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二話   紙面と舞台と現実と   6

ちょうどそのときのフィーリはというと
「ねぇ、聞いてい~い?何でこの劇には主役とヒロインがいないの?」
色々な衣装の採寸を取り直している最中だった。周りは衣装係と思われる人々がこうでもない、ああでもないと言い合っている。そんな中での問いかけだった。
普通劇などは主役とヒロインを先に決めるものだろう。しかし、この劇は周りの引き立て役などは決まっているものの彼ら二人の役は欠落していた。なので、今フィーリはこうやってひらひらのドレスを身にまとっているのだが・・。
「ヒロインはいたわよ~。もちろん主役もね」
先ほどからフィーリのお話し相手となってくれていた一人の女性が答えた。明るく活発、そして皆をまとめる姉御肌といった感じの人だ。そんな彼女は少し言いにくそうに。
「けど・・いなくなっちゃったけどね」
「もしかして・・これは僕の予想なんだけど、カリさんが主役だった?」
予想・・というのは少し嘘だが。ほぼ確信の上での質問。
「そうよ。よく分かったわね」
「ん~ナレーションはあんなに動きが大きくないでしょ~♪」
こんなことをいうのもなんだが、彼の動きは少しおかしい。日ごろから何かを演じていないとあそこまで大げさにはならないだろう。
「あはは。確かに~」
そういえば、そうね。と女性は裾の長さを図りながら言った。水色の清楚なドレスが僅かに揺れる。水面が揺れるようにそっと。
「なんで辞めちゃったの?カリさんでも似合ってると思うのに~」
「似合っているどころじゃなかったわよ~。あれはもう無駄に男前って感じかしら」
無駄なんだ~と心の中でフィーリは思う。何気に失礼なことをずばっと言うお姉さんだ。
「でもね、彼女が消えちゃったから・・団長は役を降りたのよ」
「彼女??」
「今となっては元クリシア役、アリア=ミタ=ヤアナ。団長の恋人ね」
アリア・・ね。にこやかに微笑を浮かべたままフィーリは思った。

「そのヒロイン役が失踪??」
「あぁ、アリアはこの台本を書いていたんだが・・最後まで書き終わらす前に失踪したんだ。ある日突然な」
「で、それにショックを受けたために主役を降りた・・ということか」
なので、今俺が主役を、フィーリがヒロインをやっているわけか。
「そうだよ、にーちゃんの言ったとおりだ。全く団長もなぁ・・」
おどけたように男は言ったがその目には確かに悲しみを秘めていた。無理もないのだろう。そうは思うがそれがどんな気持ちなのかは俺には量れなかった。
「ま、頑張れや、にーちゃん。俺らも劇の中でお相手させてもらうけどな」
「そうそう、チャンバラシーンはよろしく頼むぜ」
「期待してるからな」
その話題から逸らすかのように劇の中での話題に話を持ってゆく。そういえば彼らは敵の手先のような役だった気がする。
「あぁ」
そう短く一言で返す。それはそれは・・楽しみだ。
「それとにーちゃんの連れ。新しいヒロインの子可愛いな」
飲もうと思い手にとっていたお茶の入ったコップを危うく落としかけそうになった。
「なんつ~か・・清楚な感じで・・笑顔を振りまいているのがなんともいえないしな」
たまらねぇ~と言った様子でこぶしを握る男。
「フィーリっていってたか??俺ちょっと後で話しかけてみるわ」
うきうきとした様子で笑う彼ら。そんな人々に夢を砕くことはいえなかった。というか、呆れて言葉が出なかった。今この場でロジェに出来ること、それはこの場から静かに立ち去ること。コップを持ったまま俺は静かにその場から逃げた。まだその話題は尽きていないようだ。ははははは、と話し声が響いている。
「きっとにーちゃんの彼女なんだろうな~」

「はっくしゅんっっ・・風邪引いたかなぁ??」
「噂されてるのよ、きっと。フィーリ君可愛いからね。うちの劇団の男共は馬鹿だし」
まったくねぇ・・女性は続ける。先ほどの衣装とは違い、今度は旅装束の採寸中だ。
「でも、ロー君は可愛いって言ってくれないんだよ~」
「それは、照れてるからでしょう。男ってそういうもんだから」
「そっかぁ~♪」
この時どこかで大きなくしゃみと悪寒に襲われていた人がいるのは知る人のいない事実である。
公演日まで後一日。

by vrougev | 2005-11-04 01:18 | きらきら☆まじしゃん【休止中】