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零話   澪標のままに   2

大通りから一本奥まった路地は表とは別世界なのではないかと思えるほどだった。そう思える理由として、まずロジェが思った通りに人がいない。人だけでなく、野良犬や野良猫、鴉の陰すら見えない。周りには今にも切れそうなネオンがついた怪しげなお店が数店だけと流行っていないかがよく分かる。そして、賑やかな繁華街中心部から響き、木霊する声の残像がこの路地の寂しさを一層と飾り立てていた。
そんな路地を一人黙々とロジェは歩いた。どんどんと歓声、歓喜は遠ざかっていき、入れ替わるように夜闇が濃く、深くなってゆく。響く音は足音のみ、となった時ロジェは立ち止まった。
ぴたっ
忍び寄っていた静寂がこの場を完全に支配した。吐息の音すら止まるような緊張感。
「俺に何か用か?」
後ろに立つ影に問いかけたのはロジェ。いつからかずっと後をつけていた者。存在自体は気がついていたが、完全にここではっきりとした。
振り返らず、感情を含まないただただ単調な口調で影に尋ねた。
「気づいてたならもっと早く反応して欲しかったなぁ♪」
影からは間延びした声が聞こえる。見つかって残念がっているような、しかし楽しんでいるような声。声の主はかろうじて男だと分かる。女に聞こえなくもない。
「こっち向こうよ~、“一匹狼”さん?」
今度は尋ねるような声。その声に答えるようにロジェは振り返った。
そこにいたのは・・魔法使いだと思われる男。暗くてはっきりとした姿は確認ができないが髪を一本に縛り、片手には華奢な体つきに似合わないほど大振りな杖を持っている。
「こんばんは♪僕の名前はフィーリ。フィーリ=メ=ルーン」
魔法使いはにこやかな声音でさらに尋ねた。
「“一匹狼”さんのお名前は?」
どうやら首を傾げたらしい。影が僅かに揺れた。
「ロジェ、だ」
ロー君かぁ~と勝手に人の名前を略し、一人で声をあげるフィーリはとても楽しそうだった。無邪気な子供のようだ。今まで見たことないような人種に多少の戸惑いを覚えながらもロジェは腰に下げている剣の柄を握った。
「もう一度聞く。俺に何か用か?」
鋭い口調で尋ねたもののひるんだ様子も焦らす様子もなく、さらりとフィーリは口を開いた。そして、その口から発せられた内容はロジェの想像から外れた意外なものだった。さっそくなんだけどね?と前置きしてからの発言。
「ロー君、僕に雇われない?」
・・話の展開についてゆけず、数秒の沈黙の後
「・・はぁ??」
ロジェはすっとんきょんな声をあげてしまった。あははは、と目の前の魔法使いは笑う。
「もっと詳しく言うと~一緒に各国を巡らないかってことさ♪雇われ、というよりパートナー?相棒??」
一人だと旅って大変だからね~、と杖を振り回しながら言う。
ますます意味が分からない。何で初対面のやつにこんなことを誘われなきゃならないのだろうか。確かにロジェは一人で各国を放浪している。それは、己のためでもあり、とある理由によるためでもあるのだ。
「・・断る」
誰かと一緒にいる気などさらさらなかった。それも、見ず知らずの初対面の男となどと・・だ。
「やっぱりかぁ~。そういうと思ったけどねっ♪」
少しがっかりしたような声音。ロジェは「当然だ」と言わんばかりだったが、これ以上変なことに巻き込まれないうちにこの場を立ち去ろうとした。だが、それはかなわなかったのである。ごそごそという音がした後「ロー君、見て~」フィーリのはしゃいだ声に嫌々振り返ってしまった。こちらに何かを見せるような仕草。
「これな~んだ?」
その声と同時に杖は光を放ち、眩しいばかりの閃光で辺りを照らした。その閃光の中彼の手に握られていたものは・・

by vrougev | 2005-11-12 18:26 | きらきら☆まじしゃん【休止中】