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四話   空白漂流期間   4

その言葉に真っ先に反応したのは他の誰でもなくフィーリだった。
「ロー君は行かないよ」
変に落ち着き払った声で、彼はローブの主をまっすぐと見る。
「ロー君は行かないんだ」
再確認するかのようにもう一度。それはこの目の前の事実から目を背けたかったのかもしれない。先ほどの男の口調のような別人とも取れる声でフィーリはいうのだった。
「だって・・だってロー君はまだなに一つとして関わってはいないじゃないかぁ」
「貴方が関わった時点でもう一つの物語は始まってしまうんですよ」
諭すような男の物腰柔らかな口調に反発するように彼は更に言い募ろうとする。
「だけど!!僕はそうじゃなくって・・」
「あの・・『バード』さん・・」
横から少女が口を挟む。やっと復活したようだ。まだ青年のローブの一部を握り締めてはいる。青年も柔らかなら、彼女は優しさだ。彼らは円い。全てにおいての均一が取れている気がする。
「始まってしまった物語は止まらないんです。ずっとずっと生ある限り続くのは『バード』さんだって・・」
「うん、静ちゃん。僕も知ってるよ。分かってるよ」
なんたって魔術の初歩の心得だもん、と付け足すもその声には全く抑揚がなかった。むしろ連呼するたびにその反対の意味にしか聞こえない。
「俺だけが話が見えてないのだが・・聞いてもいいか、世界の支柱の風と水」
魔法使い同士で専門用語をまくし立てられていても分からない。魔術の徒は少々厄介だ。
彼らだけで納得してしまう節があるから。
「あ、はい・・ロー君、さんどうぞ」
「ロジェ、でいい」
変にフィーリに毒された言葉を直した後、尋ねた。
「お前たちがこの男の元を尋ねるのは必然だったのか?」
数ある魔法使いの中で、よりにもよって何故この男なんだろうか。もっと他にも・・というか魔法使いなんて星の数ほどいる。いや、適性と知恵、そして財力さえあればなんとかなるといわれる職だ。別にこいつでなくても全然いい。むしろ、世界最高峰とまで呼ばれる『CIRCLE』の彼らがフィーリに固執する理由とか何かがあるのだろうか。
もしあったらろくなものではないな。
まぁ、一種確信ともいえるものを胸の奥に潜めながら。
「必然です」
風が揺れ、全てを包み込むかのような声で少女は言った。その語句の後を青年が続ける。
「僕たちと『バード』は基本的には運命共同体ですから」
「はぁ!?」
何故、世界の支柱とこの魔法使いが運命共同体と呼ばれるのかが分からなかった。フィーリのほうを見ると拗ねたように軽く頬を膨らましながら杖を持った逆の手を額に当てている。
「どういうことだ」
更に尋ねたロジェに支柱は優しく切り返す。
「来ていただければ、分かりますよ」
微笑み。一種畏怖のようなものを感じたのはロジェだけだろうか。
「お前たちの信頼がないな。顔も見せないやつの言うことを、簡単に頷けるか」
たとえ、それが支柱だとしても。それはあの、フィーリの知り合いなのだ。
「あ!!そういえばそうですね・・気がつかずにすみませんでした」
目の前の支柱はローブのフードをしなやかな動きでとった。
現れたのは・・黒曜の瞳と髪を持つ年頃の少女。顔立ちは美人・・というよりかわいらしい様子の大きな目が特徴で・・どこか小動物を連想させる節があった。
青年のほうは深い赤茶の髪が光に当たりまるで燃えているように見える。その瞳は慈しみの眼差しが向けられている。誰に。それは・・もういわなくてもわかるであろう。
「いいの?『CIRCLE」は人に顔を知られちゃいけないんでしょ?」
黙っていたフィーリがぽつりとつぶやいた。
「平気ですよ、『バード』。こちらのほうが魔力の開放はしやすいんで」
それに・・、と青年は付け足した。
「ここはもう彼女の結界の中ですから」
彼女の、といわれ上を向く。ごおぉぉぉと音がしていると思ったら・・風が彼らの周りを取り巻いているのだ。結界。いつから入っているのであろうか。
「・・流浪の鳥はここに命ず。風柱の結界の決壊・・」
「さて・・いきましょうか?要の国へ」
その青年の微笑みは偽りない天使の微笑だった。

by vrougev | 2005-12-10 02:34 | きらきら☆まじしゃん【休止中】