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届かぬ葉に乗せたるキモチ   3

あの平手の痛さは今でもはっきりと覚えている。好きな少女を怒らせた挙句泣かせたのだ。
もう、好き嫌い以前の問題であるように思える。
そして、あれ以来彼女の慶之への態度がどこかよそよそしい。目が合ったとしてもすぐに視線をそらされ、話しかけても最低限の受け答えしかされない。
もちろん、仕事外のときのみなのだが・・。
「・・おい、新田聞いてるか?」
どうやら飛鳥がなにか話しかけていたらしい。すっかり消沈している慶之にはそんなもの聞こえるわけも無い。
「あっ・・すみません、なんでしょうか」
物思いから顔をあげた。
「お前、一昨年のバレンタインどうしてた?」
どうしてた・・といわれ考え込む。
「一昨年は、仕事でしたね。確か」
「じゃぁ去年は?」
「去年は・・普通に大学の講座に出ていて・・」
そうだ、一人物思いにふけっていたところを彼女は飛んできてくれたのだった。
そして、学生二人を気絶させた。それには色々なわけがあるのだが・・どんだけ驚きうれしかったことか。ほぅっと思わず息をついた慶之に飛鳥はにかりと笑って言った。
「今週末バレンタインだってお前知ってるか?」
えぇ、と答えようとして気がつく。今週末。週末。
「・・・休日にバレンタインですか?」
「あぁ」
うわぁ・・。思わず漏らした言葉にくくくっと意地悪そうに飛鳥が笑う。
「まぁ、頑張れや」
飛鳥は高く持っていた珠を放り投げた。それは空にふっと姿を消す。
誰のせいでこうなってるんだかすっかり棚に上げた飛鳥にはもう他人のことでしかない。
それに対し笑うこともできず、ただただ慶之は困り果てるのであった。

いったい僕はどうしたらいいんでしょうか・・・。

by vrougev | 2006-02-08 23:32 | キセツモノ