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灰色の街の三人の少年

在るところに一人の少年がいました。彼は雑音と灰色に囲まれた街で育ちました。雑音は止むことがなく、灰色はにょきにょきと空にまで伸びていました。空のない街でした。
何故なら空も灰色だからです。
その少年は特に変わったこともない環境で育ちました。家族とも仲睦まじかったですし、たくさんの友達もいました。学校にいって、友達と話して、たくさん笑って、時には泣いて。何不自由ない、それこそ『普通』の少年でした。
しかし、何処の世界でも同じように平穏というのはあっという間に崩れます。
少年は病を患いました。灰色の世界では死の病といわれている治る見込みがないものです。
医師(灰色の世界には治癒術や魔術がないため医者のみが病を治せるとされている)も黙って首を横に振るばかり。もって半年。告げられた言葉に少年の中の平和はこのときまさに崩れたのでした。少年は嘆き悲しみました。自らの生命の短さを呪いました。
次には可笑しくなりました。何をするわけでもなくただ遠くを見つめて長い時間を過ごしました。そして、半年後、彼は生という幕を引き、舞台から降りました。
在るところにまた一人の少年がいました。彼もまた灰色の町で生まれ育ち、『普通』の少年でした。そして彼もまた死の病を患いました。彼もまた嘆き悲しみ、自らを失いそうになりました。しかし、彼は自らの生を何かに残そうとしました。後世に伝わる何かを。彼は一遍の詩集を作りました。半年後、彼は夜空の星へと変わりました。
そして、また一人少年がいました。彼もまた前の少年達と同じく灰色の世界で育ち、死の病に冒されました。少年もまた彼らと同じように嘆き悲しみました。
次の日、彼は冷たい有機物になりました。その首には太い紐が巻きつき、括られていました。
彼は自分自身の絶望したからでした。

これは異世界のお話。三人の少年のお話。同じ世界の同じ病に冒された違う生命の在り方。

by vrougev | 2006-05-15 21:35 | 小話