運命の女神はアドベントの円環を廻すか 1
「ロー君、明日はクリスマスだよぉ♪」
在る世界の在る街で、輝くイルミネーションに目を輝かせながら魔術師は満面の笑顔で言った。片手で身の丈程もある杖をぶんぶんと振り回して、きょろきょろと彼方此方に視線を彷徨わせて、まるでサンタを待つ子供の様にはしゃいでいる。魔術師はサンタクロースにあわせたのか、まるで猩々木のように紅い天鵞絨のワンピースを翻す。長い髪を止める髪留めの金色の星々が彼の動きに合わせてきらりと光る。
「綺麗だね!ねえねえ、ロー君」
駆け寄ってきた魔術師は棒立ちの俺を見上げて微笑んだ。俺は腕を伸ばし、其の乱れた襟元を整える。
「ロジェ、明日はクリスマスだね」
在る世界の要の国で、謁見室の窓から輝く城下街を見下ろしながら国王は静かに微笑んだ。視線は一点から動かない。その表情は満足そうながらも何処か寂しげに見えた。僅かに俯かれたその表情はまるで祈りを捧げる聖人のようでもある。部屋を照らす僅かな明かりを反射した新雪の様な絹の正装をくしゃりと皺にしながら国王は玉座に腰掛けた。顔を上げた彼の頭の上から黄金の冠がするりと頭部から落ちる。
「ねぇロジェ、……ロー君」
言葉を改めた王は傅く俺を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。俺は腕を伸ばし、其の乱れた裾に口付ける。
ふふふ、と隠し事の共犯者を探す子供の様に。異なる世界で魔術師が、或いは国王が言った。
其の声は時をも時空をも越えて紡がれる。
「「お願いがあるんだ♪」」
by vrougev | 2010-12-16 04:05 | キセツモノ