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二話   紙面と舞台と現実と   10

舞台の上。晴れ舞台。多くの観客が彼らを見ている。物語は着々と進んでいた。
舞台上の魔術師は悲劇の、しかし健気で優しいお姫様を演じている。剣士も同様、無口な商人を立ち振る舞いからなりきりである。
「私はそのような暴言が好きではない」
現在は敵の核なる人物と対峙しているシーンである。静かに、しかし激しさを物語るBGMが流れる。
「はっ、何を。そんな事を言ってもお前には何も出来ないだろう。今姫君は我らの手の中にいるのだからな!!」
敵は笑う。高らかに、そして妙な自信に満ちた悪独特の笑い。それに無言で、表情こそないものの感情の高ぶりを身振り手振りの動作で表す。
「彼女を返してもらおう」
そういってすらりと剣を抜いた。白い粗野な太刀だがよく手入れをされている。
「ほぅ、やるのかね」
そういいながら真紅の槍をすっと取り出す。彼の喉元に勢い良く突き出す。ひらりとそれを交わし、刀を振るう。
がきんっ
剣戟が鳴り響いた。おぉっと言う喚声と息を呑む声が聞こえる。
たまにはこういうのもいいもんだ。
ロジェがそんなことを思いながら刀を振るう。
かんっ、かんっ、かんっ・・がきっ!!
金属音が鳴り響く。刃はお互いに潰してあるものの本物であることには変わりない。
「エルフォード!!」
きゃぁっという短い叫びと共に簡素な旅用のドレスを着た姫が彼の名を呼ぶ。
その次の瞬間彼の頬に赤いものが微かに跳ねた。血、だ。ここまで演出はこだわっている。
「心配するな。すぐ終わる」
くるりと振り返った顔に僅かな笑みを浮かべる。そして、返す力で敵に斬りかかる。
ぐさっ
刀は深々と相手の胸元に傷をつけた。びぃぃという音と共に衣が裂ける。
ぐっ、という敵のくぐもった声の後その場に倒れた。
どさり
「我らの侵略は止まらないぞ」
「関係ないな」
最後まで勝ち誇ったように言った後、頭をもたげた。それからは、ぴくりとも動かない。
「エルフォード!!」
ぱたぱたと舞台の端からかけてくる彼女は必死の表情だ。
「クリシア、怪我は」
「私は平気です。しかし・・その頬の傷・・」
軽く付いていた血を彼女はなでる。そして、その後に彼の両頬を包み込むようにする。
「平気だ」
彼女の手を振り外し、ふっと彼はそっぽを向いた。
「行くぞ」
「・・はい」
そういって二人は倒れている敵を残し、彼ら二人は舞台から去った。
それと同時にライトの明かりがゆっくりと落とされたのだった。

暗くなった舞台では演技ではなく、カリのナレーションが続いている。
「ふぅ~♪楽しいね♪」
軽くかいた汗をタオルで拭きながらフィーリは満面の笑顔だ。
「俺は気が気でなかったぞ」
本番中にあんな仕掛けで・・と小声で続ける。
「後は~僕がちょこ~っとお願いすればいいのかな?」
いってきま~す♪とぱたぱたと駆けていった。

「ねぇ、ちょっといい・・かなぁ??」
二人の男にフィーリは衣装のまま話しかけた。それは、先ほどロジェが叩きのめし、そして数日前にフィーリに淡い想いを抱いていた彼らだった。
「え、あ、なんだい??」
「ん~っとね、カリさんから言われたんだけど、ここで一旦幕を閉めてほしいんだって♪」
にっこりと必殺の笑顔を浮かべながら台本でココの場所~と指す。それはエルフォード一人の語りのシーンの後だ。
「団長に分かった、って伝えてくれる?」
「うんっ♪ありがとぉ~!!」
微笑みに更に輪をかけた。男の表情がでれっ、と一瞬崩れる。
「あの、フィーリさん」
「なぁに??」
「この後お暇があったらちょっと付き合ってくれませんか!?」
目は必死だった。
「いいよ♪暇だったら、だけどね」
そういってもと来た道を返す。これで準備はばっちり、だ。後は本人の問題だろう。
この後に暇はあるか。きっとないだろう。何せ忙しい用事ばかりだ。
「しかし・・ロー君が言ってたことは本当だったなぁ」
女だと勘違いされているんだねぇ~とまるで他人事見たいに呟いた後、思う。
何でロー君はあんなにそっけないのかなぁ??

by vrougev | 2005-11-09 22:37 | きらきら☆まじしゃん【休止中】