【七周年記念SS】空砲

これは、彼等が旅をし終わった後のほんのちょっと未来の話。




その日は雲ひとつないカラリと晴れた日だった。
まだ長として間もなく、どう動くべきか城内にて日々四苦八苦していた時のこと。
あれは午前中だった。見渡す限りの青色の空に、突然空砲が打ち上がったのだ。
ぱん。
短く、けれども存在感ある音が一瞬にして辺りを駆け巡った。
「何事だ」
聞き慣れぬ音に心当たりなど無い俺は状況を確認しようと執務室を飛び出した。
早足で廊下を歩き、王の部屋へと急ぐ。
敵襲か、緊急事態か、それとも……。
悪い予感や想像ばかりが浮かんでは消えていく中、其れは尚も続いている。
一定間隔にて、ぱん、ぱん、ぱん、と立て続けに弾ける破裂音。
途中、窓から横眼で外を覗くと、白煙がうっすらと広がり風に流れいく様子が見えた。
最上階の突当たり。繊細な金細工の施された見慣れた扉を俺はノックもせずに開け放つ。
やたらと軋んだ音を立てる扉が火急の来訪を知らせる。
部屋の主は窓を開け、外を見ていた。
俺の姿に一瞬だけ驚いたようだったが、直ぐにいつもの人懐こい満面の笑みに戻った。
「どうしたの?怖い顔して」
そんなに僕に逢いたかったの、と王は冗談めいたようにくすくす笑う。
王は……、俺が唯一忠誠を誓った男は真っ直ぐに俺だけを見ていた。
見慣れた笑みと声を聞いて、俺は不思議と落ちつきを取り戻していることに気づく。
いま一度窓の外の空を見上げてから向き直り、改めて尋ねた。
「あの音は?」
「あれはね、空砲だよ。お祝いの空砲。祝砲って言った方が分かりやすいかな?」
「…………お祝い?」
想像とは大きくかけ離れた答えに思わず聞き返してしまった。
「そう、お祝い。祝砲ってあるじゃないか。ああいうのは良いよね」
どことなく嬉しそうな男の表情を見て、俺は身体から一気に力が抜けるのを感じた。
祝砲という考えは全く思いつかなかった。いや、冷静に考えれば分かりそうなものだ。
なんせ、此処は絶対に平和なのだから。
「敵襲かと思った?」
杞憂と安堵と羞恥とその他色々がないまぜになった長い溜息をつく俺を見て男は微笑んだ。
「真面目過ぎ。肩の力の抜いた方が良いよ?……きっと他にも悩んでいるんでしょ?」
返す言葉もなく、最もである。俺の顔を覗きこむように窺ってからゆっくりと男は続ける。
「もっと全て適当でいいんだ。君はこの国に、この城に拘る必要なんてないんだから」
王としての意見なのか。それとも、男としての意見なのか。
どちらにしろ、真意は笑顔で隠され窺えない。けれども。
「……そういうわけにはいかないだろう」
「どうして?」
ああ、愚かな答えだといつも思う。
「俺がお前に囚われているだから」
嘗ての俺なら失笑する回答だろう。
けれど、今の俺にとっては存在理由であり、誇りでもあるのだ。
男はきょとんと一瞬目を丸くしたが、直ぐに堰切れたように声をあげて笑った。
「笑うな」
今更ながら恥ずかしくなりぶっきらぼうにぼやく。言わなきゃ良かったと再び息を吐く。
そんな俺とはうってかわって心底嬉しそうに、男は、フィーリは俺に囁いた。
「ふふ、そう、そうだったね。安心して?何があっても絶対に逃がさないから」
ぱん、と未だ続いている空砲の音に紛れるように祈りを籠めて呟いた。
「当り前だ」



「で、何のお祝いなんだ?」
「当ててみなよ。ロー君も良く知っている日だから」
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by vrougev | 2012-07-24 02:06 | きらきら☆まじしゃん【休止中】