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二話   紙面と舞台と現実と   1

一人の長い薄茶髪をした者が裏路地へ入っていくのを彼らは見た。
「おい。次のカモはあいつにしようぜ」
そういって男たちはにやりと下衆な笑いを浮かべ、その後を追っていった。

とある国、とある裏路地の一角。行き止まり。一つの影がその場で何か困ったような素振りで辺りを見回していた。そして、背後に伸びた影は四つ。どんどんと間隔を狭めていく。
日は落ちはじめ、薄暗くなってきた。城壁や街のさまざまなところに使われている煉瓦がその光を受け、更に暖かい色味を帯びている。思わず、ほっとしてしまいそうな色だ。薄茶の髪もその光を反射し、赤銅色に輝く。
路地には光、というよりも一足先に夜を先取りしていた。影が占める割合のほうが高い。そして、更に濃い四つの影は意志を持って動いている。そう、とある目的のために。
彼らがその者に気づかれぬよう背後から手を伸ばそうとした時だった。
この季節にはまだ早い北風が何かを告げるかのようにひゅう、と一回吹いた。ただでさえ静けさのに包まれた場所で、空気さえ動きを止める。ぴんっという独特の音がその路地に響いた。決して大きくはない音がただ一回だけ。
そして、かしゃんと金属が何かに当たって落ちたような音がした後、
どさっ
文字上は一つの効果音にしか過ぎないが、いくつもの何かが地面に崩れる音がした。
それは折り重なるようにして倒れていた。土煙が再び吹いた風に流され、それが何だったのか明らかになる。若い、そして柄の悪そうな男たち。この街を騒がせていた連続強盗犯だとかなんだとかで知られた顔。お尋ね者だ。彼らから血・・は流れていない。あくまで叩かれ気を失っているだけのようだ。薄茶の髪の人物はくるりと振り向く。
「ロー君かっこいい~♪」
振り向いた顔は見慣れた笑顔。そう、厄介者の魔法使いフィーリのほかにいなかった。
白いシャツを一枚羽織り、その上から丈の短い薄い水色のカーディガン。そして、足元は秋口・・というよりは春めかしい桜色と乳白で染められたチェックのミニスカートに紺のハイソックスと完全なまでの女装をしている。もちろん、その姿で初めて見た人に男か女かと尋ねたら「おしとやかな女性」と答えそうなほどの出来である。そんな相方の様子にため息を付きながらもロジェは刀を鞘に納めた。
「これ~どうするの~??」
「警察に届けて御礼金もらう。もらえなきゃ今夜は野宿だ」
「それは嫌だなぁ~」
少し皮肉交じりに言ってみたがフィーリには聞かなかったようだ。
何故俺たちがちまちまと賞金稼ぎじみたことをやっているのか。それはこの魔法使いに全ての原因があるのだった。
「ごめんね~僕いっぱい食べちゃったからさ~」
あははは~とフィーリが申し訳なさそうに笑った。この一言の通りだ。後は深く語りことはない。というかロジェが語りたくない。
「行くか」
気絶している彼らの手首を手ごろな布などで縛った後、俺は腰を上げた。流石にこの四人を担ぐことは出来ないので、警察へ行って捕らえてもらうのだ。
多少金額は少なくなるかも知れないが、だ。
「見事な演技ですね・・女形も完璧だ・・」
ふと声がするほうを見ると路地への入り口に、一人の男が立っていた。影の位置によって男の顔は見えないが声からして、感嘆・・といったようにその場に立ち尽くしている。
「誰だ」
低く少し怒気をこめたような声で男をにらみつけた。ひっ、とおびえたように男は声をあげる。
「待って、ロー君。この人は一般人みたいだよ~」
「わ、私はカリ。カリ=ワーランと申す者です!!あなた達は!?」
「僕ら~?僕らは旅して回ってるもので~・・」
へにゃっと人当たりの良さそうな笑顔で返すフィーリの言葉を遮り、男は興奮気味に言った。
「旅人さん!!なんと!!あなた達何か困っていることはありませんか!?」
ある。そう即答できるほど困っているが・・他人の世話になる訳にはならない。うなずきたい衝動と戦っているロジェを知ってか知らずか。
「あるよ~。まず、この国のお金でしょ~食事に宿、後ね~」
にこやかに指折り数えるのはやめてほしい。そして、それのほとんどフィーリが原因だということも自覚してほしい。
「なら、私が交換条件でその願いを全て叶えます!!」
その話に軽く眉をひそめる。美味すぎる話だと思わないでもない。こちらに利がありすぎだ。裏がないとも言い切れないだろう。
「何と交換なの~?」
「三日後の舞台の出演して欲しいんです!!」
・・・・・・。
「えっとそれって・・俗に言う・・・」
スカウト

by vrougev | 2005-10-17 22:47 | きらきら☆まじしゃん【休止中】