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一話   真偽都市国家   12

悲しげな微笑をたたえながら、物語は続く。
「王は真実よりも嘘を愛したんだ。そして、その魔力持続のために嘘をつくことを前提とした国法を作った。そして・・・それが当たり前のこととなった」
「つまり・・国民は真実という言葉を忘れ、常に嘘をつくようになったと?」
信じられないな。と思いながらにそれがこの国の事実なのだろう。フィーリは黙って聞いているだけだ。
「そうだ、しかし問題は起こるものだ・・。そんな計画も失敗に終わるに決まっている」
所詮は嘘なんてまやかしに過ぎない・・。
「他国に見放されたのさ、嘘しかつかないとそのうちに分かるからね」
そうして他国とは一切関わらなかった。そして、この国は狂っていたというのか。
「他国から貿易もなし、支援もなし、そんな国に何が出来ると思うか。自国で全てをまかなうにはこの国は小さい」
馬鹿なことを王はしたものだ。と審査員は呟いた。王を侮蔑するかのように。
「だから、この国に来る旅人の金品を奪っているの?」
黙っていたフィーリが突然会話に加わった。その声はいつものような明るさはない。魔術の詠唱中のような低い・・声。しかし、普段と明らかに違うのはその声に僅かながらの怒気が混じっていることだ。表情は見えない。
「ねぇ、そんな他人の行ったことのように言わないでよ。王様」
「!?!?!?」
この目の前の初老の審査官に向けて王様、とはっきりフィーリは言った。いつにない強い口調で完全に確信したかのように。
「今は前、王様かな?一人娘さんが女王様になっているもんね」
「おい、フィーリ。この審査官が王様だと??」
「そうだよ、ロー君。彼がこの物語の始まりを作った黒幕ってやつさ」
フィーリはまっすぐ審査官・・いや、前・国王を見据える。そして、彼も目の前にたった魔法使いをまっすぐ見据えた。そして老人はやはり疲れたような顔でふっと笑った。
「・・その通りだよ、魔法使いさん。私は・・悪の根源だ。しかし、今となっては後悔もしているんだ。だから・・」
「ロー君♪僕の言った言葉を覚えてる??」
わざとなのか、とても明るい声でフィーリは尋ねた。
「何だ?」
「こういうこと、さっ」
そういってまっすぐ杖を振り下ろす。その先にいるのは、前王。そのときフィーリとの会話を思い出した。黒幕が知りたいといっていた彼に知ってどうするんだと尋ねたのだ。そうすると一言、「殴る♪」と。そうなると、フィーリがしようとしてることまちがいなく・・。
「やめろ!!フィーリ!!」
ばきぃっ
杖は前王の真横に落ちた。その部分だけ床が軽くへこんだのが分かる。初老の王は目を見開き、椅子に座ったままその場に硬直している。
「冗談だよん♪ロー君驚いた?驚いた??」
きゃっきゃとその場で一人場違いなまでにはしゃいでいるフィーリ。それはもう普段のフィーリであった。こんなとき相方を物凄く恐ろしく感じる。
「さて、僕らは次の国にでも行きま~す♪」
傍に置いてあった自分の手荷物を持って旅立つ準備を一人着々と行なっていく。俺はベッドに縛り付けられているというのに、だ。
「そうそう、この国に後で『彼ら』が来ますから平気ですよ~♪っとね♪」
にっこりっと微笑んでロジェにも荷物を放ってよこした。
「おい、俺はまだ動けないぞ。どうするんだ?」
「決まってるじゃないか~♪」
微笑を崩さずに彼は再び杖を振るった。しかし、それは何かを殴るためではなく魔術のために。
「移動魔法陣の発動~♪」
魔法特有のぶぅんという特有の音の後どこかに吸い込まれる。
「!!!!」
「じゃあね~彼らによろしく♪」
こうして俺たちはこの国から去った。真実と嘘が入り乱れている国から。

by vrougev | 2005-10-10 23:41 | きらきら☆まじしゃん【休止中】