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届かぬ葉に乗せたるキモチ   1

「はぁ・・・」
本日の天気。曇りのち雨。薄暗いどよんとした窓の外の風景を壁にもたれながらそれこそ、憂鬱そうな瞳で遠くを見つめる赤茶髪の青年。そうCIRCLEが一人、新田慶之である。
二月某日。バレンタインまで後一週間を切ったこの日、彼が想うのはただ一つなのであった。そう、今年もこの季節が巡ってきたのである。
柄にも無いため息と伏せた瞳からはどことなく泣いているようにも見えのは決して気のせいではなかった。
「どうした、新田」
そんな彼に声を掛けたのはどことなく口元に笑みを浮かべる者。黒髪の黒い瞳は他人の悩みを楽しそうに伺った。手には何か珠のようなものを持ちもてあそんでいる。
「飛鳥ですか・・」
恨めしげに顔を上げ、眉を僅かに寄せたように見えるのも気のせいではないだろう。
彼の悩みはこの男にとって始まり、現在も継続しているのだから。
この物語を語るには二ヶ月前のことを思い起こさなければならない。

二ヶ月前、この城に『バード』が帰ってきた。半ば連行となった部分もあるが、戻ってきたのだ。女装に磨きを掛けて。
実に二年ぶりの出来事である。彼は一人の剣士を伴ってきた。ロジェ=ミラ=クレセントという名の燻銀髪の剣士。また彼は双極の魔剣の片割れなんてめんどうなものを持っていたが、それはこの話に関係が無いので略そう。
問題は彼らといたときの夜に起こったのだった。

「おい、新田」
もう、すっかり夜も中程まで進んでいるとき慶之は廊下で飛鳥に呼び止められた。
「なんですか?」
「今暇か?暇だな?暇だよな?」
尋ねるというよりも押し問答な飛鳥に苦笑しながらも答えたのだった。
「まぁ・・暇かどうかといわれれば暇ですけど」
色々疲れたので部屋に戻ろうと思ったのだが、この様子じゃ戻れないだろう。
しかし、今日は色々あった。早く休みたいのが事実といっては事実なのだが・・。
「まぁ、少し付き合え」
手には大量の酒瓶が握られているところで大まかな予想はつく。ロジェのところで酒盛りでもするつもりなのだろう。CIRCLE内で成人を迎えているのは慶之と飛鳥だけだ。となると必然的に付き合わなければならない。

これが間違いだったと後まで引きずるのは後の祭りでしかないのであった。

by vrougev | 2006-02-05 20:39 | キセツモノ