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重力。

僕はぼんやりと見ていました。
それは有機物でした。
一つの僅かな光のみがこの部屋を照らしています。
無機質な部屋です。


其処は暗いのでしょうか?
いいえ、暗くはありません。
其処は暖かいのでしょうか?
いいえ、暖かくもありません。
では、どんな処なのですか?
空洞です。空っぽの場所には何も生まれません。そして、感じることもないのでしょう。

闇でも光でもない、現世をそのまま写し取ったかのような空洞の中を漂うこと。
それは、私が私自身だと感じることもないの。
もし何かに喩えるならばそれは『無』という言葉以外の何者でもないと私は思う。

では、貴女は『無』なのですか?
さぁ?『世界に存在するこの有機物を知る人間の記憶』という名の『無』かな。
どちらにしろ、それは存在する人間が勝手に名前をつけたものだから。


僕はぼんやりと見ていました。
既に止まった物であり、有機物でした。
一つの僅かな光のみがこの部屋を照らしています。
ちらちらと僅かに揺れました。
無機質な部屋です。僕以外の人物のすすり泣く声が聞こえます。
有機物の上には白い布が仰々しくのせられていました。
誰かがそっと布に手を伸ばしたのでしょうか。布はするりと有機物の上を滑り落ちます。
音も立てず、重力により布は無機物と引き合いました。

彼女が微笑をたたえていました。中身は詰まっているのに、空っぽでした。

人間とは、何でしょうか?
全ての中で一番強くて弱いもの・・・違うね。
そうだなぁ、
最も弱いことを隠し通すのが一番上手い存在だね。


静寂を破り、僕の白衣が、膝が、身体が、心が、冷たい無機質の床と引き合いました。

by vrougev | 2006-05-22 02:26 | 小話