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八話   無垢なる形代   7

「それも魔法か」
「いや、勘だ」
きっと一番怖いのは何よりもこの男だろうと思う。CIRCLEだからとか、魔力が強いとかという問題ではない。それは後から付いた後付程度であろうと思う。
本当に怖いのは人を分かるというところだ。人を惹き付け、理解する、力。
「もう何を頼むかなんて分かっているのだろう」
「なんとなくは、な」
CIRCLEが魔術に対して干渉を受けないのなら、彼らの手を借りればいい。ロジェの考えはこうだった。フィーリに対抗できるほどの魔力の持ち主なら可能かもしれない。
「頼む」
見えていないのは承知でロジェは頭を下げる。
「其処までして護りたい者、か。あいつは頑丈だぞ?見かけによらず」
茶化す飛鳥はやはり全てを見通しているのか。
「護りたい、護りたくないじゃない。被害は俺だけでいい」
「騎士意識か」
「違う」
きっぱりと言い切ったロジェに聞こえるのは笑みを無理やり押し殺した声。
「何がおかしい」
「ロジェ、お前本当に面白いな」
おかしなことを言ったつもりはないのだが。首を捻るロジェに飛鳥は言った。
「いいぜ、叶えてやる。ただ・・」
「ただ?」
「貸し一、な」
実際目の前にいたらウィンクでもされそうな軽いノリにロジェは困惑する。
「あ、あぁ・・」
やるならさっさとやるか~と飛鳥は呟くと、「フィーリを呼んでくれ」とロジェに頼んだ。
言われたとおりにロジェはフィーリを呼ぶとすぐにぱたたた、と子供のように駆けて現われた。顔は笑顔満面である。そのままいつもの定位置と言わんばかりにロジェの首に腕を回す。
「ロー君♪飛鳥とのお話終わったの~?」
「あぁ」
ロジェが持っていた黒漆の杖をフィーリはひょいっと取り上げ、地面に置こうとした・・・らしかった。らしかったというのはその動作は行われなかったからである。
「大気と地の交わり。大いなる女神、マナの加護を受けてこの術を使う」
詠唱の一端だろうか。その言葉によってぴたりとフィーリの動きが止まる。
「飛鳥!?何するの!?!?」
「其れは陽炎に似る儚きもの。此れは幻化への過程。」
「ロー君!?!?」
フィーリと目を合わせたくなくて、ロジェはじっと下を向いていた。足元には何処から這って来たのか今まで無かった大量の植物の蔓が一つの場所を目指して意思を持ち、動いていた。
「新芽が芽吹き、花咲く力を糧にして大地の支柱、紅末飛鳥は命じる」
「ロー君!!!!」
叫びにも似たその声でロジェははっと顔を上げた。瞬間見えたのは蔓に包まれたフィーリだった。丁度最後の一節と同時。
「黒漆、白宝珠五彩の杖の持ち主を我が同胞のいる地へ転移」
「嫌だ、嫌だっ!!ロー君!!!!!!!」
フィーリは無情にも蔓によって阻まれ、そしてフィーリ自身も見えなくなった。
暫くして蔓の呪縛が解けたとき、見知った女の姿をした男は消えていた。
残っていたのは何十本かの炭になった蔦と深緑のような鈍い光を放つ魔方陣のみ。

by vrougev | 2006-10-04 22:45 | きらきら☆まじしゃん【休止中】