか振り返ってみれば、息つく暇もないハードスケジュールだ。
「だからさ、僕の代わりにロー君はたくさん嘘を付いたかな、と思って!」
ロジェを見る紅茶色の瞳は返答を期待してか爛々と輝いている。この男は何を勘違いしているんだか。
「今日一日、常に同行していた俺に付く暇があると思うか」
一瞬だけきょとんとしたフィーリだったが「それもそうだったね」と笑った。
「でも今日は忙しかったから、仕方ないよね」
再び書類に目を通し始めたフィーリだったが聞こえるか聞こえないかの声でぽつりと呟いた。
「…………来年はもっと楽しめるといいなぁ」
直ぐに消えた言葉は紛れもなくフィーリの本音だった。
何時も無理矢理に笑うその横顔がとても寂しそうで、ロジェは考える前に口を開いていた。
「……それが終わったらケーキを焼こう」
「ホント!?」
「嘘だ」
間髪を容れずにロジェは続ける。
「明日ぐらいは休暇を取って出掛けるのもいい。久々に城下に下る許可を取ろう」
「……ロー君?」
首を傾げ訝しむフィーリには気付かない振りをした。最早ロジェ自身も何が言いたいのか分からない。
「女装もするといい。そうだな、昔気にいって着ていた春らしい薄紅のワンピースなんかどうだ」
「ロー君!!」
叫ばれて、目を見開いているフィーリを見て、今度はロジェが戸惑う番だった。
「…………悪い、嘘を付くのは苦手だ。何を言えばお前が笑うのかが分からないんだ」
もう何年も一緒にいるのにこのザマだ。バツが悪くて、とてもじゃないが目など合わせられない。
フィーリはというと、安堵したかのような短い吐息の後、ふふっと堪えきれなくなった小さな笑みを含んだ声音をあげた。次第に其れは大きくなり普段通りのフィーリの笑いとなった。
「あはは、びっくりしたや。ロー君が壊れちゃったかと思った。……僕の為だけに嘘を考えてくれたの?」
「……何も聞くな」
今更になって己のやったことに対する羞恥がこみ上げてきた。いや、恥ずかしさよりも愚かさが先に立つ。ロジェは今すぐにでも消え去りたい気持ちでいっぱいだった。
そんなロジェの心情を見通してか、笑いを潜めたフィーリは真面目な声で「ロジェ」と呼んだ。
「ひとつだけ付いてほしい嘘があるんだ」
フィーリはそう言うと椅子から身体を起こし、背筋を伸ばし凛と立った。つられてロジェも立ち上がる。
すっと威厳ある動作でロジェに手を差し出し、毅然とした口調で『嘘』を述べた。
「片時も僕の傍を離れません、と。例え其れが……死せる時であっても」
その答えに言葉は要らなかった。虚言に返す言葉をロジェは持ち合わせてはいないのだから。
ロジェは黙って、フィーリの前に跪いた。城の大時計が特別な日の終わりを告げる。
明日を知らせる荘厳な鐘の音を聞きながら、ロジェはその手を取った。
「誓おう」


之が俺に出来る唯一つの事なら、幾らだって。
[PR]

by vrougev | 2011-04-01 23:59 | キセツモノ

運命の女神はアドベントの円環を廻すか   2

 彼らは在る街の大通りにいた。クリスマスということもあり、街中は活気付いていた。ぽつぽつと燈る灯り、無邪気な声を上げながら元気に駆け回る子供たち。街の広場中央に植えられたもみの木のツリーは天辺に星を着けて、存在を誇示するかのように風が吹く度さわさわと身体をと鳴らした。全てが鮮やかに照らされたひんやりと冬の大気が満ちる街の中、注目を集める一組のカップルがいた。
 まず目に付くのが女の存在だった。ワンピースからすらりと伸びた細く雪のように白い両手足にまず目がいく。つられる様にして視線を上げると、期待通りの目鼻顔立ちの整った美少女であることが分かる。手足と同じく雪のように白い筈の顔は寒さによって赤く染まっていた。遠目から分かるほど艶やかな紅茶色の髪、よく磨かれたジルコンのように丸く透き通った瞳。誰もが振り返る絶世の美少女はきらきらと期待に満ちた表情で男の腕に抱きついていた。彼氏としてあんな表情をされたら何が何でも頑張らざるを得ない、そんな笑顔である。
 次に彼女がしがみついている男に目がいく。美男子、とは言わないものどちらかといえば端正な顔立ちの長身の男である。“鋭利”という言葉がとても良く似合う。夜闇以上に暗い混じり気のない癖のある漆黒の髪と鋭い瞳がやけに目に付いた。関わってはいけない、とまるでそれらが警告しているかのようにも感じる。まるで狼のような男だった。
 こんな何処か歪なカップルを周りが注目しないはずが無い。あるものは堂々と、あるものはこそこそとその様子を窺っていた。美女にしがみつかれている男は疲れたように頭を押さえ、迷惑そうに彼女を諌めている。話し声こそ聞こえないが、何やら彼女の言葉に気に入らないことがあったのだろう。男は諦めたようにため息をついて女を半ば引きずる様にその場を去ろうとする。マフラーを引き摺られながらも、尚も男に寄り添い抱きつき、話し続ける彼女の言葉を聞かず、身勝手に帰り始める男。
 よくあるクリスマスに喧嘩したカップルの光景だ。毎年誰かしかは行う珍しくも無い恒例行事である。在る人は哀れに思い、在る人は心中罵り、或る人は教訓にする姿だが、此の時は違った。男に連れ添った女が美女だったせいか、それとも心底愛されている男が羨ましかったのか。若しくは単なる独り身か。
彼らを見た男たちは誰しも心の中で唱えた。「リア充、爆発しろ」と。

 「……フィーリ、今何と言った」
 街の人々の冷えついた視線を背中に感じながら、ロジェはこめかみを押さえた。傍から見たらまるで聖夜に愛し合う恋人同士に見えるだろう格好だが、その事実についてあえて気づかぬ振りをして問うた。
 「えっと、明日はクリスマスだからデートしよう?」
 意味が分からない。どうして、とか何故、だとか以前の問題にロジェは頭が痛くなるのを感じた。混乱する脳に「いつものことだ」と言い聞かせて、自身の律儀さが嫌になりながらもフィーリに指摘した。
 「俺の知っている“デート”と云う単語は男同士では使用しない気がするんだが」
 「うん、だから僕がスカートなんじゃないかー♪あ、それとも身体までホンモノじゃないとダメかな?なら色々時間とかその他諸々掛かるけど出来ることは出来るから、今晩魔法でちゃちゃっと……―――」
 「止めてくれ」
 慌てて即答するとフィーリは不満そうに「えー♪」と声を上げる。ロジェは益々頭痛が酷くなる思いがした。そもそも自分とフィーリだと思考が違うのだ。突っ込みどころを間違えると自分が苦労することをロジェは嫌というほど知っている。ロジェは慎重に問題点を指摘する。
 「何故クリスマスだから、なんだ?」
 クリスマスと拘らずともロジェとフィーリは常に傍にいる。共に旅をしているから当然といえば当然だが、ロジェは普段からフィーリから目を離さないようにしている。目を離していると厄介事を拾ってくる男なのだ。最も離していなくても引き起こすので意味があるかどうかは分からない。フィーリ自身もロジェが傍にいる現状を気に入っているのか、自分から離れようとは考えないらしい。それどころかどんな事態でも「困った時のロジェ頼り♪」で片付くと思っている節があるようだ。少しは距離を置くべきなのかもしれないとも考えるが、比べる分銅が分銅だけに天秤に掛けられずにいるのが現状である。しかしこれ等は下らない言い訳の一つに過ぎないということをロジェは知っていた。意味の無い抵抗など承知の上だ。
 ロジェの問いにフィーリは小さく「うぅ……」と呻いた。視線を僅かに横に泳がせた後、フィーリは上目遣いで小首を傾げ笑った。周りから感嘆の声が上がるのが聞こえるが、ロジェはその前にあげられた呻き声を見逃さなかった。
 「何か裏があるんだな」
 「や、やだなぁ。僕は明日という日をロー君と一緒に過ごしたいだけだよ?」
 「なら、明日旅立っても問題ないな」
 「ダメ!そしたら美味しいもの食べられないじゃないか!!」
 子供の駄々のような悲鳴じみた声の後、しまった、というように慌てて口を押さえるフィーリを見て、ロジェはフィーリの目的を確信した。最も其れだけではないだろう。全貌など聞かなくても分かる。
 「つまり、クリスマスに託けて、街で飲み放題食い放題買い放題騒ぎ放題したい訳か」
 「い、嫌だなぁ。ロー君ってば。僕はそれだけ意味で言ったわけじゃないよ?ほら、ロー君は常に気難しそうな顔をしているからさ、イベントの時ぐらい少しばかり羽を伸ばしたほうがいいんじゃないかなーっていう僕からの優しい提案だってば。ね?そうそう、ほら今も眉間に皺がぎゅーってなってるよ?少しは笑顔になったほうが健康の為にもいいじゃないかなって……、うん、そう、そうだよ!だから…………」
 フィーリの視線は目線が合わない。段々小さくなっていく声は叱られた子供のようだ。いや、この男は子供なのだとロジェはいつも思う。楽しければいい、と屈託のない笑顔で云う思考回路の持ち主だ。そこ等を駆けている子供のほうがもう少し思慮深い考え方をするかもしれない。
 ロジェは溜息を付いた。そして俯いたフィーリに向けてきっぱりと言い放つ。
 「却下だ」
 「ロー君!」
 縋るような声を上げたフィーリに、ロジェは淡々と告げた。
 「帰るぞ」
 嫌だ、と言うフィーリのマフラーを掴み、引き寄せる。元々腕に抱きついていた者を捕まえるのは容易かった。首が絞まらないようにマフラーと首の間に隙間を作りながら、抱き寄せたフィーリを引き摺るように連れて歩く。不特定多数の周囲から首を竦めたくなるほどの殺気が迸るのを感じるが、どうしようもない。腕の中ではフィーリが騒ぎ続ける。
 「明日はクリスマスなんだよ!!特別な日なんだよ!?それなのに何も無いなんてつまらないじゃないかぁ!僕は本当にロー君のことを心配してゆっくりして欲しくて……ってロー君ちゃんと聞いてる!?」
 「今晩は仕方なくこの街に宿を取ったが……、明日には出るつもりだと言っただろうが」
 この「仕方なく」の理由もフィーリにあるのだが、もう何も云う気にはならなかった。相変わらず騒ぐフィーリの言葉を聞き流しながらロジェは改めて街並みを見回した。大通りこそは活気はあるものの、路地裏になると急にしん、と静まり返る。首都手前の街だからもう少し活気があるかと思ったが、郊外という事に変わりは無いようだ。ぽつぽつと家々に灯る明かりを頼りにロジェは宿を探す。明かりの少なくなった空は何処か近く感じられ、星が主張するように瞬いていた。
 何時の間にか静かになっていたフィーリを抱えなおそうとすると、フィーリは拗ねたように身体を捻る。抵抗のつもりらしい。ロジェが名を呼ぶとフィーリは頭を衣服に伏せったまま、呟いた。
 「堅物ロー君の鬼……」
 「……俺は堅物でも鬼でもない」
 ロジェは堅物にも鬼にもさせているのは誰だと叫びたいものをぐっと堪えた。第一、本来ならばこの街には寄るはずがなかったのだ。そうでなければこのような事態になることも無かったというのに。
 「ならさ!」
 ばっ、と顔を上げた諦めの悪いフィーリにロジェはもう一度言った。ロジェのささやかな意地悪だった。


 「「却下だ」」

More
[PR]

by vrougev | 2010-12-20 23:52 | キセツモノ

運命の女神はアドベントの円環を廻すか   1

 「ロー君、明日はクリスマスだよぉ♪」
 在る世界の在る街で、輝くイルミネーションに目を輝かせながら魔術師は満面の笑顔で言った。片手で身の丈程もある杖をぶんぶんと振り回して、きょろきょろと彼方此方に視線を彷徨わせて、まるでサンタを待つ子供の様にはしゃいでいる。魔術師はサンタクロースにあわせたのか、まるで猩々木のように紅い天鵞絨のワンピースを翻す。長い髪を止める髪留めの金色の星々が彼の動きに合わせてきらりと光る。
 「綺麗だね!ねえねえ、ロー君」
 駆け寄ってきた魔術師は棒立ちの俺を見上げて微笑んだ。俺は腕を伸ばし、其の乱れた襟元を整える。


 「ロジェ、明日はクリスマスだね」
 在る世界の要の国で、謁見室の窓から輝く城下街を見下ろしながら国王は静かに微笑んだ。視線は一点から動かない。その表情は満足そうながらも何処か寂しげに見えた。僅かに俯かれたその表情はまるで祈りを捧げる聖人のようでもある。部屋を照らす僅かな明かりを反射した新雪の様な絹の正装をくしゃりと皺にしながら国王は玉座に腰掛けた。顔を上げた彼の頭の上から黄金の冠がするりと頭部から落ちる。
 「ねぇロジェ、……ロー君」
 言葉を改めた王は傅く俺を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。俺は腕を伸ばし、其の乱れた裾に口付ける。

 ふふふ、と隠し事の共犯者を探す子供の様に。異なる世界で魔術師が、或いは国王が言った。
 其の声は時をも時空をも越えて紡がれる。



 「「お願いがあるんだ♪」」
[PR]

by vrougev | 2010-12-16 04:05 | キセツモノ

五周年記念SS   「ありがとう」と僕は笑った   2

「もうお終いなの?根性がないなぁ……」
魔術師、フィーリ=メ=ルーンは今しがた倒れた最後の一人の腹部に杖の先端を突き立て、溜め息をついた。足元からは叫びにも似た呻き声が聞こえたが、どうせ意識を手放しただけであろう。結局、どいつも同じだ。フィーリの足元に倒れているのはこの男のみではない。屍累々と表現していい程の烏合の衆が皆一様に伸びている。舞踏会にはフィーリをエスコートし、楽しませてくれる王子様はいなかった。まぁそう簡単に王子様なんていないことぐらい理解しているがそれにしても、である。きょろきょろと辺りを見回すと、少し離れたところでロジェはまだ三人の男たちと対峙していた。苦戦している様子はなかったが、優しいロジェの事だ。フィーリと違い、手加減をして相手をしているのだろう。
面白くないなぁ。
杖にもたれ掛りながらフィーリは思い、自らの感情に首を傾げた。普段なら「運動が出来て楽しかった」と心躍ったまま暫くは意味もなく楽しいはずなのに真っ先に「面白くない」とはどういう事か。フィーリが疑問に首を捻っていると、どさ、と聞きなれた音が響いた。ロジェが最後の一人を地に沈めたのだった。
「ロー君、お疲れ様ー♪」
直ぐにフィーリが声を上げて手を振ると、ロジェはフィーリの姿に気づいたようだった。
「怪我は……なさそうだな」
近寄りながらフィーリの安否を尋ねるロジェもどうやら無傷のようだ。当り前だ。そう簡単にロジェがやられる筈がない。本人は「買い被り過ぎだ」といつも言うが、フィーリからしてみればロジェと云う男は寧ろ全てにおいて出来過ぎている存在だ。
ロジェ=ミラ=クレセント、魔力を持たない魔剣士。偶然が巡り合っただけで存在出来る代物ではない。
だから近づいた。初めは単なる興味本位だった。
「フィーリ?」
名を呼ばれ、フィーリは我に返った。見上げると額に皺を寄せたロジェがじっと見ている。
「大丈夫だよ。むしろ踊り足りない位だよ。ロー君さえよければ一曲踊りたいところなんだけれど?」
「…………一人で踊っていろ」
フィーリはいつものようににっこりと微笑んでロジェを手招く。呆れたように溜め息をついたロジェを引き寄せて、抱きつくように左腕に自身の腕をまわした。恒例となった定位置の占領にロジェは抵抗することなく、黙ったまま片腕を差し出す。
「えへへ、ロー君は優しいなぁ♪」
わざと声に出して褒めると、鋭い眼差しでロジェに睨みつけられた。一見するだけならば畏怖してしまいそうな表情だが、長い付き合いで其れは照れ隠しの表情だと気付いた。夜空の下では分からないが、うっすらとロジェの耳が紅く染まっているであろう事を想像し、フィーリは可笑しくなって「ふふふ」と声を上げて微笑んだ。突然笑い出したフィーリにロジェは眉を顰めたが、気にしないことにしたのか。「兎も角」と話を切り出した。
「これからどうする」
「うーん、どうしようねぇ……」
先刻までと打って変わってしんと静まり返った街中でフィーリとロジェは互いに問うた。恐らくこの街で意識が在るのはフィーリとロジェの二人だけだろう。襲いかかってきた街の人々は老若男女問わず、地に沈めた。もしまだ人が残っているならば企みに加担していない人だが、そんな良識人を探している暇はない。気絶した人々が意識を取り戻す前に街を出るべきだと考えるのが普通だ。しかし、一週間ぶりの街である。次の街までどれ位の距離があるか分からないため、出来ることなら尽きそうな蓄えを補充しておきたい。補充すると言っても人はいない。詰るところ所謂盗みと同様の事をしなければいけなくなるが、堅物のロジェがそんなことを許すはずもない。フィーリはぐるぐると思考を回転させるも、ロジェも納得しそうな良い案は浮かばなかった。
意見を仰ごうと眉間に皺寄せたロジェを見上げた時、フィーリは空に目を奪われた。
ロジェの横顔の先。真っ青なクロスの上に一枚の金貨が浮かぶ様に、澄んだ天鵞絨の空で煌々と輝く満月。
意図せず思わず、言葉が漏れた。
「……ねぇ、ロー君。今夜は月が綺麗だね」
いつも通りの何一つ変わらない見慣れた夜空だったのかもしれない。だが、フィーリの目には普段の空とは思えない程、幻想的な風景に見えた。言葉にできない感動と同時に、見覚えある映像が現実と重なり見えた、気がした。まばたきと共に直ぐに虚像は掻き消されたが、心には言い表せないわだかまりが残った。
「……こんなときになんだ」
見下ろしたロジェの表情は暗くて見えない。だが響く低い声音には案じと呆れが混じっている。
「どうしてだろう。なんだか言わなきゃいけないと思ったんだけど……」
どうしてなのかはフィーリにも分からなかった。溢れてきて口から洩れたというのが正しい。自身でも理由が分からずに唸ると、訝しむ様に首を傾げたロジェと目があった。真っ直ぐフィーリを見つめる黒曜の瞳は声こそ発しないものの、確かに「大丈夫か」と問いていた。「大丈夫だよ」とフィーリは笑いながら明るく努め返すものの、直ぐに二人の間に静寂が訪れる。何を話せばよいのか。繋ぐ言葉が見つからなかった。何処か気まずく居心地の悪い空気を破ったのはロジェだった。
「……前にもこういう夜があったな。そういえば」
独りごとだったのか、ロジェを見るとじっと目を閉じていた。月明かりの下見上げたロジェの顔はなんだか何処か穏やかで微笑んでいるかのように見える。眉間に皺が寄っていないからだろうか。
「前にも?」
あったような、なかったような。思い出せずにフィーリは聞き返す。
「自我を失った街……だったか。街自体には歓迎されたが、深夜に襲撃されただろうが」
「あ……!」
ルーズ・セルフ。
其れはフィーリとロジェが旅を初めてから間もなく寄った街名だった。またフィーリにとっては旅中で初めて召喚魔術を用いた土地である。真偽の定理が歪んでしまった国を正すためとはいえ、使用しないよう自制していた大魔術の封を破った。結果として、後日長年追跡を煙に撒いていた“要の国”の魔術集団に発見され、ロジェに隠していた自身の秘密の一部がばれてしまう事になったが、それはまた別の話である。
今思えば随分後先を考えない解決方法だったな、とフィーリは冷静に過去を振り返った。
「あの夜の月はよく覚えている」
「どうして?」
騒動があったからか、とフィーリが尋ねるとロジェはゆっくり首を横に振った。苦笑するように、呆れたように、ロジェの表情が揺れる。空に瞬く遥か過去の輝きを見つめながら、剣士は淡々と答えた。
「俺が初めて死を覚悟した夜だ」
何故、と再び問おうとしてフィーリは口を噤んだ。ロジェに死を覚悟させた原因はフィーリだからである。あの夜、フィーリは魔術の使用に失敗した。正確に述べるならば魔術により反動を考えずに使ったため、一定範囲内の建物と地盤を全て倒壊させたのである。フィーリとロジェも例外なく巻き込まれ、足元に空いた空虚から空に放り出された。巻き上げられた砂塵、巨大な煉瓦の塊、砕けた木材。建物を構成していた全てが瓦礫と化し降り注ぐ様をフィーリは見ていた。確かあの夜も巨大な満月が僕らを見下ろしていた。
落ち行く中で自身を引き寄せた腕。瓦礫の直撃から庇い崩れ落ちた男の背中。虚しく響いた叫び声。
「思い出したよ。ロー君が僕を初めて庇ってくれた場所だった」
あの日から、いや、本当はもっと前からかもしれない。フィーリはずっとロジェに守られている。
僕は守られるべき存在なんかではないのに。僕はロー君と違って酷い奴なのに。
「本当に昔からロー君は優しいよね」
ロジェは黙ったまま何も言わなかった。肯定も否定もせず、視線をフィーリへ向けただけだった。普段通りの無表情だ。フィーリは静かに微笑み、抱きしめていたロジェの腕を離した。背中に背負う様に持っていた自分の身の丈程ある杖を取り出し、器用にくるくると回しながら、早足でロジェの前を歩く。くるりと振りかえった。「ねぇ、ロー君」とフィーリは旅の相方を呼んだ。
「……僕はロー君の足手まといになってない?」
突然の問いにロジェは驚いたように目を見張ったようだったが、直ぐにすっと目を細めた。表情とは裏腹に淡々とした声で今度はロジェが問う。
「何が言いたい」
「もう僕の前でロー君が傷つくのは嫌だなぁと思ったんだ」
あはは、とフィーリは声を上げて笑った。突然何故こんな言葉が浮かんだのか分からなかった。何がおかしいのかも分からなかった。ただ笑わなければと思ったのだ。「それだけだよ」と付け足すように言う。
「変だよね」
自問するように呟いたフィーリは自分が真顔なのに気付き、直ぐに笑顔を浮かべる。
「…………俺は、」
「ロー君、あのね!」
ロジェが何かを発そうとするのを遮るようにフィーリは声を張り上げた。ロジェに近づく。フィーリは微笑みを崩さないまま、ロジェの真横に杖を突き刺した。僅かにロジェの髪を掠めた杖は剣士の背後に襲いかかろうとしていた男の顔面を容赦なく殴打した。男は吹き飛ばされ人々の山に転がると動かなくなった。
険しい表情のロジェに極上の笑顔で微笑み、決まり切った定型文を吐いた。
「僕はロー君が大好きだよ。だから、」
だから、と続けようとしてフィーリはふと言葉を止めた。
だから何だと云うのだろうか。
僕は一体なんと告げようとした。
「……話は後だ」
ロジェがカチン、と小太刀を抜く音で思考から覚める。気が付くと周りにはゆらりゆらりと影が蠢いていた。フィーリとロジェを取り囲むように、判別できるだけでもその数二十数名。手慣れているのか、奴らには先ほどの人々と違い気配を消しているようだった。
「まだ残党が残っていたか」
ロジェはそう言いながら黒太刀を鞘から抜こうとした。やれやれ、と呟きながらも其の様子は楽しそう、と形容するのが一番近い気がする。確かに先程の連中は数のみであまり手ごたえはなかったかもしれない。けれど今周りを囲んでいる奴らは本業に似た雰囲気を持っている。
『もしも』はあり得ないと分かっていても、フィーリはロジェを制していた。
「お願い。ロー君は此処で休んでいて」
「断る」
即答。一歩も引く気が無いことぐらい見なくても分かる。フィーリは苦笑すると、魔術師として呟いた。
「“さぁ世界、僕が命じるよ。この者に鳥籠に”」
「っっ!!」
フィーリがそう告げると次の瞬間、大地が揺れロジェの周りに金属の柱が生えた。人間の腕程の無数の柱は天辺で交わりアーチ状の檻となった。まるで鳥籠。その出来にフィーリは満足そうに笑みを深めた。
「フィーリ!ふざけるな!!」
珍しく怒気をはらんだ声で叫ぶロジェは捕えられた動物の様に柱に手を握り揺らす。見ていて面白い光景だとは思うが長く干渉することを周りは許してくれないだろう。事実、隠しきれない殺気は徐々にフィーリとの距離を狭めている。
「時には休息も必要だって♪……ごめんね。僕がやりたいんだ」
フィーリはロジェに背を向ける。ロジェの抗議はまだ続いているが、フィーリは聞かなかったことにした。きっと後でこってり怒られるだろう。だがそれで良いのだ。鳥籠を庇うように立つ。先刻よりも人数が増えている気がする。卑下た笑いが聞こえる気もするが、まぁいい。フィーリはぐるりと周囲を見渡し、まるで舞踏会でダンスに誘われた乙女の様に微笑んだ。
「おいで。僕と楽しく踊ろうよ」
[PR]

by vrougev | 2010-08-05 01:03 | キセツモノ

五周年記念SS   「ありがとう」と僕は笑った   1

其の日、僕たちは“或る街”にいた。

“或る街”と曖昧な記載表現を用いたのは其れが何処の国の領地であったか。何処に所在していたか。なんと云う名の街で誰が管理していたのか、僕が一切覚えていないからだ。多分全く興味がなかったのだろう。僕とは違い、律儀に記録を付けているだろう僕の相方に聞けば、何処に在った街なのか位は分かるかもしれない。とにかく、其の程度の“或る街”での出来事だ。
僕がその“或る街”で鮮明に覚えていることは二つ。一つは街に着いたのが夕刻過ぎであったと云うこと。普段の夕飯時間よりも大分遅い時間に街に着いたものだから、僕のお腹はこの世の終わりだと言わんばかりに悲鳴をあげていた。音が鳴るたびに相方が呆れた様な眼で僕を見て「もう少しで着く」とまじない言葉のように言い聞かせては溜め息をついていた。僕は相方の腕に寄り添うように歩きながら、今食べたいものを並べ立てていた。カンプラ芋のバター焼き、アメマの塩焼き、真赤バンカのパスタ、甘い摘みたてのケラソス、…………こうやって食べたいと感じていた料理を思い出すと、その“或る街”は比較的山間部の街であったようだ。結果から述べると、これらの料理は“或る街”では食べることは叶わなかった。後に、相方が僕だけのために世界で一番美味しい料理を振舞ってくれたが……この話は置いておいて。
僕の“或る街”での思い出、二つめ。其の日、僕らは“或る街”の人々に手厚くもてなされた。
彼らによるサプライズでとっておきの舞踏会。それはかつて訪れた“あの街”と酷似していた。

だから、僕は今更なことに気付いたのかもしれない。
[PR]

by vrougev | 2010-07-26 23:58 | キセツモノ

ラッピングのオモテガワ   2

「ロー君!何処行ってたの!?遅くて心配したんだよ!?」
結局、ロジェが宿に戻ったのは夜遅くだった。手には大きな紙袋を何個も何個もぶら提げて。
「……すまん」
フィーリの非難の声に詫びながらロジェは時計を見やると、まだ日付は変わっていない。
「ロー君、何かあったの?僕、ずっと宿に一人で寂しかったんだか…」
「フィーリ」
フィーリの小言を遮り、ロジェはその両手に持った大量の紙袋をずいと差し出す。
「バレンタインだ」
一瞬虚に包まれた表情をしたフィーリは紙袋を受け取り、中を見て驚きの声を上げた。
「これ全部……!?」
「チョコレートだ。好きなものを、と思ったんだが…よく分からなかった」
だから自分が知っているモノを全部作った。単純な思考だと言われればその通りだとしか答えようがない。
やはり愚かな行為だったか。
渡した後にどうにもならない羞恥に襲われロジェは背を向けた。
「や、苦手なら無理に貰わなく…」
「馬鹿だなぁ、ロー君は♪」
どん、と背中に衝撃が走る。フィーリが背中に抱きついたのだ。じんわりと肌に温かさが伝わる。
「馬鹿とはなんだ」
「ほんと馬鹿だよ!僕はロー君が好きなの!!」
だからね、とフィーリは続ける。
「ロー君がくれたものはみーんな嬉しいし、ロー君さえいればいいの!!……分かる?」
「……残念ながら、俺には分からないな」
暫く思考は働かせてみてもロジェにその感情は理解出来そうにない。
「だが、善処はしよう」
いつか分かる日は来るのだろうか。フィーリの言葉も、静羽の言葉も。
「大好きだよ、ロー君♪」
ロジェの回答に満足したのか、フィーリはくすくすと笑って、ロジェに回した手に力を込めた。
「僕もロー君にバレンタインプレゼント買って来たんだ♪気に入ってくれると嬉しいな♪」

静羽は言った。
“「好きな人がくれたものは、なんでも嬉しいのですよ。だって真剣に自分の事を考えてくれたのですから」”

ロジェが無意識下でフィーリと同じ感情を理解し、抱いている事を自覚するのは……また別のお話。


                                     ラッピングのオモテガワ   Fin
[PR]

by vrougev | 2009-02-14 23:54 | キセツモノ

ラッピングのオモテガワ   1

二月十四日、バレンタイン当日。そんな恋人の日に悩まされる男が二人。
剣士と魔術師は困り果てて呟いた。
「「どうしよう」」

剣士の場合―――。
ロジェ=ミラ=クレセントは菓子材料専門店前で山のようなチョコレートの種類に首を捻っていた。
フィーリは一体何が好きなのだろう。
よくよく考えれば旅の途中の他愛無い会話の時点でロジェの悩みは始まっていたのだ。
“「今年のバレンタインは逆チョコが流行ってるんだって♪」”
毎年毎年この季節になると共に旅をする魔術師、フィーリ=メ=ルーンは楽しそうにバレンタインについて話し始めるのであった。例えば、何処の街のイルミネーションが美しいか、何処の店のチョコレートが美味しいか…などなど。男二人の旅路では関係ない情報を山と仕入れ、ロジェに語り聞かせる。
今年も例外はなかった。しかし去年までは付属しなかった言葉にロジェは驚くことになったのだ。
“「だから今年は僕もロー君にプレゼントを贈るねっ♪ロー君は何が好き?」”
恐らく今年流行りとやらの逆チョコ効果なんだろうな、とロジェは後々になり冷静に思った。
バレンタイン色に染まった店々を眺めていると、今年はどうやら本当に「男から贈る」をコンセプトにしたバレンタインのようだ。ロジェ以外にも切羽詰まったような表情をした男たちがバレンタインイベントコーナー商品を物色している。
フィーリの情報を疑っていたわけではないが、なるほど、今年は男も大変らしい。
そんな認識をしながらロジェは視線を再びチョコレートへと戻す。
今までフィーリの好き嫌いなんて考えた事がなかった。知ってはいる。旅をするうちに覚えたものだ。
だが、自分から突き詰めて知ろうとはしたことがなかった。
フィーリはロジェが作ったものをなんでも美味しいと笑顔で食べる。故に失念していたともいえる事だ。
今更な事柄にロジェは舌打ちをするしかない。
「あれ、ロジェ…さん?」
驚いたような声に振り返ると、肩までの黒髪の揺らしながら小首を傾げる少女が其処に立っていた。髪と同様に黒眼がきらきらと光っている。おとなしそうな少女にロジェは見覚えがあった。
「伊妻…静羽……か?」
要の国の魔術集団CIRCLEの一人。集団の中で最も良識を持つ人間だとロジェは認識している。
どうして此処に、と聞こうとしてロジェは止める。野暮な質問だ。こんな辺境の地に仕事以外で来るはずがない。バレンタインだというのに酷な事だ、とロジェは思い、同時にそう思った自分がおかしく感じた。
「わぁ、お久しぶりです。お買い物ですか?」
「あぁ」
「じゃあ私と同じですね。帰ってからチョコレートを皆に配ろうと思って」
小さな共通点に対し嬉しそうに笑う静羽にロジェは戸惑いながらも会話を続ける。
「大変だな」
「そうでもないです。皆喜んで食べてくれますから!…あ、でも飛鳥さんはチョコレート嫌いですけど」
「そうか」
「ロジェさんはフィーリさんにですか?」
仲がいいんですねと微笑む静羽。そんな静羽の言葉に素直に頷けず、ロジェはふぃと顔を背けた。
「ロジェさん?」
「だが、俺はあいつの好きなものを知らないんだ。何を贈っていいか分からない」
困り果てたように呟いたロジェに、静羽は優しげに微笑んで。
「じゃあ、悩めるロジェさんに一つ良いことを教えてあげます」
内緒ですよ、と釘打った後に静羽はそっとロジェの耳に囁いた。
[PR]

by vrougev | 2009-02-14 23:48 | キセツモノ

あたたかい ぎんいろ   1

今日も私は人間が過ぎゆく街並みを眺めていた。
雑踏に紛れる私の視線に、気が付く者はいない。
楽しそうな談笑がころころと転がり、怒ったような喧噪がぴしゃりと空気に鞭を打った。
しとしとと降り注ぐ悲しげな泣声は掻き消されていく。
誰も、何も気づかない。気づいて、くれない。
人間が実に羨ましかった。
どれほど望むことが無意味だと分かっていても私は欲してしまうからだ。
彼らに対する興味が尽きることはない。故に、私は此処にいる。

「あら、こんな処にお店ですか?」
冷たい雨の降る秋の日の事だ。不意に掛けられた声に、私は弾かれたように顔を上げた。
目の前には年若い女性が一人。
この時代の、この街の、標準を詰め合わせたかのような女性だった。
「驚かせちゃったかしら」と。
首を傾げた彼女の黒の眼は一寸足りとも逸れることなく、真っ直ぐ私を見つめていた。
あぁ、なんて美しい。仄暗い闇のような瞳に自然と私は見入ってしまう。
その双眸に見られ続けていたかった。その双眸を抉り取ってしまいたかった。
傾けた首から赤毛色の長い、僅かに濡れた髪の毛が流れ落ち、白い首筋が見え隠れする。
私は自然と唇の端を釣り上げた。柔らかそうな肉だ。
若年の乙女の血はさぞかし美味であろう。
今すぐ攫ってひと思いに飲み干してしまいたい。造血剤とは違う。
久々にまともな食事ができる。
そこまで考え、私は深く絶望した。そうしたら今までと何も変わらない。変われるはずがない。
「あの、どうかしました?」
長い間黙ったままであったからか。女性の声音と瞳は陰り、案じる色を私に向けていた。
優しい娘なのだと思う。彼女なら私を変えてくれるだろうか。淡い期待が胸に浮かんだ。
その時、ふと思いついたのだ。
私は久し振りに訪れた本能的衝動を無理矢理抑え込み、苦笑でそれを誤魔化した。
そして、優しく努めた声で彼女を迎える。
「いらっしゃい、お嬢さん」


…祈ろう。全知全能たる女神よ、彼女に創られし世界よ。
一時だけで構わない。その後、私がどうなろうと覚悟はできている。

お願いだ、私の願いを叶えてくれ
[PR]

by vrougev | 2008-10-11 03:45 | キセツモノ

葉守、柏手を叩きて   3

これ以上逃げ回るのは無理だ。敵は目の前に迫っている。
そう判断したロジェはフィーリを降ろし、剣を抜いた。再び鞘から解き放たれた刃は主の迷いも知らずただ美しく輝く。向かい合ったロジェと鎧は一歩も動かず。
緊迫した一時はまるで永久に続くかのように感じられた。
「うわ、凄い崖……元は地面があったのかな?それとも元からこうなのかな?」
緊迫した空気を壊すフィーリの発言にロジェは答えない。答えられるわけがない。
「ロー君は一体何をそんなに…警戒しているの?」
少しだけ間が開いた疑問。恐らく、言葉を選んだのだろう。何のために。
問われる意味が分からずにロジェは眉を潜めながら僅かに後ろを見やると其処には普段と変わらないフィーリがいる。その事実に心中とても安堵しているロジェがいた。
「僕には目の前に鎧があってそれが動いている、位にしか感じられないんだよね♪」
でもさ、と魔術師は続ける。晴れやかな笑顔は矢張りどちらともとれない。
「そんなのいつもじゃないかぁ♪」
拍子抜けしそうな程に弾んだ明るい声でフィーリは日常を突きつけた。
確かに、と言う言葉しか浮かばないと同時、引っかかりを覚える。
「だが」
だが、何故此処までこの目の前の相手から逃げようと自分は考えたのだ。フィーリが隠した言葉を借りるならばその感情は間違いなく「怯え」である。一手交わしただけで力量は測れると言うがそんなのではない。存在無き何かをロジェは恐れていたのだ。
では一体何を、どうして。
自らの思考理解に苦しむロジェにフィーリが苦笑を漏らした。
「仕方ないねぇ、ロー君は、さ♪」
しゃがんで崖の深さを確かめていたフィーリは立ち上がり、ロジェの腕を押しのけ前に出る。先には鎧。止めようと声を上げようとしたロジェはフィーリの表情を見て口を閉ざす。その表情は世界に愛された魔術師のものだったから。鎧が動き、襲ってくる気配はない。左手でくるくると弄びながら、まるで旧友に話しかけるかのように「やぁ」とフィーリは手を振った。
「ねぇ、君の目的は何?」
唐突な質問だった。過程を全て省いた単刀直入な質問に鎧は動きを見せない。
「僕には分からないけど、ロー君が反応したって事は元が人なのかな。でも、今感じる力はどちらかと言えば魔族寄りだよね」
だんまりを続ける鎧に対し、フィーリは一人でべらべらとしゃべり続ける。
「ロー君を間接的だけれども操って此処まで逃がしたんだもんねぇ」
いや、答える術がないのかもしれない。
「此処に来てから全然動かないね。どうしたの?」
相手を案ずるかのように声をかけるフィーリだが、その表情は変わらない。口元だけを怪しいまでに微笑ませて。一体何を企んでいるのか…。
じゃあこういう考えはどうだろう、
「もしかして…此処が本当は来てはいけない場所、なのかなーなんて…」
ぴくり、と。この場に置いて微動だにしなかった鎧が肩を動かした。
「見た!?ロー君♪どうやら図星みたいだね♪」
ロジェに向かってピースサインを向けるはしゃいだフィーリに鎧は矛を振るう。
「フィーリ!」
あの馬鹿が。
間に入ろうとしたロジェは突如突き出されたフィーリの杖に阻まれた。明らかに攻撃しようと向けられた一撃をロジェは反射神経だけで仰け反り避ける。だが、それがいけなかった。元々頑丈な地層ではなかったのかもしれない。ロジェの緩急な速度を伝え切れなかった地面はひび割れ、崩れた。身体が滑り宙に浮く。
「じゃあ、僕も導かれるままに行こう」
フィーリもまたロジェの後を追うように崖へと自ら身を躍らせる。ふわり、と浮かぶ裾が、髪が、杖が、五月特有の朗らかな光を反射しきらめく。光は闇染まる崖の中へ。
「馬鹿か!お前は!!」
落ち行く中、無駄だと分かっていてもロジェは手を伸ばし虚空を掴みながら叫んだ。
ごおうと言う風切り音で耳が痛い。このまま落ちたら間違いなく死ぬだろう。
いや、その前に空中分解か。どちらにしろ変わりはないのだが。
「馬鹿じゃないよ♪大丈夫っ♪」
上から降り注ぐ声は実に楽しげである。一体誰のせいでこんなことになったんだ、と怒鳴りたい続けたい衝動を堪えロジェはフィーリの伸ばす右腕を掴んだ。
魔術師の左手ではずっと杖が回っている。くるくる、くるくる。
「さぁ!この僕が召喚するよ!!魂持ちし皐月の大空を翔る黒鯉!!」
召喚式はない。だが、フィーリには確信があった。名を呼べば答えてくれるだろう。紡がれたその名は崖に木霊し、崖を越え、天まで響いた。
「カープ!!」
[PR]

by vrougev | 2008-05-17 23:56 | キセツモノ